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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【十一】片手の指で足りる


【十一】


その後、こちらが行動を起こす前に、

ジェーンとエドガーの両親は群衆に溶け込んで消えた。

こちらが存在に気づいているのを知っているのかどうか、

いずれにしても、油断はできないかもしれない。


僕としては、あの両親との和解の可能性を諦めたくはない。


だが、向こうが殺そうとしてくるのであれば、

自衛は仕方ないことではある。


エルフ空手との五番試合に勝利し、

みんなは里にいられるようになった。

おまけに、第一エルフのフィニーを案内に付けてもらった。


あまり言いたくないことだが、

明るくてひょうきんな彼女は

この里ではあまり良く思われていないらしい。


「ごゆっくりしてください。

 ……余計なお世話かもしれませんが、

 その娘は空手が下手ですよ」


ホテルのフロントでもこのように言われた。

空手が下手だから何だと言うのか、全く謎だ。


しかし、それこそが異文化だ。

僕には未知の価値観で社会が構成されている。

そうなると、差別する側と差別される側も……

生まれてしまうことがあるかもしれない。


フィニー当人がそれを気にしている様子もないけれども、

だからといって、ママのことさえも言われるなど、あんまりだ。


ジェーン達といることでそれが抑えられるなら喜ばしい。


「いいとこに泊まれたわね」


ついさっきまでは、コスプレをした両親を目撃してしまったのと、

自分の抹殺を依頼していたのを聞いて、

かなり気落ちしてしまっていた。


「すごいわ! ずっとここに住んでるのに、

 こんな部屋にはじめて来たわ!

 見てみて、リネンのシーツ、テレビも板じゃなくて、もはや糸!

