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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【九】もったいない

【九】


副将戦。


これまでの僕らの陣営は、

ブーイングは貰わずとも特に歓声を送られることもなかった。

今回は違う。エドガーは“エルフにモテモテ”になるタイプだった。


ぴんと伸びた背筋、

絶対的な体幹の良さ、

分厚い胸板、太い腕。


どれもが空手家向きのマッスルボディだ。

現代のエルフの価値観ではさぞ魅力的に映るのだろう。


「素敵……」


「なんて太い腕……あれで巻藁を突けば、

 どれだけの快楽があることだろう」


「見るがいい、あの象が如き太もも、

 足刀だけで空気が割れかねんぞ」


「鋼のようなボディ……」


対照的に、副将の長は肉体的には特筆するものがない。

むしろ、これまでの代表空手家と違い、

中肉中背の魔術が似合うエルフの体型だった。

代表者の中では、もっとも格闘技、武道に向いていない体格だろう。


「質問いいでしょうか。

 戦斧を使ってもかまいませんか?」


「構えてみてください」


そう言われ、土俵を挟んで向かい合っていた二人の一方が、

巨大な斧を展開して、左腕を前に出し、

右手だけでいつでも攻撃を繰り出せる構えになった。


それだけで何をしたわけでもないが。

満足げに目を細めた長は、

エドガーの武器持ち込みを認めた。


「貴方と武具との間に空手がありますね。

 ご自由にお使いください」


「なんと……そうなんですかスゲーマン様!?」


振り向かれても僕にはわからない。


わかることと言えば、

ぽかぽか陽気の昼下がりに、

土俵で戦斧を構えている人って凄く異様に見えるなと言う驚きだけだ。


「バズーカ道、それはバズーカとの間に空手を築き、

 バズーカを手足の延長にするものです。

 ですから、反則ではありません。

 貴方の武具も、同じことです」


なるほど、その論に従えば、

たしかにエルフ空手バズーカ道はルールに合致し、

ベスの銃は特例として認めた寛容性になるか。


「納得したよね?」


「え、全然。

 向こうの匙加減で反則が決まってるだけじゃない」


ジェーンはドライに切り捨てた。

そうかなあ……ベスだって納得しているのに。


「ね、私ってラッキーだったみたい」


「よかったね!」


手に載せたスライムとコソコソとお話している。


だいぶ精神状態が良くなっているようだ。

安心した。


とにかく、《惑星・不動拳》の長と

僕達の中で一番鍛え上げられたボディを持つエドガーが

同時に土俵入りした。


土俵を半分は埋めるのではとさえ思う、

戦斧のプレッシャー。


長の両拳はあまりに小さいように見える。

正面からぶつかり合えば、

長の肉体は呆気なく砕けてしまうかも。


「それではお先にどうぞ」


「はい!」


挑発めいた誘いに素直に乗って、

肉厚の刃が振り下ろされた。

避けると思いきや、その様子はない。


どころか、刀身に無造作に手を掲げ、

自分から斬撃を受け止めにいった。

馬鹿な。


いったいどうするつもりなんだ。

腕が真っ二つに裂かれてぶら下がるだろう。

それを予想していたら、

攻撃を受けたのはエドガーの方だった。


それも、打撃をもらったのではない。

斬撃をもらったのだ。

彼が着用している胸当てが全壊し、

肩紐だけでぶら下がった。


エプロンよりも役に立たなくなった胸当てを捨てたエドガーは、

今起きたことに愕然とした。


「何故……? どういうことだ」


「何あれ、スゴイ!!」


「兄さんの怪力がそのまま返ってきたのか?」


何が起きたのかを理解している者はいない。

ただ、侮れないことが起きたことだけを直感していた。


カウンターというのがどういうものかの知識はある。

それが決まれば相手を絶命しかねないのも知っている。

しかし、斬撃を斬撃で返す素手のカウンターは知らない。


長の手はエッジィと違い、部位鍛錬による硬質化をしていない。

それに、人差し指と中指を少し曲げているだけで、

打撃さえ繰り出した気配がない。


「さあ、どうしますか?」


後手を組み、長は顎をしゃくりあげる。

