練習試合 恋風VS円帝5
「え、や、やった! 先制! 狼憐先輩ナイスゴールー!」
目の前の光景に僕は興奮していた。
押されていたはずの恋風が咲月先輩のカットから花音先輩と莉音先輩が繋ぎ、鮮やかな中盤の守備から連係が円帝に綻びを出させたのかもしれない。
そこからゴール前へのスルーパスに狼憐先輩が抜群の飛び出しで、DFラインの裏へ抜けてGKと一対一。
相手DFと競り合いながらも、右足の力あるシュートが円帝のゴールネットを大きく揺らす。
恋風が新体制となってから初めてのゴールを決めたのはテンション上がるって!
それも格上どころかトップクラスのチーム相手に!
「あ……!」
そこに雰囲気の変わる円帝選手達が見えて、それぞれが本気になるのを感じた。
点を取られてスイッチが入ったのかもしれない。
「気を抜かないで皆! 集中してー!」
ゴールが決まった直後こそ失点の危険がある。
特に相手が格上のトップクラスなら尚更だと思うし。
僕はフィールドに立つ選手達へ気を引き締めるように伝えた。
芹華Side
まさか恋風に先制されるとは想定外だ。
あの10番から7番と8番の流れが敵ながら良い攻守のプレーを見せ、しっかりとチャンスを決められてしまう。
燐火のチャージを受けながら、あそこまでのシュートが出来る11番のフィジカルは驚愕に値する。
あのGKや6番と守備が良いチームだと思ったが、攻撃陣も良い選手が揃っているとは。
「1点で済ませるな、2点を取って逆転。そこから更に追加点を重ねる」
私は皆へ伝えた。
恋風をこのまま勝たせるつもりなど無い。
練習試合とはいえ我々、円帝が負ける事は許されん。
いかなる時も冷静であるよう心がけ、チームを勝利へ導く。
それが円帝キャプテンとしての役目だ。
再びキックオフで試合が再開され、ボールを繋ぐ。
ほぼワンタッチでボールを回して、私の側には先程パスをカットした10番が付いて走る。
このまま封じられて終わる気は無い。
私はパスが来た瞬間、相手より素早く反応して動き出し、相手より先にボールを取る。
「!」
そのままドリブルに入ろうとした時、私の足は止まった。
行けば取られるという予感が伝わったからだ。
目の前には見事なワンツーを見せた7番と8番の姿があり、彼女達も中央の守備に参加していた。
だが甘い。
2人がサイドの選手というのは分かっている。
そこを放棄して中央へ寄せてきたという事は、両サイドがガラ空きになっているはず。
私は2人の姿を見据えた状態から、左足の外側で左サイドへボールを転がす。
「サイドガラ空きー!」
小平君が気づいて皆へ伝えているようだが、もう遅い。
パスを送ってから私は恋風のボックス内へ入り、左から飛んで来たクロスに向かう。
私の胸辺りでヘディングやボレーのシュートもし難いが、問題無い。
左足を高く上げてのダイレクトで合わせにいく。
「っせぇい!!」
「!?」
突然現れた拳がボールを弾き出す光景に私は驚いてしまう。
あのGK、此処まで飛び出してパンチングでクリアするとは大胆過ぎる!
だが、まだだ。
飛び出して来たならゴールマウスは無人でロングシュートが入るチャンス。
誰かが取ると目を向けるが、取っていたのは先制点を決めた長身のFW。
彼女も此処まで戻っていたのか!
「皆良い守備! その調子ー!」
小平君の声はよく聞こえる。
向けられているのは無論、私ではなく味方である恋風の選手達だ。
正直聞いていて羨ましいと思ってしまう。
「任せてー! バッチリ守っちゃうよー♪」
GKの女が小平君へ笑い掛けて声援に応える忌々しい姿。
その時、私は彼女に気づく。
彼女がアメリカの名門女子サッカークラブで活躍していた、大花守華である事に。
1点を取り返そうと円帝は何度も恋風ゴールへ迫るが、前半よりも守備へ積極的に参加する花音、莉音の双子姉妹や咲月を中心とした中盤が守る。
危ないシーンも月夜が相手に気付かれないよう、忍び寄って攻撃を未然に防ぎ、狼憐も前線でクリアされた球を拾ってキープ。
そして守華がゴールに立って何度もシュートを受け止め、時には大胆な飛び出しを見せて防いだりと、好セーブを連発していた。
「(守備で貢献しまくって神兎君に声を掛けられたい!)」
「(月夜先輩や守華に1番活躍とかさせないから! あたしのおかげで勝ったってさせたいし!)」
「(俺が決めて俺が守れば、あいつはより見てくるだろ! そこから進展させる!)」
「(……守りきって……神兎君と……フフフフ……!!)」
「(同点とか許して神兎君をガッカリさせたくないし! 勝って喜ばせられるなら相手が東京女王でも世界女王でも勝つんだから!)」
フィールドに立つ、それぞれの女子達は1人の男子の為と、結果として皆が奮闘したり連係して、東京女王を相手に守り続ける。
そして試合はスコアが変わらないまま、終了の時を迎えた。




