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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【八】畏怖が浮かんでいた

【八】

挿絵(By みてみん)

ベス・イーストのスーパーパワー。

これは魔術ではなく、スーパーパワーだ。

それは、粒子の支配である。


これにより、彼女の意志と能力の発展によっては、

指をパチンと鳴らすだけで宇宙を滅ぼすことができる。

そんな力を持っていれば、どんな相手にも勝てると思うだろう。


僕の知っている人物、言うなれば、ヒーローにおける心の師匠は違った。

彼も粒子を操る力を持っていた。

だが、いつも路地裏のゴミ捨て場の横で、ボロボロになって斃れている人だった。


だから、僕は何度も彼の様子を見に行って、

そこいらの少年少女の不良チームにも負けることすらあった師匠の介抱をし、

家に送ったり、買い出しをしたりしていたものだ。


その頃の僕は、道に迷っていた。


──僕のマネをした子供が、二階から飛び立ってしまって……。

  幸い、怪我はなかったのですが、このようなことが続くなら……。


そんな僕の悩みに、

怪我を消毒して、絆創膏を貼りながらも、

師匠は悠然と笑った。


──ヒーローとしてではなく、

  超常を操る者にもっとも必要なものを身につけなさい。




「ふんふん。でも弱いのは困るわ。

 なんでって、あの子は小さいから、あの能力で抵抗する力がないと、

 悪用されかねないもの」


僕の話を聞いて、ジェーンは肩を竦めた。

それはその通りだ。

“あの人”も、あくまでどこまでも力を使えた上で、

言葉と意志だけで万物の消滅と再構築が可能な上で、あえて“使わない”を選んでいた。

それは、その気になったらちゃんと強くなれるからだ。


「スゲーマン様にそんなお師匠が……」


「僕が勝手に言っているだけだけどね」


最後まで、弟子とは見なされなかった。

そんな経験だが、ベスの心を守るのに役立てられないかと、

ジェーン達に打ち明けた。


「あの光景を見ても、すぐに効くようなものはあるとは思えないな」


クマリオンの言うように、次鋒戦は防戦一方だ。

正確には防いでもいない。


エルフ側の次鋒は鎌鼬の使い手だ。

部位鍛錬を極めて両腕をしなる刃そのものにし、

虚空でも振れば真空の斬撃を生み出せる。

虹色の鱗粉めいた発光とともに、超高速で移動をするヒーロー。

正確には連続転移をするベスには一切当たりはしない。


しかし、いつかは追いつかれるだろう。

ベスに一切の攻撃をする意図がないからだ。

何度も攻撃のチャンスがあっても、まるで何もせずに、

逃げることに没頭している。


戦いが始まる前は意気込んでいたが、

これまでに国と世界をひっくり返そうと野望に燃えていたシオンに操られ、

それによって親しい仲間を消滅させたことが、外れぬ心のブレーキになっている。


頭では意志を固めても、戦いを実行する心になれていないのだ。


「オホホ、逃げるだけでは戦いになりませんよ、お嬢さん。

 このエッジィの風からはねえ!」


エルフはおおむね性差の少なめな話し方をしがちだが、

その人物はかなり女性的だった。

フィニーも女性的な話し方だったが、

それは彼女のママの影響だろう。


エッジィは自分の意志でその話し方を選んでいる。

刃同然に硬くなった両手もだが、

格式の高さと高水準をキープした画一性を良しとするが、

代表になる者は二人続けて、非常にユニークだった。



「強すぎる力をさんざん弄ばれたんだからしかたないけれども、

 ここで手も足も出ないで終わるのは、あの子のこれからに良くない気がするわ!」


「そうですね……戦えないトラウマを治せず、

 退役せざるを得なかった部下を多く見てきました」


「がんばってー! ベスがんばってー!!」


ニュルが応援するが、

精神的に追い詰められて正常に振る舞えない彼女には聞こえない。


「ほら、行き止まりよ」


ベスの逃走先を読んだかのように、行き止まりの位置に巨大な竜巻を送った。

そこに入れば全身を斬ってしまうだろう。

彼女が恐れているのは、力を使いすぎて周囲をまた傷つけることだろう。

ならば、僕には師匠の言葉がある。


「彼女を弱くできるものはないかな。

 できればそう、“遅くなるしかない”ものがいい」


能力の使い方が速度一辺倒なのだから、そこにブレーキをかける。

そうすれば、徐々にその強さの自分に慣れていき、力を暴走させる、

悪用されるという恐怖も薄れていくはずだ。


「と言っても、心当たりのあるものはこれしか……」


エドガーが取り出してきたものを目にし、僕は迷わず掴んで放り投げた。

放物線を描いて、ベスの手に収まったのは、小振りのゴム弾を充填した銃。

非殺傷を旨とした、ともすれば子どもの過激な玩具に使われかねないものだ。


「あんなのどうして持ってきたの!?」


「クレオさんが持って行けって」


なぜクレオがこんなものを?

