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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【十二】悪ぃな!

【十二】


子ども達はホテルで遊んでもらうことにし、

ジェーンとエドガーはビギーの家に行った。

エルフの里はお世辞にも広いとは言えない。

普通に歩いても端から端まで、じっくり観光しても3日ほどで済むだろう。


その中で、ビギーの住む家は、特別外れにあった。

質素さで言えば、摩天楼の中にぽつんと立つ平屋のフィニー家と同じくらい。

しかし、ここはどう見ても文明レベルが違った。


洗濯機・自動車・冷蔵庫・エアコン。

僕の時代に生きる人々なら誰もが持っていて当たり前のものがなかった。

エルフの里《惑星・不動拳》がそうであるように。


代わりに、水車が回り、牛が鳴き、ガーデンには小鳥がやって来た。

どれもが空手文化では軟弱とされかねないものだった。

機械・鋼鉄・拳の支配する里において、

ここは牧歌的に時代が止まっている。

水・土・牛が彼女の生活の根底にあるようだった。



「いらっしゃい」


ドアを開けて、ビギーが招き入れる。

そこで遅れて気がついた。

彼女は、裸足だった。


裸足で外を出歩き、戦闘もしていたのだ。

驚きではないが、ユニークだと思った。


「わあ……」


フィニーは家よりも、裸足よりも、

そこにある物に目を輝かせた。

ジェーンも口をぽかんとしている。


「触っちゃダメ」


あちこちペタペタ触ろうとしたところを、

ビギーが腕を掴んで首を振るう。

“最強”かつ長身の女性にそうされて、

小さな空手家はびくびくと首を縦に振った。


僕の見立てでは、二人は正反対だ。

相性がとても悪い気がする。


「びっくりだわ……」


ジェーン・エルロンドの言葉通り、

そこにあるのは、

豪華絢爛な魔術書道だった。


別名で、マナ習字とも言う。

僕の時代ではエルフ文化における

極めてメジャーな自己表現方法だった。


「これ、わたしの趣味なの」


誇らしげに胸を張って、ビギーは家中に展示してある

自分の作品群を見せた。

魔術を使い、マナに色をつけて、

意志や概念を表現するというアート。


「そういうのがあるのね。

 初めて知ったわ」


フィニーの反応でも、

この里ではとっくに廃れた芸術方法らしい。


戦闘ではシンプルな使い方、

回路に用いられるのがマナだ。


しかし、習字・書道においては目も心も奪うほどに多層的で豊かな色彩を帯び、

“固定”された文字の中でカーニバルをするのが、マナ習字だ。


エルフの人々は伝統的に他文化への理解、

他者への共感を示すことはめったにないと言われている。

意志や思想を外に出すことも珍しいとさえ。


だが、マナ習字を通して、

彼らは自分の内にある物を、芸術という形でアウトプットしていた。

誰もが使えるというわけではない魔術で、

宇宙そのものを表現。


「これと似たアートがあるんだよ」


「そうなの?」


マナ習字のスタイルは、世界で最も困難な言語のアラビア語に

世界で最も美しい文字表現であるアラビア習字(Khattハット)の

文化があったのと似ているだろう。


一時期、世界中を飛んで回ってあちこちを見て回った僕は、

アラビア習字に魅入られ、かのアラビア習字の大家、

ハッサン・マスード、エル・シード、本田孝一と交流があるアラビア書道家に弟子入りをしたことがある。

そこで僕は、アラビア語で表現された幾何学的魔法陣や流動的なエネルギーの表現を修めようとした。


「僕も習ったことがあるんだ」


何故なら、僕は、デザイナーとして一旗揚げ、

クマ王国に呑まれる秋田という故郷に錦を飾り、

秋田のちいかわを生み出す野望に燃えていたからだ。

自分なりの武器を見つけたかった。


しかし、無理だった。

クーフィー体・スルス体といった書体は覚えたし、

アラビア文字には神に通じる霊的エネルギーが宿るという、

文字神秘主義も学んだ。


でも細部が駄目だった。師にも「鼻血が出るほどセンスがない」と言われた。

僕に信仰がないからだろう。

文字に宿る神秘への理解と探求の意志がなければ、

どれだけ小手先の技術と知識を身に着けても、

芸術としてアウトプットできない。


マナ習字もきっと同じことなのだ。

アラビア習字のような流麗かつ精緻に大胆に

