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三題噺もどき4

夏祭り―次の日

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくじゅうきゅう。

 




 窓を叩く強風の音が聞こえる。

 雨こそ降っていないものの、最近は毎日こうして風が強い。

 涼しい分にはいいかもしれないが、運んでくるのは南風だ。暑くて仕方がない。

 まぁ、部屋の中にいる分には涼しいので何も問題はないのだけど。

「……」

 ずり落ちた眼鏡を掛けなおしながら、パソコンを操作する。

 口内で遊んでいるキャンディは、少ししょっぱすぎるくらいに塩の味がした。

 その奥の方でレモンの酸味が効いていて、うまくもなくまずくもなく……しかし好きな味ではない。とにかくしょっぱすぎる。

 今の時期ならどこにでも売っている塩分補給のできる飴だ。必要性は感じないが、カゴの中から適当に取った手が悪い。

「……」

 すぐにでも噛み砕いて、飲み込んでしまおうかと思ったが。

 先日、それで口内を噛んだので、自重した。傷が残るようなことはないが、痛いことには変わりない。あの程度の痛みはどうってことはないが、痛いことは誰だって避けるものだろう。進んでそれを受けに行くのは、私からすればモノ好きのすることだ。そういう趣味嗜好の者がこの世にはいるので、深くは追及しないが。

「……」

 何とも言えないキャンディを口の中で遊ばせながら、仕事を進めていく。

 今日の仕事はたいしたことはないが、細かい作業で目が疲れて仕方ない。

 パソコンを見続けるのも疲れるので、それを軽減させるためにブルーライトカットの眼鏡をかけているが……市販のものでサイズがあっていないのが悪いのか、定期的にずり落ちてくる。

「……」

 そうこうしているうちに、小さくなったキャンディをようやく飲み込む。

 ついでに、水分補給もかねて机の上に置かれているコップに手を伸ばす。

「……」

 コーヒーを入れたつもりだったのに、中身はココアが入っていた。

 嫌いと言うわけではないが、今。口の中は何とも言えない塩味と微妙な酸味と甘味がのこっていて、気持ちのいいモノではないのに。

 そこに少し粘り気のある、味のしっかりしたココアを流し込まれて……。

 思わずしかめても、誰も文句は言うまいよ。

「……」

 なんだか、一気にやる気が削がれた気分だ。

 昨夜の夏祭りで、らしくもなくはしゃいだのが悪かったか……まだ疲れがのこっていたのかもしれない。

 ココアとコーヒーなんて、どうやったら間違える。お湯を入れた時点で香りが違うのだから気づいてもおかしくない。そもそも粉の時点で匂いがするだろうに。

「……なんて顔してるんですか」

「……」

 だからノックをしろと言うのに。

 昨日の夏祭りの姿とは打って変わって。見慣れた小柄な青年の姿で部屋の入り口に立つ私の従者は、怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

 時計を見ると、そろそろ昼食の時間だった。

 この口で、昼食……?

「……ココアが入っていた」

「ご自分で淹れたんでしょう」

 ごもっともなことを言われては、ぐうのねもでない。

 コイツも昨夜の祭りで私以上に疲れているはずなんだが、そんな様子をおくびにも出さず、今日も寝起きからきびきびと家事をしていた。

 ちなみに今日のエプロンは、黄色の向日葵がワンポイントに入っている、珍しい色味のものだ。後ろ手にボタンで止めるタイプのやつではあるが。

「お昼ですよ」

「うん……」

 呆れながら、リビングへと戻っていく。

 とりあえず、水でも飲んで口の中をリセットしよう。

 すこしは気分もリセットされるだろう。

「……」

 パソコン画面を閉じたり、保存したりして。

 ココアの入っていたマグカップと、キャンディの籠の中に残っていた塩系のものを取り出し、リビングへと向かう。

 とりあえず、水を飲もう。





「……お前これ、繋がってるぞ」

「え、あぁ、失礼しました」

「……疲れてるなら、休んでいいんだぞ?」

「あとで休憩します」

「……休めよ?」










 お題:キャンディ・ココア・向日葵


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