新たな部員
「サッカー部、入部させてください! 公式戦で先輩達の活躍する姿に痺れました!」
ボロ屋敷だったサッカー部の部室に女子生徒達がやってきて、入部届を提出してきた。
彼女達は僕と同じ1年みたいだ。
「いいよ、ようこそ恋風女子サッカー部へ♪」
キャプテンである咲月先輩は笑顔で新しく入る女子達を歓迎し、入部を認める。
新しく入る彼女達を見ると、僕が以前に男子サッカー部へ来た時の事を思い出す。
もし入部してたら女子サッカー部の方はどうなってたか、僕は男子サッカー部で上手くいったのか、それともまた補欠以下になってたか……?
けど、今が楽しいからマネージャーになったのは正解だと思う。
改めて僕が女子サッカー部で頑張ろうと決めた時──。
「失礼します」
そこへ先程とは違う、新たな女子らしき声が部室の扉越しで聞こえてきた。
部屋へ入って来たのはスラッと背が高く、紫のロングヘアーの眼鏡をかけた女子だ。
「はじめまして、入部希望の方ですか?」
「はい」
見た目では学年が分からず、上級生の可能性も考えて咲月先輩は敬語で接する。
入部希望者らしく、眼鏡の女子は短く返事を返す。
「こちらへどうぞ」
僕が椅子へ座るように促すと、彼女は礼儀正しく座った。
この時、僕をなんかじぃっと見てきた気がするけど……気の所為かな?
「私、1年の守神真理華と申します」
背が高くてしっかりしてると思ったら、僕と同じ1年……人は見かけに寄らないなぁ。
って、守神……!?
何か凄く聞いた事のある苗字が出て来たんだけど!?
「え、あ……あのー? 守神ってひょっとして円帝の方にいる監督とか選手に関係してたり……?」
咲月先輩も気づいたみたいで、戸惑ったような顔を見せている。
そうなる気持ちは凄く分かるよ!
「はい、守神叶は私の母で芹華は私の姉です」
戸惑ってる僕達と比べて真理華さんは冷静沈着という感じで、僕達と話している。
堂々としていて同じ1年とは思えない。
けど、何で家族と同じ名門の学校に来ないで僕達の学校へ入学してきたんだろう?
聞きたいけど部に入る志望動機とは関係無いよね……複雑な事情が絡んでるかもしれないし。
「ええと、じゃあサッカーの経験についてはどうかな?」
コホン、と咲月先輩は気を取り直して真理華さんのサッカー経験について問い掛けた。
「物心つく前からボールを蹴るようになり、本格的に始めたのは小学校へ入る前。入学してからはジュニアサッカーのクラブのチームで中学卒業までプレーしていました。ポジションは主にボランチと、後はCDFも少々」
右手でクイッと眼鏡を上げる仕草をしつつ、真理華さんは経歴について話す。
ううん、なんていうかサッカーエリートみたいだなぁ。
眼鏡をかけてるせいか、頭も良さそうに見えるし。
最近入部してきた人達は先輩達の試合する姿に憧れて、とか昔ちょっとサッカーやってて嫌な人いなさそうだから良い、とか大体そういう人が多かった中で、これはインパクト強めだ。
「へぇ〜、凄いなぁ〜」
気の所為か咲月先輩の目がキラキラ輝いてるように見えた。
確か芹華さんに憧れの視線向けてた気がするから、その妹さんにも大きな期待を向けてるのかも。
「こちらのサッカー部へ入部する切っ掛けは、以前この学校で行われた円帝女学院との練習試合を拝見しまして、それを見た結果このサッカー部は勝てるチームと判断し、最近の公式戦2試合を観戦してから確信へ変わった事で入部を決意しました」
「は、はぁ……見ていただきありがとうございます……」
色々と理由を述べてもらい、押されっぱなしになりながらも僕はガッツリと見ているであろう真理華さんに、お礼を言う。
「こちら、入部届の受理をお願いします」
「あ、はい……!」
咲月先輩もペースに巻き込まれてるみたいで、真理華さんからの入部届を受け取る。
「じゃあ神兎君、練習戻るから案内よろしくね!」
「分かりました」
練習の合間に入部希望者が来ていて、それが終わると咲月先輩は練習の為に一足先にフィールドへ戻っていった。
「ええと、では真理華さん。練習場へ案内しますので、行きましょうか」
「……小平神兎君」
「は、はい?」
急に真理華さんから名前をフルネームで言われて僕は戸惑ってしまう。
名前は多分守神監督か芹華さん辺りから聞いたかな、あの人達と打ち合わせの時に名乗ったし。
「君は私と同じ1年と聞きました。同級生なので、少々言葉が固すぎでは?」
「あ……すみません、あ、ゴメン……」
雰囲気とか身長とかで年上って勝手にまだ思ってるせいか、言葉がつい敬語になっちゃう。
真理華さんも僕に相当丁寧だけど、普段からそうかもしれない。
とりあえず僕は、もう少し砕けた感じで話す事にした。
「クラブチームに入ってた経験あって凄いよね。公式戦も出たの?」
「東京アウラ・ガールズに所属して全国出場を経験しました」
「全国……!」
今の僕には全く縁の無い、雲の上のような世界。
自分にとって憧れだけど全然手の届かない領域へ、真理華さんは届いていた。
「凄いなぁ……」
「高校はどうかるか分かりません。中学よりも試合時間が20分長くなり、大会の決勝によってはプロと同じ90分と過酷な試合が続きますので」
確かに小学校から中学、そこから高校と上がって今まで経験してきた環境はガラリと変わってくる。
自分が全国を経験してるからと、偉ぶる事なく冷静に違いを見てる辺り、本当に勉強して考えてるんだなぁ……。
凄く美人だし、スタイルも良い……って変な目で見ちゃ駄目だよ僕!
真理華Side
母上や姉上が言ってた通りの人物だった。
小平神兎、彼は礼儀正しくて心優しい。
それは話していて分かる。
不思議と心が暖かくなって心地良いと思う自分がいる。
あの円帝との練習試合や公式戦で一生懸命に声を出したり、水やタオルを用意して動き回っていたりと、凄く好ましい。
それと同時に私の中で彼が欲しいという、強い気持ちが芽生えてしまう。
母上や姉上が彼に好意的なのは分かっている。
でも、私は私の道を行く。
何時までも母の娘、姉の妹、と呼ばれてばかりの私じゃないから。
その第一歩が学校の外れにある、小さな寂れた屋敷みたいなサッカー部への入部。
随分と独特で他の学校じゃ見ない場所と建物だった。
「ほら、真理華さん。あそこが皆の練習してるフィールドだよ」
彼の指差す先を見れば、あまり綺麗とは言えないフィールドで練習している。
此処が今日から私のホームとなるか。




