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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【十】うげえっ


【十】

挿絵(By みてみん)

筋肉、体格は戦いを有利に進める上でとても重要だ。

それは攻撃面もだが、防御力、

何よりも持久戦として、生き延びるのに必須の集中力を維持するために。

だから、僕の時代でも肉弾戦が得意な人間は大半がマッスルボディを持っていた。


しかし、本当の最強のファイター。

総合的(何でもあり)な最強ストリーマーではなく、

リングや道場の中で面と向かって小細工や人質もなしに、

ヨーイドンのスタートで正面同士の殴り合いをした場合。


“最強”は、痩せた老女だった。

これといったスーパーパワーを持たず、

徒手空拳で僕を圧倒さえした人物だった。


彼女が生涯をかけて創り上げ、

さらに完成度を高めようと探求を続けた最強の武術。

その動きを、ビギーと呼ばれた大将の女性がしていた。

遠い時代、場所を超え、何故エルフの里の女性が使えているのか。

謎は尽きないが、タネはわかる。



頑丈さに自信があった僕は、何度も彼女の技の実験台にされていたからだ。


──彼女の動きは知っている。人体を動かす上で必須の経路、いわば生命の流れを熟知し、

  最小限の干渉で最大効率の結果を齎すポイントを突くんだ。

  それをツボ、秘孔、経絡とさまざまに呼ぶんだけれど、

  彼女は終点キャンセルと呼んでいた。


つまりは“突くと動きが止まる一点”を突かれて、

ジェーンは今、こうなっているのだ。。


本当は終点(Canceled)らしいが、呼称はCancelだった。

どうしてキャンセルと言うかはわからないが、

考案者は「使い方で名前が変わるんだよ」と言っていた。

相手に与える効果はCanceled(打ち切り)、

だが語感が気に入ったので、呼び方はCancelにするということだった。


とにもかくにも、僕の解説でジェーンもわかったはずだ。

だが、動けない彼女は息も絶え絶えに眼球だけを

ぐるんぐるんと動かしている。


そうだ。

終点キャンセルを突かれたら、動けないんだった。

僕が突かれた時は、活動再開まで1分かかっていた。

同じように突かれたジェーンは、動けるようになる気配がない。

……ずっとこうなっているのだろうか?


それはあまりに強すぎる技だ。

長の言うことは間違いなかったと言えるかもしれない。

ビギーの使う技は、僕が知るものより、大きく進歩していた。



「だっ、かっ……」


ジェーンが舌の根も満足に動かない口で、

無理矢理に言葉を発しようとしている。

安心して良い。僕には何を言っているのか、お見通しだ。


僕の知識と閃きを頼っているんだろう。


「こっ……ちっ……!!」


心配無用だ。

僕だって戦いで役に立てる時はある。

忘れているかもしれないけど、僕はスゲーマンなんだぜ?