 冷蔵庫が大きくて肌触りが鉱石みたい!」


ぺたぺたとホテルの中の調度品を触って回るフィニー。

彼女は、初めて見たものは、

隙があればペタペタしたがるタイプのようだ。


しかし、奇しくも

フィニーが明るく元気に振る舞っているおかげで、

つられて姉と弟の気分も落ち着いてきた。


案内されたのは里の宿泊施設。

僕の時代における一般的なビジネスホテルだ。

リトルファムの通貨が通用していたので、

ホテルで一番いい部屋の一番大きいベッドを頼んだ。


プレミアムマットレス付きの、キングサイズベッド。

僕の収入では絶対に手の届かないベッド。

生涯、自費では利用できなかった部屋を、

転生先にしてみたらはした金同然の簡単さで利用するとは、不思議な気分だ。


「俺はここで汗流しておくから、気にしないでくれ」


この里についてある程度は知っているクマリオンは

部屋の隅にあるランニングマシンで

短い足を高速で動かした。


そう言えば、ここには熊用のトレーニング器具、

熊の体にフィットした調度はない。

エルフの里はベアリタ帝国とリトルファムに挟まれた場所にある。


そして、ここに来ることがありえるのは

リトルファムよりも文明レベルの高い熊の方だ。


だが、熊を歓迎する要素は見えない。

僕の故郷の秋田は、

クマ王国が隣人になったら、

限界を超えた速さで熊を受け入れる準備を進めたからよくわかった。


エルフの内に籠もる文化傾向は、

この時代でもまだまだ強い。


ソファではベスとニュルが、フィニーの誘いで

跳ねたり備え付けのクッションを積み上げたり、

自分好みのクッションとシーツの宮殿にしようとしてみていた。


「凄いですよ。外に露天風呂があります」


エドガーが窓を開けて感嘆した。

どれも、ジェーンの邸宅に比べると小さいが、

エルロンド姉弟は初めてのビジネスホテルの調度に興味が湧き、

どれも新鮮そうに見ている。


「部屋の中のお風呂はこの赤いのを回せばお湯が流れるから。

 洗濯物があったら廊下の案内板見たら洗濯機があるよ。

 一番高い部屋に泊まると洗濯機使い放題だって。

 あっ、使い方わかるかな?」


フィニーがエドガー達にホテル内の調度品の使い方を教えてくれている。

僕が教えてもいいのだけれども、

これも立派な交流だし、もしかしたら僕が知っているのとは違うかもしれない。


「ところで、あたし達ってどれくらいここにいていいのかしら」


「どういうこと?」


「長が《稀人地獄五番合撃》の時に言っていたわ。

 対処しないといけないことがあるとかなんとか」


快く教えてくれると思ったが、

手頃なクッションを物色していた手が止まった。

文化的に禁句なものだったかな。


「あー……実は、今、うちの里って時期が悪くて」


歯切れの悪い返事の真意を尋ねる前に、

どんな宮殿よりもしっかりした造りのホテルが揺れた。

空気そのものが地響きしているかのような、大きなものだ。


どれも地震対策が万全な建物ばかりのようだから、

窓から見える景色も、大きな変化はない。

これがリトルファムなら王都でも壊滅しているだろう。


もう壊滅しているようなものだから、

ダメ押しが来なくてよかった。


「地震!? かなり大きかったんじゃない?」


ランニングマシンから流されてコロコロ転がってきたクマリオンを抱き上げ、

ジェーンが他の人たちも無事かを確かめた。

シーツの端同士を結んで、クッションを積み上げて

建築中だった宮殿は完成前に崩れたが、誰にも怪我はないようだった。


「今は、そういう時期なの」


窓へと手招きをしたフィニーが、

とても高いところから、

摩天楼の隙間を縫えるアングルを人差し指で示した。

いくつものビルの向こう側に、

茶色い鱗のようなものが立ちはだかっているのだと、

最初は錯覚した。


だが、視線を上いっぱいにすると、

空を覆いかねないほどの巨大な枝葉が見えた。


スケールが大きすぎてそうと認識できなかった。


この里の奥には、途方もないくらいに大きな樹があった。

根が、里だけでなくそこに至るまでの森林の下も横断しているだろう程に、大きい。


「世界樹か」


太古の時代、エルフにとっては創造神に等しい、

マナを生み出す大樹。

魔術のいわばガソリン、を生み出す大地そのもののようなもの。


「本で読んだことがある……

 魔術を大事にするエルフにとっての神様だって」


「ぼくにとってのプロテインみたいだね」


「魔術の時代は知らないけれども、

 大事なのは今も同じだよ。

 ただ、1億年に一度の“水やり”の時期なんだって」


「水?」


あの超巨大な大樹に水が必要としても、

どれだけの水量が求められるか。


植木鉢なら如雨露で済むが、

あれほどによく育った世界樹への水やりとなると、

入道雲の一つや二つでも不足するだろう。


不思議がっていると、部屋のベルが鳴った。

誰かが部屋の外に出て、帰ってきたわけではない。

ルームサービスをお願いしたわけでもない。


地震で怪我をしていないか、

ホテルのスタッフが確かめに来たのかも。

ジェーンがドアの覗き穴から外を確認し、

バネ仕掛けのように、年少組を掻き集めた。


三人を抱きかかえるように顔を近づけ、

真剣な顔で告げた。


「ベランダにいて、

 もしも誰かが襲ってきたら戦おうなんて考えずに、

 ベスに抱えられて逃げ出して」


「どうしたの?」


フィニーに尋ねられて、

彼女の存在を失念してしまったことにジェーンが気づく。

彼女らしくない間違いだ。

それだけ、ドアの外にいる相手を警戒している。


「開けないなら開けちゃうよ? あら」


ジェーンとエドガーが制止する前に

ドアを開けたフィニーが

後ろに結った髪を揺らして首を傾げた。

そこにいたのは、長身の、切り揃えた長いブロンドが眩いエルフだった。


「来てよかった?」


「わ、わ……」


初対面でも臆さないハイエルフの少女が、

慌てて両手を上下に振った。


「最強が来たよ!