彼女がこの状況を、あるいはベスのトラウマを予期して準備していたとでも言うのか。

空手の果たし合いに武器を使っていいものかは迷うが、

ここで反則負けを取られるならそれはそれだ。


「あれはペッパーボックス・ピストル!?」


前文明の知識を持つフィニーのママが驚きを浮かべる。

ペッパーボックス・ピストルは、複数の銃身を束にし、

薬室と一体化した銃身そのものを回転させる仕組みのリボルバーだ。


胡椒挽きの異名を持っている骨董品だ。

大雑把な造りでも発射だけはできる、暴発の危険が高く、

実用性は疑問視されるが、ベスが使うなら問題ない。


「ベス! その弾丸くらいの速さを意識して!!」


「銃? いけないわね。武器は禁止よ。

 でも許すわ。貴方の空手をもっと見せなさい!」


エッジィが寛容な空手家で助かった。

おっかなびっくり、初めて使う銃を、対戦相手に向け、それから引き金を引いた。

彼女の世界にとっては非常にゆっくりと弾が飛んでいくだろう。

それでいい。弾丸が彼女にとっての尺度になる。


「弾丸に相手を当てるんだ!」


そう呼びかけると、ベスは理解し、相手の背後に回って軽く突き飛ばした。

相手はすぐに手刀で弾丸を叩き落とすが、また、次の弾丸が発射される。

ベスに速度の尺度を持たせる。


これによって、彼女は弾丸レベルの速度という移動の基準を持てる。


何処に基準を置くかだ、と僕の師匠は言っていたものだ。


どれだけの力があっても、

自分がどの領域で生きたいかを認識すれば、

暴走の危険はなくなると。

その通りだったし、自分の力に怯える少女にも通じた。


虹色の発光が弾丸の周りを繰り返し旋回して進むのを待つ。

僕やジェーンの視力なら視認できるが、

そうでないなら虹の尾を持つ弾丸が発射されたと辛うじて認識できるくらいだろう。


これでも弾速に落とそうと懸命なのだから、

ベスのスピードスターとしてのポテンシャルは舌を巻く。

対戦相手も即座に、本命は弾丸ではないと理解してはいた。


だが、逃げてばかりだったのが、急激に動きが変化し、

複雑になっていると、スピードが大きく落ちても対応は困難を極める。

相手がベスの動きを探っていると、横から手が伸びて、足をずらして転倒させた。


これが相撲なら土俵の上で手をつかせた時点で勝利が決まる。

残念だ、これが土俵の上で行われる空手の試合なのが。

地面に進んでいた弾丸が、転んだ相手に当たった。

苦しげに呻いた相手の瞳が燃え上がる。


「滾らせてくれるわね!」


即座に起き上がった両腕が刃の次鋒の周辺には、

とっくに射出されていたゴム弾が四方を取り巻いていた。

その数はおよそ30。

通常なら不可能だが、スピードスターはリロードも速い。


「アッハアアアアア!」


両腕を一度に回し弾丸を払い落とす。

突風の発生。判断力・人格・実力ともに非常に優れた人物だ。

最初からこの戦い方だったなら、結局は負けていた可能性が高い。


今回の戦いでは、弾丸が払われた瞬間に、王手が決まっていた。

ベスはすでに相手の足元に仰向けに寝転がり、銃口を上に向けていた。

引き金を引くと、吐き出された最後の一発が相手の顎を下から打ち上げ、

脳を大きく揺らした。


「負けたわ……」


大の字になって相手が倒れた。

見事な逆転勝利だ。


「反則ではないか!」


「だが当人が受け入れれば余人が言うことではない!」


「臆病で時代遅れの格好をしていたが、後半の動きは見違えたぞ!」


「あの速さ……再現できるか?」


エルフ達も興奮と困惑を隠そうとしない。

銃を使うのが許されたのは本当に意外だったが、これも彼らの空手への信仰なのだろう。

自分らの空手が他所者や銃如きに負けるわけがない。


それは、かなりの割合で正しいと思えるほどの実力だった。

長は未だに微笑みを絶やしていない。


「やったよ、ニュル!」


「すごいや、ベス!

 筋肉がないなんて信じられないよ!」


ニュルに頬ずりをしてから、周囲の歓声に、

ベスは照れて長い魔女帽子の先端を撫で、縮こまった。

勝利よりも、戦えたというのが彼女にとって重要だった。

これでベスの心にかかっていた曇りはだいぶ晴らすことができたのではないだろうか。


「じゃあ俺も負けないようにしますかね」


次は中堅戦、クマリオンが前に出て、向こうの中堅も土俵入りしようとしている。

そこを、長が肩を掴んで止めた。


「遠慮なさい。

 貴方では空手不足です」


「ここに来て何を……?

