第31話「予選」
最終戦、もてぎの舞台で予選が始まっていた。
AZUMI racingの2台がトップタイムを連発する。
しかし、それに負けじとVision motor sportsの1号車が記録を更新する。
2チームの接戦が繰り広げられていた。
その時、91号車に乗る、蓮真は第9コーナー、90°コーナーで軽くコースオフ。
「しまった。ここでミスするともうダメだ…」
「こうなったら、後続の瀬成を援護しよう。ダウンヒルストレートで追いついてくれるように計算しよう…」
「…今僕はP3。まだ、タイムを縮められる…」
コースを走り続ける90号車はダウンヒルストレートへと向かう。
「蓮真先輩のマシン…あの位置関係なら、あれが使える…」
瀬成は蓮真の後ろに近づく。
「あの日教わったスリップストリーム…ここで使える…」
実際、F1でもトゥと言って予選でこのテクニックが使われることがある。
加速した瀬成は少々タイムが向上した。
しかし、彼には魔の手が迫っていた。
2台の少々前を走行する17号車、アシュリー・ジャクソンのマシンが不思議な挙動をしていた。
「ごめんなさい、ミスターセナ…ッ!」
17号車が急に進路を変更する。
「えっ…」
瀬成のマシンがアシュリーのマシンのリアタイヤに乗り上げる。
そのまま90号車は宙を舞い、何度も横転する。
「ッ…!!!」
強い衝撃が瀬成を襲う。
「瀬成ッ!!」
蓮真はすぐ後ろでその光景を見ていた。
そのまま横転し続けたマシンはタイヤバリアに激突した。
「瀬成!」
マシンを急いで降りた蓮真はマシンに駆けつける。
駆け寄ると横転したままのマシンに瀬成が取り残されていた。
「瀬成、今助けるからな!」
蓮真はシートベルトを外し、少しでも動きやすくさせる。
「行くぞ!」
一気に瀬成を引きずり出す。
「瀬成!瀬成!」
体を揺さぶるが起きそうにない。
「さっきの衝撃で気を失ってるのか…」
すると、救急車が到着した。
「瀬成を頼みます!」
救急隊に瀬成を預ける。
走り去っていく救急車を見ていた。
そして、マシンを見る。
白煙を上げ、横転したまま大破した90号車。
「これは無理だ。明日の決勝も出られない。まず、あいつが目を覚ますか…」
ピットに戻ってくると、チームのエンジニアが話しかけてくる。
「今、安住代表は瀬成くんに付き添って病院へ向かった。どうする?お前も行くか?俺が送るぞ。」
「頼みます」
瀬成の容態が心配だった。
着替えないまま、レーシングスーツのまま、病院へと向かった。
「着いたぞ。」
「ありがとう。」
クルマを降り、病院の受付へと向かう。
「あの、大野瀬成っていませんか?」
すると、病室に案内される。
そこには安住代表と、さっき目を覚ましたばかりなのだろう。不思議そうにしていた。
「あ、蓮真先輩。」
無事に会話している瀬成を見て、涙が溢れてくる。
「よがっだ…無事っで…」
「ちょっと、蓮真先輩、何泣いてるんですか?大丈夫ですよ。僕なら明日のレースも出られます!マシンはダメですけど…」
「…マシンはなんとかしてやる。任せておけ。俺も元はこのチームのメカニックだ。」
蓮真は胸を叩く。




