第9話「表彰台」
「この後の決勝レースはこの前買った新品タイヤにする。これでかなり走りやすくなるはずだ。」
「本当ですか?」
「あぁ、新品と中古はレースタイヤでは大きく変わる。」
「じゃあ、今までより速く走れるかもしれないってことですか。」
「そうだ。だから表彰台も狙えるかも知れないぞ。」
「頑張ります!」
スポーツランドSUGO戦、レース中。
「まさかセーフティーカーが出動するなんてな。」
スタート1周目でいきなりバックストレートで3台が絡む多重クラッシュが発生し、その処理のためにセーフティーカーが出動していた。
「でも、新しいタイヤの消耗を抑えられるからラッキーか。」
前との差を確認しつつ、マシンを蛇行させ、タイヤを温める。
「セーフティーカーのランプが消えた。この周スタートだな。今は2位。前との差を考えなきゃ。」
1位が最終コーナーで一気に加速し始める。
「これに続かなきゃ!」
しかし、加速力が足らず、再開してからも1位との差は詰まらず。
単独で2位を走行し、チェッカーフラッグを受ける。
「っし。初めての表彰台だ!」
ピットに戻ってくると、ニコニコの安住社長がいた。
「おめでとう。ついに表彰台だな。レーサーの夢の一つが叶ったな。」
「ありがとうございます!」
「…大野、やるじゃねぇか。」
「蓮真先輩もありがとうございます!」
表彰台に立つ。
マイナーなレースということもあって観客はほとんどいないが、憧れていた場所に立つことができた。
「ん?と、取れない…」
スパーリングファイトのためのボトルの栓が抜けない。
苦闘していると、1位の選手が取ってくれる。
「あ、ありがとうございます」
気を取り直してボトルを勢いよく振る。
すると中のシャンパンが吹き出す。
「きもちいいー!最高!」
トップ3の選手だけが味わえる式典。
最高の思い出だ。
表彰式も終わり、ピットに戻ってくる。
「いやー、いいレースしてくれたな。本当にありがとう。」
「いえいえ、社長にこんな機会を2度も用意してくださって感謝でいっぱいですよ。」
「今回も最高だったね!」
そう言ってピットに入ってきたのは小野医院の院長だ。
「君の走りには本当に勇気づけられている。だからこそ、君にはさらにレベルの高いところに挑戦してほしい。」
「…?と、言いますと?」
「FIA-F4だよ。F4ジャパニーズチャンピオンシップ。マシン2台買える額出すから、ぜひ参戦してほしい。」
「いいのか?小野さん、申し訳ないよ。こっちもいくらかは出させてくれ。」
「いや、いいんだよ、安住さん。いつも美味しい弁当作ってくれてるんだから。ほんのお返しさ。」
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただくよ。」
この時、僕は聞き逃さなかった。
院長が2台と言ったことに。
この2台の意味を理解するのはこの日から2週間経った頃だった。