死にかけて、素直に乗れはしない。

エドガーの双眸に警戒が浮かび、それからまた戦斧を振るった。


今度は横殴りの斬撃。

大型トラックの暴走めいた威力。

そこにも同じように手を差し出すが、

今度は相手の手に触れる前に斧を下へ方向転換し、

土俵を叩き割った。


攻撃の正体、正確にはカウンターの仕組みがわからないなら、

間接的に攻撃しようということだ。

すぐの方針転換、猪突猛進めいた彼は、

姉とよく似た思い切りの良さが光る。


「では普通に攻撃をば」


そう呟いた対戦相手は重心を低くし、

両拳を顎の前に置いた。

全身を硬く強張らせ、全方位の打撃を耐えようということだ。

事実、戦斧がめくりあげた土俵は、

ブロック単位で長の手足、頭、腹部にぶつかった。


一発一発が骨折、内臓破裂もありえるもの。

しかし、耐えきってすぐに

攻勢に転じた。

エドガーの膝に足を載せて、

跳躍し、こめかみに膝がお見舞いされた。


強力な一撃を出し終わった直後という、

もっとも力が抜けがちなタイミング。


膝が折れたが、地面に突き刺さった斧を支点に堪えてみせた。

そうしてまた、長が相手の攻撃待ちの姿勢に入った。


相手がカウンターの名手なのはわかった。

そこで、バトルの天才を姉に持ち、

自らも若くして国一番の強者と目されたエドガーは、

静かに同じく待ちの姿勢に入った。


カウンターの使い手に待つ、というのは

優れているようで、リスキーだ。

何故なら、達人であればそのくらいは絶対に対策している。


その通りに、相手の動きを待つエドガーに、

長は次々と土俵の欠片を投げつける。

次々に顔面部分に当たるが、エドガーは微動だにしない。


距離を縮めて下段蹴り……のフェイント。

それにも引っかからず、両足を浮かさない。

ジェーンの気質とは逆の性質、

辛抱強さを持って、相手が決定的な動きをする、

その瞬間を狙っている。


彼にその様な一面、適性があったとは。

騎士団を率いていた理由が改めてわかった。


「大した研鑽ですね。

 その若さでよくぞ、そこまでの心に練り上げました」


「ありがとうございます。

 ですが、俺は負けませんよ。

 勝たねば学校が刑務所なんだ!!」


正確には一敗してもまだ大丈夫だ。

だが、長が言った大将がスゲーマンより強い、という発言は気になる。

こういう紹介で、本当に僕に勝った例はごまんとある。

決して油断してはいけない。

もっとも、戦うのは僕ではなくてジェーンだけれど。


「もう待つのはやめましょうか」


数度跳んで不安定になった足場を確認し、

長はすぐに距離を縮めた。

空手、それも原初にある流派は、

とても広い間合いを一足で詰める動きがある。

上ではなく沈むように前方へ跳躍し、

速度と体重を乗せた順突き……ボクシングで言うジャブを放つ。


空手特有の必殺技だ。

琉球に棲まう神獣が狩りをするのを目撃した武術家が、

この動きを作ったという説もあるくらいだ。


顎への被弾は辛くも避けて、

頬で受け止める。

それだけで背骨が折れかけたとわかる。

だがエドガーはタフだ。

左腕で相手の突き出した腕を掴んで、振り上げて叩きつけようとする。


「うぉっ!」


親指の付け根を当てる手刀で

両目の間を直撃した。

背刀撃ち、お手本のような練度だ。


視覚とバランス感覚が消失したエドガーが膝を突く。

土俵だから敗北かと思ったが、

これでは終わらないようだ。

土俵の使い道が変わっていて助かる。


「スゴイ……スゴイな……!

 エルフ空手は、何をしても技が返される。

 これまで何でもパワーで押し通したのに」


長のこれまでの動きを見ると、

初めの圧倒的なカウンターを除けば、

真っ当な空手家としての能力をどれも最上級に磨いたものだ。


特化型ではなくバランス型。

それは多少パワーに偏重しているだけでエドガーも同じはずだった。

単純にかけてきた年月があまりに違いすぎた。


数百年鍛錬してきた者に、

20年にもならない期間鍛えた程度で戦うとなれば。


「これは提案なのですが……」


力の違いを徹底的に思い知らせたのを確認し、

長は無防備を晒して提案した。

ここまで圧倒されれば、不意打ちをしかけても難なく対処できると相手もわかる。


「ここにとどまり、私の弟子になりませんか?

