静かなる女子の覚醒
「準々決勝の相手は美坂学園。相手の司令塔、2年の遠藤白実から繰り出されるパスから多くのゴールが生まれ、攻守のバランスが取れたチームで東京予選の中でもレベルの高いチームです」
準々決勝の会場、そのロッカールームで今日は僕じゃなく真理華さんから対戦チームの情報を話す。
「彼女は積極的にスルーパスを狙って来る所があるので、DFはラインのコントロールに何時もより気をつけた方が良いです」
よく調べていて情報が僕より正確に伝えられてる。
情報収集が本当に凄い。
事前にスルーパスの対策は練習してきたけど、それは何処まで行けるのか、相手の攻撃をいかに止められるかが今日は鍵になりそうだ。
「よし! じゃあ本日の試合も頑張って行きますか!」
キャプテンの咲月先輩はパンッと手を叩き、それが合図になって皆がアップの方へ向かう。
「何時もは僕がやってたけど、真理華さんがやってくれて正直凄く助かるよ。ありがとう」
「小平君は普段からマネージャーの仕事に加えて、コーチとして教えたりしてます。1人で全部やるのは非効率的なので私がやって問題ない物はやらせていただきました」
そう言って眼鏡を上げる彼女は仕事の出来る女性みたいに思えた。
社会に出てもエリート社員として、やっていけそうだ。
もっと僕もしっかり頑張って足を引っ張らないようにしないと……!
☆
試合会場は初戦の頃よりお客さんが入ってきて、恋風を応援する人も勝ち進む度に増えてくれてる。
「美坂ー!!」
「打倒、恋風ー!!」
それでも相手の応援する声が多く、向こうの大きな声援がベンチの僕からも聞こえた。
だったら僕も負けずに声を出して応援する。
「恋風ファイトー!」
フィールドでキックオフを迎える選手達へ、僕は精一杯の声を出した。
ピィ────
恋風と美坂の試合開始を告げる笛が鳴り響き、ボールを取った美坂が中盤で繋ぐ。
ベスト8まで来ると相手も此処まで勝ち上がってきただけあって、パス回しが上手い。
美坂が守華先輩の守るゴールマウスに迫って来た。
「!?」
チャンスになると思った時、月夜先輩がパスを読んだのか足を伸ばしてボールを弾く。
零れて転がっていく所を咲月先輩が拾って、美坂の攻めを1つ凌いだ。
「月夜先輩良い守備ー!」
これは月夜先輩が上手く相手の攻撃を潰してくれたと、僕は彼女へ言葉を送る。
恋風も反撃に出るけど美坂の守備は堅く、中々つけ入る隙を見せない。
此処まで勝ち上がって来るとゴールも簡単には決まらず、それだけ相手のレベルが高くなっている証拠だ。
莉音先輩の右サイドからのクロスが相手DFに当たると、ボールが跳ね返って美坂がセカンドを取る。
「カウンター!」
今叫んだのは要注意とされてる遠藤さんかな?
相手の速攻が発動して恋風ゴールへ再び迫り、ボールはその遠藤さんに渡った。
ヤバい、スルーパスが来るか!?
遠藤さんは恋風DFとGKの間に空いたスペースを狙い、そこに浮き球のパスを出す。
そこに相手FWが抜け出してしまう!
ピィ────
すると主審の笛が吹かれ、僕が線審の方を見ると旗が上がっていた。
ボールが出る前に相手が恋風DFより前へ出たから、オフサイドの反則を取られたんだ。
かなりヒヤヒヤするけど、スルーパスをオフサイドで潰すのは有効。
失敗したら大ピンチと諸刃の剣を選択する辺り、うちのDFは結構度胸が凄い方だなと思う。
「あ……!」
その時、ボールを持って素早くセットした月夜先輩が左の花音先輩へロングパス。
これは意表を突く速いリスタートだ。
不意を突かれた美坂DFは花音先輩の左からのドリブル突破を許し、あっという間にゴール前へ攻め込む。
左サイドの低いクロスが花音先輩から出て、それに合わせたのは中央に切り込んでいた莉音先輩。
左足のダイレクトボレーで蹴られたボールは矢のような勢い。
相手GKが一歩も動けないまま、美坂ゴールネットは大きく揺れ動くと恋風の先制点が決まる。
「莉音ナイスゴールー!!」
GKとしての反応が此処でも活きたのか、守華先輩は瞬時に称賛の声を飛ばしていた。
準々決勝でも僕達が先制、これが生まれたのは月夜先輩のプレーからだ。
「月夜先輩ナイスプレー!!」
僕は頼もしいDFへ声を掛ける事を忘れない。
白実Side
恋風は監督が逮捕されて騒動になったって聞いて、噂じゃ廃部寸前とか言ってたのに。
それが本当なのか疑ってしまう。
だってプレースピード速くてキックも1人1人上手くて正確だもん!
廃部は絶対嘘でしょ!?
FWの守山とか中盤の阿佐護姉妹とか、あれ相当なレベルの高さだし中盤もキャプテンの守矢が結構動き回ってて、プレー範囲広めで何処でも顔出してくる感じするから!
それよりもDFの長身で黒髪の人が不気味過ぎる……。
さっきから良い読みをしてきて、私のパスが全然通らない。
スルーパスを狙って蹴るけど──。
「オフサイド!」
もうー、またオフサイド!?
1本ぐらい通ってほしいのに、全く通してくれないよ!
「フフ……フフフフ……フフフフフフ……!」
気味が悪い笑いしてくるんだけとこの人!?
藁人形とかで呪って来るの止めてよー!
結局この試合、遠藤自慢のパスはまともに通らず月夜を中心とした守備陣が美坂を完封。
攻撃では莉音に続いて狼憐もゴールを決めて追加点。
試合はこのまま終了を迎えた。
「ふうん……恋風ねぇ〜」
その時、ショートボブの赤髪の長身女性がフィールドの選手達を見て呟く。
赤いノースリーブのシャツにジーンズ、手にはカメラを持っている。
選手達を見た後、彼女の目は選手達へタオルを配るマネージャーへと向けられていた。
恋風2ー0美坂
莉音
狼憐
マン・オブ・ザ・マッチ
護影月夜




