期待の1年が戦況を変える
今の恋風の悪い流れをどうにか断ち切ろうと、必死で考えた結果だった。
まさか僕の考えをそのまま採用してくれるとは思わなくて驚いたけど、真理華さんが準決勝で高校サッカーのデビューを迎える。
余計な事を言ったかな……?
よくよく考えたら今かなり厳しい状況での試合だし、酷い提案をしちゃったのかも!?
「真理華さん、勝手な提案をしてゴメン」
今更ながら僕は彼女の意思を聞かずに出場を勧めた事が悪いと思って、頭を下げた。
「何故謝るのですか? 神兎君の考えは合ってます。空川は私のプレーをまだ研究していない、そこで混乱が生じるかもしれないと。今の状況を覆すには良い采配ですから」
「采配って監督みたいだなぁ……」
僕が監督なんて絶対出来ないし、高校1年の監督は多分全国広しといえど居ないと思う。
「真理華さん、頑張って来て……!」
「ええ、勝って来ますので大丈夫です」
真理華さんは特に緊張してない様子で準備を進め、背番号21のユニフォーム姿になっていた。
1年とは思えないぐらいに堂々としてて凄い。
僕が同じ立場だったとしたら、急な出場で心臓バクバクだったかも。
ハーフタイムは終わって皆がフィールドへ戻ると、真理華さんも公式戦の舞台へ足を踏み入れていく。
☆
後半戦のキックオフから試合は相変わらず空川が優勢と、今の所は真理華さんの投入で影響は確認出来ない。
真理華さんは中盤のボランチで、咲月先輩とダブルを組んでいる。
基本的に恋風はダブルボランチという構成だ。
空川は中盤でパスを素早く回し、左サイドから展開。そこで切り込むと見せかけて、再び中央へ折り返す。
このサイド攻撃をフェイクにして、中央突破を狙ったりシンプルに両サイドから攻めたりと、多彩な攻めを繰り出してくる。
「あ!」
僕は目の前の光景を見て思わず声を上げた。
中央への折り返しを真理華さんが読んで、パスをカットしたんだ。
そこから真理華さんは右足で左サイドへロングパスを送ると、空いてるスペースに花音先輩の走る姿が確認。
攻撃してる直後にボールを取られたから、空川のサイドはガラ空きで花音先輩へのマークは無くて、ボールに追いつくとドリブルで上がっていく。
ゴール前チャンスだ!
「行けぇー!」
僕は叫び、花音先輩は相手のエリア内に侵入していた。
莉音先輩がマークされてるけど相手を引きつけて、パスが出る。
そこには狼憐先輩がボールへ向かい、右足のワントラップからDFを躱して左足でシュート。
空川のGKが手を伸ばすも届かない。
ゴールネットが大きく揺れ動き、恋風が先制点を決めた。
「やったぁ!」
僕以上にベンチで神坂先生がガッツポーズで喜び、勿論僕も嬉しい。
「「狼憐先輩ナイスゴールー!!」」
僕の声は守華さんと重なっていた。
真理華Side
サイドからのクロスと見せかけて中央の折り返し、直前に中央の選手を見ていたから来るなとは思っていた。
その通りに来てくれたので読みは当たり、これが先制点となって恋風に流れがやってくる。
此処まで優勢に試合を進めていたはずの空川だけど、彼女達の歯車は此処で狂ってもらおう。
「ナイスカット真理華さんー!」
ベンチから私に声を掛けてくれる神兎君の声援がとても心地良く聞こえる。
試合が進むにつれ、プレーが段々と単調になってきて読みやすい。
抜け出して来たボールを持つ相手に、私は厳しく肩からぶつかりバランスを崩させる。
身長差があるのでパワー差もあるだろうから、その利点は遠慮なく利用した。
セカンドへの嗅覚が優れてるのか、護影先輩が転がっていく球を取って恋風がボールをキープ。
後半に入って自軍キーパーに活躍させないのは良い。
GKが好セーブ連発なのは追い込まれてる証拠なので、その前に止めるのが守備の理想。
無駄な負担は、かけないに越した事はないと教えられて来た。
「カウンター!」
守矢先輩の元気な声が響き、彼女は上がっていく。
これを見た私は残って、止められた時のカウンター返しに備える。
1ー0とリードしている今となっては、無理に攻める必要は無い。
ボランチは攻守のバランスを取るのが命なのだから。
「ダメ押し行けー!」
ベンチから神兎君の声が聞こえて後押しされるように、攻撃陣が凄い勢いで(特に3人)空川ゴール前へ迫る。
ゴール前で双子の姉妹が上手いワンツーで相手DFを翻弄すると、莉音先輩が抜け出してシュートを放った。
相手GKは飛びつくも取る事が出来ず、ゴールネットは1点目の時と同じく再び揺れ動く。
「莉音ナイスゴールー!!」
私の後ろで大花先輩の大きな声が鼓膜を破るような勢いで来る。
守護神のコーチングは大事で良いけど、それにしても大声で煩いぐらいだ。
この2ゴールで恋風が完全に流れを掴み、前半で空川はシュートを多く放っていたのが嘘なぐらい。
後半は0本のままで彼女達の反撃を許さず完封。
恋風は決勝進出を決めて、部員達は喜んで神兎君もその中に居る。
私は彼の喜びが見れた事で不思議と心が躍っていた。
彼をもっと喜ばせたい、私だけを見てほしいと独占欲のような思いを抱えながら。
そして私は密かにスマホをチェックすると、反対サイドの円帝は5ー0で決勝進出を決めているのを確認。
母や姉の居る円帝女学院とインターハイの東京予選決勝を戦うことが確定された。
恋風2ー0空川
狼憐
莉音
マン・オブ・ザ・マッチ
守神真理華