概念と意志を表現するスタイル。

文化と色彩を文字なのに音で伝える手法。

魔法陣とエネルギー体で芸術を多面的に表現するマナ習字と同じだった。


マナを使った魔術を使えない僕には、マネは絶対にできない。

魔術から空手に文化が変わった時代に、

このようなエルフらしい繊細なマナ使いの芸術の使い手がいるとは。


「あたしはこういうの全然わからないけれども、

 目が楽しいわねえ、こういうのって」


「俺は感動してますよ。

 理解しなくとも心に訴えかけるパワーがあります」


角度を変えて、距離を変えて見てみると、

見せる貌がグラデーション的に変わるのがマナ習字だ。

マッスルボディであるが故に、

凝り性な一面を強く持つエドガーにはさぞ興味深いだろう。


「あたしには良いのか悪いのかよくわからないけど、

 とても好きなのね!」


普段から空手着めいた衣装を好んでいるフィニーには

あまり伝わっていないようだ。

それも予想していたビギーは気分を害した風ではない。


「馬鹿にしないの?

 空手じゃなくて魔術に夢中って」


「あたしが? 里で一番のヘッポコ空手家って言われてるのに?」


悲しそうに自嘲した。

ビギーの表情は変わらないが、

目をぱちくりさせて首を振った。


「わたし、興味がないから」


それは何への? とは誰も聞かなかった。

里に一目置かれ、その上で独断専行が黙認されるという

エルフ社会における得意な事例。

そんな彼女は、空手への興味がないのだ。


「ごめんなさい。何に興味がないか教えて?」


フィニーには伝わらなかったようだ。


「空手は好きじゃないの」


「あんなに強いのに?

 うーん、とっつきづらいと思っていたけど、

 本当にあたしとは何もかも正反対だわ……」


首を振って芸術鑑賞に戻ったフィニー。


「興味もないのに、あの強さってことね」


「にわかには信じがたいです」


姉と弟が信じがたいように首を傾げる。

才能とやりたいことが一致しないということを、

上手く受け入れられないのだろう。

ここは僕の人生経験の出番だ。


「そんなことはないさ。

 僕だって生前はデザイナーだった。

 オシャレの探求者だったんだ」


クレオは前世の知識で知っていたが、

ジェーン達に前職を教えたのは初めてかもしれない。


お父さんと慕ってくれるジェーンと、

超師匠と仰ぎ見てくるエドガーが、

とんでもない馬鹿を見る目でマントを凝視した。


予想していた反応だ。

力持ちで、足が速くて、空を飛べる。

まあ、それは本当にありがたいのだが、

それをどう仕事に活かすかというのは人それぞれと、二人は知るべきだ。


僕の周りは言ったものだ。

「配送業をすれば敵無しだ」と。


しかし、考えてみてほしい。

配達をすると、配達先のご家庭にお邪魔をする。

そうすると、荷物を受け取る人が呼び止めて

世間話を求めてくることがある。


スゲーマンの看板を掲げてその仕事をするとなると、

多種多様な悩みを打ち明けてくる。

僕には、それに対して「次の配達があるので……」と断ることはできない。


結果、僕は一日に一件しか配達ができないという結果になる。

……クレーム処理はストリーマーがしてくれた。

今でも夢に見る苦い思い出だ。


「だから、僕は自分のやりたいことを仕事にしたんだ」


「でもセンスが──」


「道は苦しく、険しかった。

 コンペ一つを取るのに、世界を救うのがお遊びに思えるほどの

 絶大な苦労を求められた。一時期の僕は、オシャレに狂いすぎて、

 一日中スーツで過ごしたものだった」


「……想像したけど、それが一番オシャレじゃない?」


「とにかく、苦労ばかりで、成功はささやか。

 だけど、ずっと楽しかったよ。

 君もそうなんだよね?」


「リトルファムの芸術祭に申し込んだら入選した」


「あ、はい。若くして素晴らしい才能がおありなんですね……」


同じ苦労を持つ先輩として話しかけたら、

残念なことに違った。

というか、エルフの里だから外とは隔絶されていると思っていたのだけれど、

こうして外と交流をしている人もいるのか。

それは何よりだった。


「エルフの人が芸術祭に申込をしていたなんて初耳ね」


「今年やるかもわからない状況だから、

 広まらなかっただけかもしれませんよ」


「それにしたって交流がないのだから、

 誰かが窓口になっているんじゃない?