「そっ……ぜっ……やっ……!!」


「大丈夫。僕に任せて」


安心させるように、

マントに口を作って語りかける。

彼女が動けなくとも、マントになっている僕は動ける。


うにょうにょと形を動かして、幅広のマントを細長く丸めて、

針先めいたものに変えた。


みんなは……比喩抜きにみんなは何度も何度も僕に言ったものだ。

人を疑うことを知らないだの、

眼球がないも同然だの、

子どもの猫だましにも引っかかるだの。


だが、僕は視力が良いし、見たものは隅々まで覚えている。

重傷・重病の患者さんを助けられる名医がいない時は、

僕が一か八かで医学書を高速で読み漁り、

あらゆる外科医に勝る精密さで大手術を完遂してみせた。

Dr.スゲーと言ってほしいものだった。


ついさっき、ビギーが突いた終点キャンセルの位置を僕は全て記憶している。

一日名医をやったのと同じで、

今覚えても、すぐに忘れるだろう短期記憶だが、

ジェーンを助けるには問題ない。


……本当にどうして戦いとか手術に関しての

専門家クラスの細かい知識は覚えられないんだろう。

生き物図鑑は好きだし、バイオテクノロジーも修めているし、

武術や格闘技の観戦は好きなんだけどなあ。


とにかく、ビギーが突いた終点を同じように突いてみた。

一回押しただけでは効果が見られなかったから、

何度も何度も繰り返しツンツンしてみた。


「ぷはぁっ!!」


終点キャンセルの場所を知っていても、

どうすれば治せるかはよくわからない。

そんな時は、ゲームでよくあるコントローラーぐちゃぐちゃ戦法だ。

よくわからないゲームでも

コントローラーをぐちゃぐちゃに動かすとなにかしらの技が出るもの。


人体にそれをやるのは本来絶対にやってはいけない。

けれど、僕もジェーンも高速で治る体だから、

多少はおかしなことをしても治ってくれる。


「どうだい? お父さんはスゴイだろう。

 バッチリお役に立てたぞ!」


「後ろ! 後ろ!」


「後ろって、僕は君の後ろにいつもいるけど」


「背中にいても前しか見たことないでしょ!!」


「んもう、そんなに慌てて……わっ!」


慌てぶりに、後ろを見てみると

背筋が凍る思いをした。


至近距離で、

可愛い小動物を眺めるくらいの感覚で、

ビギーという女性が、しゃがんで、

両膝に肘を乗せて頬杖をついて眺めていた。


「魔術だ……血水魔法?」


「そ、そうだよ」


「初めて見た……ぶよぶよしてるのに

 しゃべったり変わったりで面白い……」


「ジェーン。この子、友好的だよ!」


「どうでもいいのよ、今、何してるか覚えてる!?」


「僕が君を治したんだよね。

 なんでかというと……試合中だからだった!」


浮かれたせいで頭から抜けていた。

今はこのハイテク・エルフの里に滞在し続けられるかどうかの瀬戸際だった。


「魔術が好きとか、そういうことで取り入ろうったってムダよ!

 お父さんと違って、あたしは人を疑えるタイプ!

 あたしは魔術好きとかじゃないし、ラウンドツーをさせてもらうわ」


そう言ってファイティングポーズを取ったジェーン。

名残惜しそうに膝を払って立ち上がる、対戦相手。

マスター・空手は空手を極めた強さだった。

しかし、この女性は……そもそも空手なのかな、これ。

僕の知識だと、彼女の技術の源流であろう人は、空手家ではなかったのに。


「君のその武術は誰から教わったのかな?」


直接、尋ねてみたが返答はない。

言いたくない、または言えないということか。

それなら訊くのはやめておこう。


「聞いてもムダですよ。

 彼女の空手は彼女の父より受け継がれし家宝、

 一子相伝の永遠空手なのです」


「そうなのか。お父さんもきっと凄く強いんだね」


そう言うと、ビギーは頷いた。

親子仲も良好のようだ。

安心した。最近、家族関係が悪い人をたくさん見てきたが、

やっぱり親子は仲良しが一番だ。


「お願いがあるの。

 そのマント、色々とぶにぶにさせてみて」


手合わせ中だと言うのに、お願いをされた。

どういうつもりなのかはわからないが、

やって困るものでもなかったから、やってあげた。


「わぁ……! 面白いし、可愛い」


「隙ありーーーー!!」


僕に気を取られていた間に、

ジェーンが攻撃を仕掛けた。

口から白い火を吹き、

視界を奪って、熱で判断力を下げようとした。

これはいくらなんでも卑怯過ぎる。

あの無垢な笑顔を見なかったのだろうか。


「ちょっと酷すぎ──」


「そこからド真ん中三回転蹴り!!」


炎に飛び込むように空中回し蹴りを仕掛ける。

炎の真ん中を通って火傷を負っても、

超高速自己治癒ですぐに傷は塞がるので問題ない。


自分の体を活かした戦い方だ。

炎はすぐに晴れた。

両手で円の回転をしたビギーの前で。

文句の付け所のない完璧な廻し受けをされた。

これにはどれだけ火炎放射のように口から火を吹いてもムダだ。


「ぐわーーーー!!」


そのままに目にも止まらない突きをもらい、

宙をくるくると舞ったジェーンが脳天から着地した。

地面が陥没し、地面に首が埋まって、

あられのない姿で倒れる。


仰向けなのに首だけが地面に埋まっている。

とても危険な姿勢だった。


「待ってて! 今直すから」


さっきと同じく終点をガチャガチャつついていると、

初回よりも時間がかかってしまった。


後ろではビギーがバレないと思ってか、

控えめに僕の体をつんつんつんつん突いている。

その感触、肌触りにワクワクしているのが伝わってきた。


「ぷはぁ。何なのよ、もう!」


ジェーンが起き上がるまでも、

ビギーは再度、僕を邪魔せずにつつくだけで見物している。

まったく不思議な女の子だ。


マントがうねうねしてジェーンのスポットを

高速で適当に突いているのがそんなに面白いのか……

面白いのかもしれない。


ふと、気になることがある。

周囲の観客の無反応、無言ぶりだ。

これまでは何かある度に観客の反応があった。


だが一番期待すべき大将戦だというのに、

エルフは無言で事態を見守っている。


「くうっ……何度も何度も……!

 あたしは、弟の期待に答えて貴女を瞬殺したいのよ!!

 せめて勝たないとここにいられないじゃない!」


「えぇっ……」


訴え、叫びに、ビギーは動揺した。

予想外のことを言われたようだ。


「私が勝ったらいなくなっちゃうの?」


「そうよ! だから貴女には絶対に負けられないわ!

 エドガーが自分を責めちゃうもの!」


あまり表には出していないが、

さっきの弟の告白が、

大変な衝撃だったようだ。


彼の自分への想い、憧れの対象であることを聞かされ、

絶対に負けられないという想いに突き動かされている。

いつもは周りのことを考えない前のめりをするジェーン・エルロンドが、

今は誰かのための前のめりで周りが見えなくなり始めている。


「落ち着こう、ジェーン。

 彼女は敵じゃないし君のバトルセンス抜きで立ち向かえる相手じゃない!」


「でもあたしは今、胸とかお腹がフワフワしてるのよ!