 それならば、貴方の一行もここにいていいとしましょう」


「…………この年齢で新たに武術を習えと!?」


「記録によれば、スゲーマンの時代、

 ヒーローと呼ばれた人々は遅咲きも一般的だったそうですよ。

 むしろ、貴方は新たな道に専念するには若い方です」


事実だ。僕の時代、

ヒーローもヴィジランテも、

アラフォーどころかアラフィフデビューで結果を出す人が沢山いた。


どうやってその年齢で忍者に弟子入りしたり、クマ王国で研究して

戦えるだけの力を得られたのか、まったく不思議なものだが、

僕もそういう風に生きたいものだと考えていた。


人生とは常に勉強と発見と成長なのだ。

僕も、デザイナーとして

秋田を盛り上げるマスコットを生み出そうと、

ずっと苦心していた。


諦めずに続ければ、

いつかはちいかわレベルの大ムーブメントを

秋田から送り出せると思っていたものだ。


「貴方には才能がある、排他的な里人も貴方をすでに認めている。

 私の技術を修めれば、たちまちに至高の空手家になれるでしょう」


…………べつに悪い提案じゃないな。

この里の人たちがエドガーを受け入れてくれるのはわかる。

彼の才能を見出して評価してくれる人がいる。

大成すると太鼓判を押してもくれている。


「まあ良い提案じゃないの。

 考えてみれば!?」


「し、しかし……」


姉にそう言われ、弟が困惑する。

不満点はなさそうだが、

恐らくは戦斧を使った空手も学べるだろうし。

提案された側は応じる様子がない。


「その……遠慮しておきます」


「理由を聞いても?」


そう言われ、彼はおずおずとこちらを見る。

彼は何度も何度も、僕にありえない神格化をしてきた。


それは、両親に戦争や殺し、姉を殺害するのを何度も要請される人生で、

ヒーローという概念がとても新鮮に魅力的に映ったかららしい。

“ヒーローをやりたい”、“スゲーマンから離れたくない”というのが、

断る理由の大半を占めるのなら、

こちらからも何か助言をすべきかもしれない。


「明日も知れない体が、姉の米と腹筋ローラーで頑丈になっても。

 任されるのはやりたくない仕事ばかりでした。

 それも、姉に顔向けできるかわからないような、

 時には彼女のスタンスとは真逆のことをしました」


彼が騎士団長になっても、両親への感情がまるで良くないのは知っていた。

しかし、そういう風に思っていたのは、

僕にもジェーンにも初耳だった。


「俺は体は鍛えられても、頭は良くありませんでしたから……

 スゲーマンさんのことを知った時、俺の心に過ったのは、

 “これなら姉さんの助けになれる”でした。

 おこがましいかもしれませんし、当時は殺されると思いましたけど、

 米と腹筋ローラーをくれた姉は……ずっと俺の最高のヒーローです」


斧を担ぎ、それから両足を広げて、

再度、重心を下げた。


「姉の力になりたいです。

 姉は俺を必要としませんけど、

 俺なら突っ走りがちな姉のことも人に繋げやすいと思います」


聞いたことがなかった、

姉への本心、それと彼の動機の根幹。

エドガーが空手への誘いを断った理由は姉の方にあった。


彼のことを誤解してしまっていたようだ。

両親のことで姉が気落ちしていたことも、

本当は家族と繋がりを深めたがっていたのも気づいていなかった。