 あ、それが────」


「ああ、そういうことなのか」


ジェーンとエドガーが同時に、何かとても気分が悪くなるようなことに気がついたようだ。

僕にはわからないことだけれど、いったい何に気づいたのだろうか。


ビギーの手掛けているアートに感動し、

警戒心を解いていた姉弟だが、

思い当たった可能性を前に気を引き締めた。


「あなた……ヴァルターとヘルミーネって知ってる?

 エルロンド家の公爵夫妻なんだけど」


二人の実の両親の名前だ。

親のことを思い出すのはあまり気が進まないようだが、

やむを得ないといった様子だ。


「知ってる。貴女を殺せって言ってたけど、

 私の代わりに芸術祭の募集に申し込んでくれたの。良い人」


「…………えっと、あたしを殺すつもり?」


「うううん。

 もうしなくていいの。父が言っていたの。

 暗殺の仕事はおしまいだって。

 私、べアリタ帝国のマナ書道家の弟子入りをするって決めてるの」


彼女の言葉に嘘がないのはわかる。

しかし、それはあくまで彼女視点での話だ。

少なくとも、彼女が無垢な少女というのは

ハッキリとわかった。


「暗殺業をしているのね?

 それはきっと、親御さんに言われてやっているのね?

 貴女のお父様と会わせてもらえるかしら」


姉がお願いをしている間に、

作品を眺めていた少女の肩を叩き、

小声で耳打ちした。


「フィニー、君はもう帰って大丈夫。

 ここまで来てくれてありがとう」


「え? そうなの。

 もっと一緒がいいけど……ママも心配するかな。

 じゃあね、また明日!!」


暗殺だのの話を聞いていなかった小柄な空手家少女が、

手を振って家を出ようとした。

そこで、玄関近くでずっと聞き耳を立てていた男が仁王立ちして、

進行方向を塞いだ。


「あ、父」


「ここから出るのは待ってもらおう」


腕組みをし、

鬼の仮面をつけた男性が、

その場の全員に告げた。


「ジェーン・エルロンド、

 そして、エドガー・エルロンド」


「あたしらを抹殺するんでしょ?

 やるなら早く来なさい。

 娘さんもまとめてのしてやるわ!」


「我ら父娘のためと思って、

 身柄を差し出していただきたい」


戦いを予感していたところで、

ビギーの父が仮面の額を地面に擦り付けた。

どういうことかもわからないので話を聞こうとする

ジェーンがしゃがみ込む。


「ううん。とりあえずは頭を挙げて。

 そうしないと話もできないわ」


ちゃんと話を聞こうとしている。

ついさっきに、自分をこてんぱんにして、

なおかつ屈辱も与えた家だと言うのに。

よかった。ジェーンは本当に日々、成長している。


鬼の仮面が静かに持ち上がった瞬間に、

彼女の耳が迫りくる音を察知し、

大声で叫んだ。


「伏せて!!」


そのかけ声の通りに、エドガーがフィニーを伏せさせ、

建物ごと横断する斬撃が頭上を通り過ぎた。


天井が上半分の家ごと払われて、

頭上には世界樹が垂れ下がり、

葉一枚一枚の葉脈さえ認識できそうだった。


「家ぶっ壊して悪ぃな! 

 ひゃー、酒持ってきたら、ジェーンがいるじゃねえか!

 せっかくだし、おめぇ今からぶっ殺すぞぉ!!」


「年貢の納め時です、娘よ」


レスリングパンツから覗く大腿筋を凶悪に膨らませ、

残心をした勇者の出で立ちの男と、

その三歩後ろをついてくる薄地のローブの女。

依頼を出したのに我慢できずに自分で突っ込んでくる。

最悪な形だが、この後先考えない決断の速さは、

まさにジェーンの親だった。



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