 絶好調な気分だわ!!」


「それはね。浮かれてるって言うんだ」


なんとか諌めようとしても、

こうなったジェーンは聞いてくれない。

エドガーが起き上がるまでに決着をつけて、

彼が信じる無敵の姉として戦勝報告をしたいのだ。


だが、ジェーンは、戦いにおいては勝利への意欲がなく、

一歩引いた目で臨むことで

これまで勝ってきた。

未知の欲求を飼いならしながら、これほどの相手に勝つのは不可能と言っていい。


「喰らえーー!」


闇雲に出したキック。

角度もタイミングも完全に視認している。

其の上で、ギリギリのところで

当たったように見せかけた上で避けた。


「わぁー」


気の抜ける声でふらふらとよろけたビギーは、

へたり込んでからゆっくり横たわる。


「まいったぁー」


「勝負あり!!

 《稀人地獄五番合撃》終了!

 勝者──ジェーン・エルロンド一行!!」


長の一声で果たし合いが終わった。


信じられないくらいにあっさりとした結末だ。

観客も勝ち負けへの反応ではなく、ビギーの空手を見られたことの感想を口々にしている。


「久方ぶりに観たが、究極に相応しいな」


「まったくだ。あれで巻藁もろくに突かぬというのだから」


「魔術習字など、いったい何の意味があるのか」


「親の意向にも背いて、

 我が里、億年に一人の至宝ともあろうに」


彼女の独断、空手五番勝負の敗北は、

さほど優先順位が高くないようだ。


彼らにとっては、マスター・空手がエドガーに勝ったことの方がよほど感動的らしい。

……それだけ、ビギーという女性はこのエルフの里において

隔絶した実力者なのだろう。


勝って当たり前、一人で敗北を決めても

誰も口を挟むことはしない。

彼女は最強の空手家だから。


マスター・空手の発言には一切間違いがなかった。

大将を急遽任されたビギーという人物。

他の代表と違い、空手を感じることは一切なかったが、

その通りの圧倒的な実力を持っていた。


ジェーン・エルロンドが手も足も出ないで負けた上で、

おざなりに勝ちを恵まれた。

そのことに、蹴り終えてからじわじわと理解し始めたジェーンは、

やり場のない感情で、はっきりと不快感を浮かべた。


「馬鹿にしてんの?」


……これはびっくりだ。

ジェーン・エルロンドはずっと戦いや運動といったことに、

あまり大きな興味を示さず、勝敗も拘っていなかった。


彼女の人生において、彼女以上の運動神経と戦いの才能を持つ人間と戦うことはなく、

自らの裡側に“勝ちたい”という欲求を持つこともなかった。


それが、相手に勝利を与えられたということに、

これまで見せたことのない類の闘志を浮かべている。


相手に勝ちを『譲られる』ということで、

これほどまでにプライドを逆撫でされるというのは、

ジェーンにとっては新体験。


それがどういった影響を与えるのかはわからないけれども、

シンプルにジェーンの内面に大きな変化が起きようとしているのはわかった。

彼女が運動での競い合いに目覚めたら、

米倉家の横綱こと、僕とジェーンの再戦もあるかもしれない。


今から父娘の相撲に向けて褌を締め直す心意気になっていた僕だけが、

観客の中にいた違和感に気づいた。


みんなはエルフの空手家という異文化に目を回しているだろうが、

僕はエルフについて、それなりに知っている。


ビギーが土俵から降りて帰ろうとする先、

彼女の父親らしい者の隣に、

極めてユニークな服装の二人がいた。

頭にはサークレット、背中には大剣と大盾、

エドガーがしていたのと同じ胸当て、

下半身はピッチリとしたレスリングトランクスの壮年男性。


隣には異様に大きな胸を

薄手のローブだけ纏い、質素だが高級な造りの樫の木の杖を持っている。


僕は唇の動きで話したいことがわかる。

したがって、こちらを指さして、ビギーとその父らしき男に、

奇妙な出で立ちの二人が、なんと耳打ちしているのかもわかった。


「奴がターゲットだ」


「ジェーン・エルロンド、私達の愚娘よ」


「奴を抹殺し、奴の血液とエドガーを連れてくるんだ」


「娘の血は特に丁重に扱って。

 私達の本命の息子だから」


僕の時代でもかなり珍しくなった、

王道の権化みたいな“勇者”と“賢者”の格好を、

ジェーンとエドガーの両親がしていた。

その格好で、娘の殺害をビギーに依頼していた。


…………とりあえずジェーンには

ご両親がコスプレに目覚めたことから話そう。

段階を踏んで、親の命令でビギーが殺しに来る、かもしれないのを打ち明けるんだ。


実の親が勇者と賢者のコスプレ(しかも下半身はトランクス)をして自分を殺しに来る。

ショッキングな話だ。

呑み込むのに時間のかかることはステップを踏むのが一番だ。


「…………あの、全部声に出てる」


絶望しきった声でジェーンが言い、

姉の視線を追って目を覚ましたエドガーが、

スゴイ顔で吐き出す仕草をした。


「うげえっ」



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