てっきり、姉の感情に無関心なのだと思っていた。

ただの人づて、少し目の前で動いた程度で、

彼の姉への想いを上回ったかも、と思った僕が恥ずかしい。


「……ジェーン・エルロンドは貴方が追いつける人間ではありません」


「いいんです。俺の中では、ずっと姉は無敵なんです。

 でも、追う努力は、近くでやりたいです」


「エドガー……」


ずっと家で、エルロンドの名では一人だという意識があったジェーンに、

彼の言葉はどれほどに大きな意味があるか。

ただ、弟の名を呟く姿からは伺い知れない。


「というか、俺が生きているのは姉さんのおかげですからね。

 恩返しをできたと確信してから、その提案を考えます」


彼にとって、僕は憧れであり現実的な目標なんだろう。

だが、それも全ては姉に少しでも近づくためだったようだ。

ずっとジェーンに呆れて、振り回されて、

放っておくところばかりだったから勘違いしてしまっていた。


弟にとって、ジェーン・エルロンドこそが絶対のヒーローなんだ。


姉弟の事情を知らないだろう長だったが、

彼の言葉、心には感じるものがあったようだ。


それ以上は追求せずに、

新たな構えを取った。


「それならば、本気でお相手するのが礼儀というもの」


取った構えは左手を高く掲げ、

右手の掌を地上に向ける天地上下の構え。


僕の時代における近代格闘技ではお目にかかることはまずないが、

急所が集まる正中線上に両手を縦に並べ、

受け手は掌底、目潰し、顎揺らしをし、

がら空きの脇腹への攻撃は膝と肘で挟んで捉える役割がある。


つまるところ、両手両足を柔軟に防ぎと掴みからの攻めに移行できるという

極めて防御力の高い構えであった。


「気をつけるんだ、エドガー!

 その構えには生半可な技が通じないぞ!」


「なら全力を出します!

 ここまで言って何も出来ないじゃ格好悪いですもん」


無計画に全力の当たって砕けろをしようとする弟に、

姉は両手を口に添えて大声を出した。


「魔術を使いなさい!!」


「え、エルフに魔術を……?

 そんな河童に泳ぎを教えるような──そうか、空手家だった!」


なるほど。

ジェーンの指摘まですっかり忘れていたが、

この里のエルフは魔術から空手に文化を大々的に変えた者達。

バズーカさえも空手に取り込むほどに広がったということは、

途方もない年月に渡って、魔術から離れていたわけだ。


「貴方の最強の魔術を使えばわけもわからず通るわ!」


「わかりました!」


そう言ってエドガーが巨大な戦斧を大きく振り上げる。

力が注がれるごとに、

斧が段階的に膨らんでいく。


エドガーのバンプアップはシャツを容易く切り裂くほどだが、

その彼の全力の技は、マッスルボディをさらに上回る膨張率だ。


「おおぉ……」


「マナを注がれれば注がれるほどに……」


「刃にでっかい重機詰め込んでんのかいってくらいにデカくなっていく……」


「美しい……」


斧はたちまちにハイテク・エルフの里の

超高層ビルと同等の高さにまで及んだ。

そして、戦のための斧は、形が大きく変わり、

分厚い鎌のような、刃先を前に突き出した形状になった。


「これを見せるのは、貴方が初めてになります。

 ですが、個人的には姉に見せることの方が意味合いが大きいです」


「そうですか……あまりあけすけに告白しなくても良いんですよ?

