東京女王がやってきた
「おいおい、本当にお前らが円帝とやりあうのかよ?」
「絶対に調整相手間違えてんだろ」
練習試合の当日、男子サッカー部は今日サッカーグラウンドを使わない。
その日に合わせて、恋風女子サッカー部の練習試合は行われるように話し合いで決まる。
生徒達に混じり、男子サッカー部の一部が練習試合を見に来ていて、その中には僕の入部を拒否して追い出した人達もいる。
その人達から見れば廃部寸前だった僕達が、東京女王と練習試合出来るのが信じられないらしい。
「フルメンバーだったら円帝、何点取れると思う?」
「2桁は硬いんじゃね? 完封は確定として、まぁ20点取れるかどうかかな」
僕達が勝つ事については全然考えてないみたいで、どれくらい円帝が差を付けて勝つかの予想が飛び交っていた。
酷いな……皆勝つ為に一生懸命練習してるのに。
確かに圧倒的な強さがあって向こうが格上なのは分かってるけど、サッカーは何が起こるか分からないし優勝候補がまさかの敗退!っていうのを家で毎年、男子高校サッカーの選手権で見てきたから。
「あの、皆さん。周囲の声とか相手とか気にせず、何時も通り落ち着いて行きましょう」
マネージャーとして僕は試合をする部員達へ声を掛け、チームを動揺させたりしないよう努める。
「気にしてないよ? そりゃ試合前の予想はチャンピオンに傾くもんだろうし」
「むしろ試合前に俺達が勝つとか皆言ってたら、それこそ変だろう」
守華先輩や狼憐先輩だけじゃなく、思ったより周囲の声を皆が気にする様子は無かった。
こういうメンタルって女子の方が強いのかな?
とにかく圧倒的な格上が相手でも頼もしい選手達だ。
守華Side
周囲は東京女王である円帝が勝つと思ってる。
何点取られるとか、そんな予想をしている男共の声があたしの耳に聞こえていた。
別に厳しい声はアメリカで散々聞いてきたし、あたしにとっては当たり前の光景で、なんとも思っていない。
むしろ神兎君が選手達を心配して声を掛けてくれた事が嬉しくて、その声が何より100人力──いや、1000人力だね!
今日も神兎君が可愛くて、あたしの目の保養になってくれる。
出来る事なら24時間ずっと視界に居てほしいぐらい。
正直めっちゃ抱き締めたい、最初に会った時みたいにあたしの胸へ埋めさせたい。
見ないようにしてるみたいだけど、照れてる感が隠せてないから神兎君って絶対におっぱい好きだよね?
大きいと大変な事あるけど、神兎君が好きなら大きくなって良かったって思う。
それを思うと狼憐先輩は出る所出てナイスバディ、月夜先輩も暗〜い雰囲気してるけど実は良い体してる。
ライバルはこの辺りか。
ちなみに実は咲月も良い感じでスタイル良いけど、幸い彼女はサッカー馬鹿っぽいから神兎君の争いに参加して来ない。
阿佐護姉妹は標準ぐらいだから敵じゃないわ。
「来た、円帝だ!」
「動画とかでしか見てないけど……監督すっげぇ美人!」
「あれで高3の娘いるとか信じられねぇって!」
主に男子の盛り上がる声が聞こえて、あたしが目を向けると威風堂々っぽい女子の軍団が歩いて来た。
監督らしき黒いスーツを着た銀髪の女の人は、まるでファンタジーの女王みたいな容姿。
側にも同じ長さの銀髪の女子が居て、何か似た雰囲気がする。
あっちは凛々しい女騎士って感じかも。
皆エリートっぽいけど1人背が高くてガラ悪そうな女子が混じってて、円帝の中ではレアなタイプだよねあれ。
「わざわざお越し頂きありがとうございます」
「こちらこそ、今日はよろしくお願いします」
うちの顧問の神坂先生と握手する相手の美人先生。
あれは神坂先生、軽く飲まれてるなぁ〜。
「あれ、控えばっかりじゃないか?」
「確かに見覚えない選手ばっかりだなぁ〜」
阿佐護姉妹の2人が何か気づいたみたいで、相手は1軍じゃなさそう。
と言ってもあたしはぶっちゃけ円帝について何も知らないし、アメリカにいたから日本の女子サッカー事情に明るくない。
一軍が来ても誰?ってなる自信あるからね。
「多分、俺達を相手にレギュラーをわざわざ出すまでもないと思って、2軍の調整相手のつもりで受けたんだろうな」
狼憐先輩そうなの?
だとしたら、あたしら結構舐められてるよねそれ。
ま、あたしは1軍や2軍の何が来ても0点に抑えるつもりだから!
芹華Side
1軍は今回、我が円帝女学院のグラウンドで調整の為2軍を中心に編成されている。
お母様は2軍の事も考え、優先してアウェーでの経験を積み重ねようと考えたらしい。
私はそのお守りとして今日は同行。
何故なら2軍に問題児がいるからだ。
「相手は雑魚ばっかだ! 軽く捻ってパパっと終わらせようぜー!」
大加護燐火、実力のあるCBではあるのだが、プレーにムラがあって乱暴と安定しない。
安定感さえあれば1軍に居てもおかしくないんだが、困った女だ。
「自信を持つのは構わんが、油断し過ぎて足元をすくわれる事だけはするなよ」
「誰に言ってんだよ! 試合出ないくせにノコノコ付いて来やがって……!」
フン、相変わらず品の無い。
そんなだから貴様は何時まで経っても2軍なのが、未だ理解出来ていないと見える。
とりあえず燐火への注意はこれぐらいで良いだろう。
それより恋風の方だ。
恋風のベンチへ目を向けると彼の姿があったので、そちらへ私は向かって行く。
「あ、えっと……守神さん」
初めて見た時から体中に電流のような衝撃が走った。
なんだこの愛くるしい小動物みたいな男子は!?と、思わず場を弁えずエキサイトしそうになってしまう。
高校生男子と言えば今、周囲にいるような者しかいないかと思っていたが、か弱そうな保護したくなる男子がいるとは。
小平神兎君、その名は私の記憶に深く刻み込まれて永久に忘れる事は無いだろう。
今もこれは私に対して呼び名に困ってたみたいで愛らしく、なんなら芹華と呼んでもらいたい。
「小平君、今日はよろしく頼む」
私は暴走しそうな理性を抑えつけながら、何時も通り守神家の人間らしく挨拶をする。
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします芹華さん」
礼儀正しく彼も挨拶して可愛く笑ってくれる姿に、私の中で教会の鐘が大きく鳴らされた。
彼こそが守神家の者に相応しい!
今日の試合に出られず、小平君に良い所を見せられないのが大きな心残りだと思いながら、私は円帝のベンチへ戻る。