 あの、あたしのこと知ってるかな。

 フィニーって、何度か会ったことあるんだけど」


「覚えてる」


小柄なフィニーが話すと、

親子どころでなく、種族そのものが違うように見える。

ジェーンの両親のことが記憶に新しい姉弟は警戒を露わにしているが、

そんなことを露とも知らないフィニーは、

思いがけない最強の来訪に、もじもじしている。


それを静かに見下ろすビギーとの間にある沈黙。


黙って、声の出しにくい空気が苦手なんだろうフィニーは根負けして

部屋の奥に下がっていった。

だが、完全に姿を隠すわけではなく、

柱の影から来訪者を盗み見ようとしていた。


「あなた……何の用?」


強張ってざらついた声で、

ジェーンが質問した。

もしも、ここにジェーンの両親まで襲ってくれば、

かなりマズイことになるだろう。


「……?」


しかし、質問された側はきょとんとしている。

それから、思い出したと両手を叩いて、

懐から一冊の手帳を渡してきた。


「父が、人の家に遊びに行くならお土産が必要だって……。

 これ、私のお絵かき帳」


「姉さん、この人、初対面の相手に使いかけのお絵かき帳をあげています。

 これは間違いなく強敵だ!!」


「しっ! そういうことを言うのは敵相手でもよくないわ!」


小声でコソコソと話をする。

たしかに、強さもだが人格的にも底知れない相手だ。

190cm以上の長身で、ぽやぽやした顔。

これでジェーンを圧倒するほどの戦闘力を秘めている。


「外の人の話と、

 エドガーって人の魔術を見たくて来たの。見ていい?」


そう言えば、手合わせの時にそのようなことを言っていた。

本当に後で来るとは予想外だった。

もしかして、彼女はジェーンの両親からの頼みを断ったのだろうか。


ジェーンとエドガーはいつでも戦えるようにしている。

ここで、姉の方が前に出た。


「姉さん、危険です」


「襲われたらあたしが一番喰い止めやすいわ。

 攻撃を受けても、お父さんに対処もしてもらえるわ」


「しかし……」


エドガーが終点を突かれても、

下手に何かをすることは出来ない。

ジェーンなら多少は何かあってもすぐに回復できるという前提で成り立っている。


「それに…………ふ、不要だなんて思ってないからね」


「姉さん……」


「ねえ、この人、あがってもらっていいんだよね?」


照れて弟の方を見ようとしないジェーン。

最強との沈黙に耐えられなくなった

フィニーが振り返ってきた。


「いいえ。散歩をしましょう。

 貴女のことを知りたいわ、ビギー」


「うーん」


今すぐにでもエドガーの術に触れたかったのか、

露骨に残念そうな顔をされた。


「じゃあ、貴女のお家に行ってもいい?」


「私の家に?」


両手を挙げて、ビギーが驚いた。

そこに嘘は見えない。

予想外のことを言われて、

挙げた両手を頬に当てて体を揺する。


「……人が来るの、初めて。

 友達がいないから」


「そう言えば、あたしも今日、初めて家に人が来たわ。

 友達ができたことないから」


なんてことのないように、

フィニーが言った。


この里には、深い交流をする文化がないのだろうか。

僕も友達が多いとは言えないが……。


二人とも、このハイテク・エルフの里からは出たことがないように見える。

それなのに、自宅に友達が来たことがないというのは、

少し、寂しい話に聞こえた。


「ふぅーーーむ……」


仮想敵対相手の発言だが、

改めて指で数え始めてみた。


「クレオは……実質家族ね。

 シスマ、エドガー、スゲーマン……これも家族ね。

 他……他……????」


十秒間ほど、腕組みして

記憶の底まで洗い出し終えてから、

深く重々しく頷いた。


「貴女達、友達がいないのね。

 大丈夫よ。あたしも片手の指で足りるくらいだから!!」


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