 攻撃を受けるのは私ですからね」


長の五体は天地上下の構えから変わらない。

この巨大な攻撃にも、耐えられるというのか。


「あれを長が受けるのか!?」


「いくらマスター・空手と言えど……!!」


「──大開墾」


技名と一緒に、超巨大な斧が振り下ろされた。

風圧が観客を吹き飛ばし、

ともすれば長もプレッシャーだけで踏み潰しそうな。


「征!」


天の手で斬撃を受けた。

周囲の大地は砕かれて、土がめくれて巻き上げられる。

これだけの威力、

片手だけで攻撃を止められるわけは……。


「星ッ!!」


そこから地の手を突き出し、掌から黄金色のエネルギーを放った。

まるで、斧から伝わる力を直接的に前に撃ち出したかのようだ。


「「「「ハァッ!?」」」」


観戦しているジェーン一行が一様に顎が外れんばかりに驚いた。

魔術以外で何かを放つという現象に慣れていなかったのか。


僕の時代、武術を極めることで

体内の氣を放つという人たちがいた。

流野りさ/ストリーマーが鍛錬で魂魄だけの自由移動の術を修めたように、

外から取り込んだマナを体内で氣に変換し、

手足の延長として使う武術があった。


今思えば、初手のカウンター、

斬撃だったが、長の指が曲がっていた。

あの時も、今のように相手の攻撃の威力を

氣に転換し、指から氣を放ち、刃としていたのか。


大技を出し終えて、すぐには動けないエドガーに、

長の氣は淡々と進んでいく。

避けられない、と誰もが思ったその時、

大地が揺れ、雑草がたちまちに伸びては

氣の進行方向を覆うように茂った。


高層ビルが建ち並ぶ中での広場に、

小規模の樹林ができあがった。


「この技は、大地を耕して、

 マナを注ぎ込んで、土壌を活性化させるんです」


氣の威力が弱まり、

樹林の横を走ってエドガーが素手で長を殴った。


初めての一撃、右拳が堂々と突き刺さった。

被弾した者の眼球がぐるんと、上を向き、

全身が弛緩して、そのまま──


「独楽投げ」


エドガーの突き手を外側から掴み、

全身を勢いよく回転させ、

その遠心力で投げ飛ばす。


巨体が投げられ、

受け身も取れずに呻いたエドガーの胸板に、

トドメの踏みつけが刺さった。


「しゃあっ!!」


勝負があった。

エドガーは失神して、

エルフ達が大歓声を上げた。


「長の空手、いつ観ても素晴らしい!!」


「終わってみれば圧勝だったな!」


「やはり魔術より武術よ。

 長の氣の循環術には到底敵わん」


「やはり我らの道は間違えていなかった」


「あの者も空手を学んでいれば……惜しいな!」


「姉とやらにどれだけ義理を感じているかはわからんが、

 空手を求める以上に真理に至れるものなどあるまいに」


「それが外の者の限界よ」


周りが徐々に好き放題言ってくる中で、

ジェーンは優しくエドガーを抱きかかえ、

目を覚ましたばかりのクマリオンに預けた。

この中なら、クマの彼が、巨体を看るのに適していた。


──びっくりだね、エドガーがあんな風に考えていたなんて。


「うん」


何かしらをもっと力強く、

長く語ると思っていたが、短い返答だった。

すぐに大将戦が始まり、土俵入りする。


長の代わりに大将になったビギーという女性。

紫と黒の薄布を何枚も重ね、

その下に長い手足を伸ばして、

とても長いブロンドを一文字に切り揃えている。


エルフというには、あまりに空手の匂いがしない女性だった。

むしろ、魔術の方に縁が近そうだった。


「貴女も」


「うん?」


相手の大将が静かに口を開いた。


「魔術を使うの?」


「いいえ。興味がなかったから、覚えてないわ。

 あたしよりもっと上手な人にやってもらう方が効率的だったし」


「もったいない……」


眉を伏せて、身長190cmは軽々と超える

その女性は幼い少女のように首を傾げた。


「魔術って綺麗で楽しいと思う」



「ごめん。今はお話する気分じゃないの」


銅鑼が最後の試合の合図を轟音で知らせる。


「弟に“瞬殺した”って報告しないと格好がつかないから!!」


最初からのフルスピード、

それも、エドガーの言葉と姿で、気分が高まったことによる、

彼女の最高速度の更新。


「わかった」


ジェーンの狙いは速度を乗せたハイキックによって、

顎の先端を掠めて、脳を揺らすこと。

そして、それは問題なく果たされようとしていた。

「じゃあ弟さんとお話してみる」


長い指先がジェーンの体の数カ所を押す。

抜き手で刺したわけではない、

スイッチを押すくらいの強さで振れただけ。

それだけで、操り人形の糸が切れた時のように、

ジェーンはその場で崩れ落ちた。


「う……あぁ……?」


痛みを一切覚えず、

純粋に体を動かすことが不可能になっている。

声もまともに発せられないジェーンが、

口をパクパクさせて事態の理解に努めようと必死に頭を動かしている。


…………僕は知っている。

あの技は、かつて地上最強と呼ばれた武術家が編み出したものだ。

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