第37話「P1」
ファイナルラップ。
「これが最後の1周。だからってなにか意識するわけでもない。」
ただ着実に90号車をフィニッシュラインまで運ぶ。
最終コーナーを抜けるとフィニッシュラインまでまっしぐら。
白黒のチェック柄の旗が振られているのが見えた。
その旗の下を90号車が1番に通過する。
「やったぁー!1位だ!1位だ!」
「瀬成、ついに上がってくれた。表彰台の一番高いところ…」
2台はランデブーでウィニングランをする。
そして、トップのマシンは他のマシンたちとは別の場所に誘導される。
そこには1と書かれたボードが置かれていた。
「この前に止めれば良いのかな?」
瀬成はブレーキを踏むタイミングがここでずれる。
「あ」
声が出る。
1のボードを軽く飛ばす。
ただ、この様子を見て一同笑顔になっていた。
いつもの瀬成みたいだ。
コックピットから出てきた瀬成はその場に立ち上がって1を指で表しながら、ヘルメットのバイザーを開け、最高の笑顔の目元を見せていた。
その時、別の場所に誘導されていた蓮真が駆けつける。
「瀬成、やったな」
「蓮真先輩!ついに1位取れました!」
「ほんとに、1位でゴールしてくれて嬉しいよ」
「1位の場所から見える景色、楽しんでくれ」
表彰式が始まる。
3位から順に呼ばれていく。
そして、僕の名前が呼ばれる。
最高の笑顔で表彰台の1位のところに上がる。
3人にトロフィーが手渡される。
そして、FIA-F4に来てから初めてのスパークリングファイトが始まる。
3人がボトルを手に持ち、勢いよく振る。
すると、中の炭酸が吹き出す。
2位の蓮真と3位の選手は瀬成に思いっきり炭酸をかける。
「だぁ〜!冷たいっす!」
「まだまだ〜」
秋めいてきた空の下、瀬成は目指してきた1位を手にした。
そして、それを見る蓮真はどこか寂しそうだった。
実は蓮真、ここまで表彰台に上がることはあったが今シーズン中優勝することは一度もなかったのだ。
そのため、F4復帰の年、瀬成が先に優勝したのを見て少し悔しかった。
でも、蓮真にはその先に期待していた。
怒涛の1年が終わる。
憧れてきた世界に飛び込んだ瀬成。
一度は挫折を味わった世界に戻ってきた蓮真。
2人とも、2人なりに1年を戦ってきた。
その結果がこのもてぎでのリザルトだろう。
FIA-F4最終戦モビリティリゾートもてぎ
90号車 大野瀬成 優勝(初)
91号車 織田蓮真 2位
瀬成にとっては2度目のF4シーズンが始まることも決まった。




