第7話「対人戦」
筑波サーキットでの試験に合格できた瀬成。
今度の目標はレース参戦となった。
「大野くん、単独で走ってあのタイムなら、レースに出てみても大丈夫かもしれないな。」
「本当ですか!」
「あぁ、だから、来週末にあるもてぎで開催されるF110CUPっていうレースに出てみようか。」
「はい!」
翌週末、モビリティリゾートもてぎ。
「昨日の予選も速かったぞ!いきなり12台中5番手なんて、難しいものだよ。すごいことだ。」
「ありがとうございます!なんか、昨日はもう行ける気がして。とにかく攻めてみました。」
「いきなり攻められるなんて、すごいじゃないか。さぁ、この後の決勝レースも頑張っておいで。」
「はい!」
12台がフォーメーションラップを終え、グリッドにつく。
「5位。2台抜ければ表彰台だ。行ける。絶対行ける。」
レースが始まる。
12台がもてぎの1コーナーめがけて飛び込んでいく。
「外側に1台。イン側にはいない。」
しかし、彼は油断していた。
「…!?」
そう、瀬成が想定しているよりも遅いタイミングでブレーキをかけるマシンもいたのだ。
これはオーバーテイクの基本とも言える、レイトブレーキだ。
瀬成はこれを想定できていなかった。
このバトルに対処しきれず、2つ順位を下げた。
ただ、ゲームと、単独走行にだけ慣れていた瀬成にとっては、実戦経験はないも同然だったため、順位を守り切ることができなかった。
ホームストレートに戻ってくると、チェッカーフラッグが振られているのが見えていた。
「ゴールか…」
安住レーシングのレーシングカーがフィニッシュする。
ピットに戻ってくると、車両保管場所に誘導される。
エンジンを切り、マシンを降りると、安住社長が来た。
「お疲れ様。初めてのレース、走りきれただけでも大きな成果だよ。順位は今回は気にしなくていいよ。」
「社長、でも、俺悔しいです。何もできずに順位を落としてばっかりで。」
「最初はだれでもそうだよ。それに、今回は使い古した中古タイヤだったのも悪かったかもしれない。」
その時、お互いに話していると後ろから声をかけられた。
「いやー、瀬成くんの初レース、感動したよ。よく頑張ったね。」
「えっと…どちらさまで…?」
「あ、大野くんには紹介していなかったね。彼は小野医院の院長の小野和哉だ。私達安住レーシングのスポンサーとしてサポートしてくれている。」
「あ、そうなんですね。大野瀬成です。よろしくお願いします。」
「今回の走りを見て、君に支援をしたくてね。資金を渡すから新しいタイヤを買って、いい走りをしてほしい。」
「あ、ありがとうございます。」
翌週、新品タイヤが1セット(4本)が安住レーシングの工場に納品された。