迫力ある先輩を説得のつもりが
「どうした、俺に何か用事でもあるんだろ?」
「あ、え……あの……サッカー部……」
凄く睨まれて上手く声が出ない、こんな鋭い目をする女の人は記憶の限り見た事が無かった。
これが3年の守山先輩って……!
見た感じはワイルドな美女で格好良いと同時に綺麗、だけど迫力ある眼力の前に僕は完全に呑まれてしまう。
「何この子? 狼憐の姉御に気があるとかぁ?」
「可愛い顔してんじゃん、男子の制服着てるから男子だよね?」
「女子の制服着せた方が似合いそうかもー!」
僕の周りを守山先輩の周囲に居た3人の女子生徒が取り囲む。
さっきの男子サッカー部での出来事を思い出すけど、あの時と違うのは香水なのか甘い匂いが漂ってくる。
此処までの女子に今まで集まって来た事が無いし、益々緊張して上手く言葉が出せなくて詰まってばかり。
これじゃ先に進めない。
「はいはい、ちょっとゴメンー」
突然僕の腕が強い力で引っ張られると、気づけば守華先輩の後ろに僕は隠れていた。
「何よあんた?」
「通りすがりの女子サッカー部員ですけど何かー?」
周りの女子達の雰囲気がピリつく物に変わって、守華先輩を睨んで来る。
その本人は全然動揺する事なく、堂々としてる感じだ。
「女子サッカー部……?」
守華先輩の言葉に守山先輩が反応をみせた時──。
「ゴメンなさい守山先輩! 2人は新しく入った部員とマネージャーです!」
そこに守矢先輩が3年の先輩に駆け寄って頭を下げる。
「咲月か、新人の2人を自慢しに俺の元へ来たのか?」
「いえ……女子サッカー部に戻って来てほしいと思って来ました」
守山先輩の鋭い眼光に真っ向から目を合わせる守矢先輩、戻って来てほしいと願いながら僕はその場を見守る。
「あの監督はいなくなりましたし、もう何も心配なくサッカー出来るんです。部員達も増えたから……!」
「……」
守山先輩は守華先輩、そして僕の方をじぃっと見た。
何か僕を見る時間が長く思える気がするけど……気の所為かな?
「こんな男子が居たのか……」
小声で呟いたみたいだけど、何か情けなく思われてるのかも……!?
「近過ぎませんかね守山先輩ー?」
「ああ?」
そこへ僕を守るように守華先輩が前に立って、まるでバチバチ火花が起きそうな睨み合いが起こる。
2人とも同じぐらいの長身だから迫力が凄いよ……!
「もう先輩はサッカー部じゃない部外者なんですから、うちの大事なマネージャーに近づかないでもらえません?」
「え、ええ!? 大花さん、ちょっと!」
説得に来たのに喧嘩売ってる!?
これには僕だけじゃなく守矢先輩も慌ててしまう。
「お前、サッカー上手いのか?」
取り囲んでいる女子達を制して、守山先輩は鋭い眼光を向けながら守華先輩に問う。
「少なくとも先輩よりは確実に上手いと思ってますけど何か?」
「はぁ!? 狼憐の姉御がサッカーどんだけ上手いのか知らないでしょ!?」
「部に居た頃は不動のエースストライカーで天才って騒がれた時も──」
「黙ってろ!!」
守華先輩の挑発で周りに居た女子達が騒ぎ出し、それを守山先輩は一喝で黙らせていた。
というかFWだったんだ……確かに背が高くてヘディングとか強そう。
「へぇ、先輩ってエースなんだ? それも天才、凄そうじゃん」
どれだけ度胸があるのか、守華先輩は強気そうな笑みを見せる。
僕だと絶対ああいう事は出来なくて、ただ修羅場にどうしようと慌てるしかない。
「そんな自信あるなら俺と勝負してみるか?」
「勝負?」
煽られた守山先輩は冷静な様子で、とりあえず殴り合いの喧嘩は無さそうだ。
まさか勝負が殴り合いの喧嘩じゃないよね!?
「大花って言ったな、お前のポジションは何処だ?」
「昔っからずっとGKだよ!」
そう言えば聞いてなかったポジション、身長やリーチとか大事だからGKは長身の守華先輩に合ってる。
「そうか、なら分かりやすい勝負が出来るな。FWの俺とPKでの対決、お前が勝ったら望み通り女子サッカー部に戻る」
「本当ですか!? あの、先輩が勝った時は?」
対決で勝てば守山先輩がサッカー部に戻ってくれると聞いて、守矢先輩が顔を輝かせるも負けた時の代償が気になって聞く。
「そこの男子を貰う」
「!?」
守山先輩が指差す先には僕が居た。
え、男子を貰うって僕が貰われるの!?
舎弟にしてパシリにしまくって馬車馬のように働けって意味!?
「……良いですよ先輩、ただそれは100%あたし勝ちますけどねぇ……!?」
何故か守華先輩から強い殺気が漂うと、笑ってるけど守山先輩に負けないぐらいの迫力が感じられた。
まるで竜と虎の睨み合いだ。
☆
女子サッカー部のある屋敷の近く、そこにサッカーグラウンドはあった。
あまり手入れはされてなくて、ボコボコしてるフィールドは良好と言えないけど、校内の方は男子サッカー部が使ってるから此処でやるしかない。
守華先輩と守山先輩の2人は着替えて桃色のジャージ姿になると、守華先輩はキーパーグローブを身に着けている。
不思議とサッカーで向かい合う2人は一段と凛々しく見えた。
「ルールは俺がシュートを3本放つ。それで1本でもセーブする事が出来たらお前の勝ちだ」
守山先輩から対決のルールを説明、PKはペナルティエリアの中でキッカーがゴールに向かってシュートする。
GKは近距離で止めなければいけない。
キッカー側がPKで圧倒的に有利と言われてるから、問題無いルールだと思う。
「そのルールは駄目ですよ先輩」
ただ、守華先輩は納得してない様子。
何か問題でもあったのかな?
「あたしから1本でも決めたら勝ち、そっちの方がフェアだと思います」
「!?」
僕も含めて全員が驚く。
1本でも止めたら勝ちのルールから、更に厳しい方を自分に課してきた。
「あの子何考えてるの!? 自分の首をわざわざ絞めるなんて!」
「ただの無謀なバカ女だっての! 狼憐の姉御やっちゃえ〜!」
「大花さん無茶だよー! 駄目だからー!」
取り巻きの女子達や守矢先輩の声がする中、僕も無茶だと思っている。
PKを3本連続セーブなんて、余程のPKストッパーじゃないと無理だ。
「お前……変更はもう出来ないぞ?」
「する気は無いんで何時でもどうぞー!」
両手を下げる独特のフォームを取ると、守華先輩はゴールマウス前で身構えた。
守山先輩は一段と鋭さの増した眼光をゴールへ向けてから、ボールをセットして少し後ろへ離れる。
短い助走から守山先輩の右足がボールを捉えると、速いスピードで飛ばされた。
「せぇい!!」
バシィッ
僕から見てゴール左に飛んだシュートに守華先輩が反応していた。
横っ跳びから両手を伸ばして、セーブする姿が僕の目に焼き付く。
「っ!?」
「よぉっし! 1本目ー!」
目の前で行われるPK勝負に、何時の間にか僕の目は釘付けとなって胸が熱くなる。
この時の僕は勝った時や負けた時の事を忘れて、ただ夢中で2人のPKを見守っていた。