 私以上に優れた使い手がこの里にいるわけが──」


反論さえも許さず、長のパートナーが中堅を巨大な物体で打ち飛ばした。

ベールに覆われてなにかはわからないが、

こちらが武器を使ったからか、向こうも武器を使うようだ。


「愛する者よ、お願いできますね?」


「……」


無言で頷き、クマリオンと相対する。

どちらも武器を用いた戦い。

空手かと言われるとわからないが、僕の知識によれば、

空手は武器術も豊富に体系化されている。


クマリオンの十一刃流とやらも、立派に認められるはずだ。


「あんた、ベールを取らなくていいのか?」


クマリオンが尋ねるが返事はない。

銅鑼が鳴って開戦が告げられた。

刃紋を施したネイル五本ずつ、昨日折った爪はすでに生え揃っている。

なにかの術か薬か、本人の体質かはわからないが、彼は万全のようだ。

その子熊の剣豪に尋ねられたが、長のパートナーは無言。


「いいんだな? それなら遠慮はしないぜ」


熊の大きな長所とは、パワー以上にスピードがある。

ヒグマの走る速さは時速60km。

さらに、クマリオンはまだ小さくとも、弛まぬ鍛錬を積んでいる。

質量と速度が当たれば、僕レベルでなければ受け止められないだろう。

その子熊の素浪人が動いた。


前方に倒れるような重心の固定、それからの跳躍。

剣術としては達人の領域だ。

完璧な角度と速度で入った。

これは間違いない。


どでかい獲物を持った相手には──


「プウッ」


悲鳴とともにクマリオンがゴム毬のように跳ね飛ばされた。

ぽんぽんと弾んでから受け身を取る。

相手の武器に弾かれたのだ。

それも、とびっきりに大きくて硬い筒、すなわちバズーカ砲に。


「エルフ空手──」


クマリオンが体勢を整えて動き出すよりも、

ベールを脱いだバズーカが火を吹くのが先だった。


「バズーカ道」


圧倒的な攻撃力を誇るバズーカの砲弾が外れた。

空手家には信じられない武器術。

しかし、バズーカと言えば、一発一発の準備に時間を要するもの。

それはどれだけ空手としてバズーカの武器術を修めても、変わらないはず。


「ちょっと何あれ!!

 反則!! 反則反則反則!!」


ジェーンが大騒ぎするが誰も反応しない。

正確にはベスも同意を態度に出して周りを伺うが、

エドガーもニュルも含めて、一切問題にしていなかった。

まあ、彼女らの反応もわからないでもない、

バズーカって大きいしね。でもカッコいいよ、バズーカ。


そうしている間にも子熊とバズーカ道は正面から激突しようとしている。

新たな弾を装填するよりも、

ずっと熊のスピードのが速い。


「取った!」


「バズーカ正拳突き!!」


爪が相手の道着を引き裂くより先に、バズーカを手放した男が、

腰の捻りと踏み込みをバズーカの砲身に見立てて、強力極まりない一撃を放った。

限界を超えた速度と威力により、空気が赤熱化して、短く眩い閃光が発生した。

次に、耳をつんざく爆音。


直近にいれば鼓膜が破裂して当然なほどの。

砲煙のような煙幕に包まれ、晴れると、クマリオンは昏倒していた。


一発。ただの一発でクマリオンは敗北した。

あれほどに強力な剣士が、ただの一撃で。


「エルフ空手・バズーカ道とは形象拳。

 バズーカと正拳突きが一直線に進み、

 着弾にて爆発する性質の共通に着目した流派です」

                                                                                                                                                                 

螳螂拳を初めとした、生き物や物を模した武術は枚挙に暇がない。

エルフでその手のものが出るとは。

ふざけた名前かもしれないが、エルフ空手バズーカ道、

初手のバズーカで遠距離攻撃、

相手が近づいたらバズーカを模した正拳突きで、またバズーカ。

バズーカと拳、二つのバズーカを用いる遠近制覇の非常に実戦的な戦闘法だと言える。


「あれが反則じゃない理由を知りたいんだけどー!!」


僕とは別のところにジェーンが憤慨して叫んだ。

天才的戦闘センスの彼女でも、

空手とバズーカを組み合わせた形象拳は理解の外らしい。


「それが空手だからです」


「バズーカ撃ってた!」


「貴方がたも銃を撃ちましたよ?

 それに比べれば……学びなさい。

 エルフの一挙一動が是、空手也」


解説をしてくれた長が頷く。

そこにあるのは己達のみが空手の文化を体現しているという、

凄絶ですらある傲慢さだった。


伝統を重んじるエルフだが、僕の予想よりも伝統から派生が多面的に広がっている。

これからどんな空手が出てくるかわからなくなっていた。


しかし、それとは別に、向こうの中堅は自分から潰したのだから、

もうこちらの勝ちは決定しているのではないだろか。

残りは長だけのはずだが……。


そうしていると、一際目立つ女性が長の背後に立っていた。

いつの間にかはわからない。

しかし、一瞥で只者ではないとわかる。


重心の安定、背筋の伸び、視点の移動、どちらも隙がない。

いくつもの薄布を重ね合わせた、スラリと背が高く、

真横に切りそろえた長髪を足元まで伸ばした彼女は、一切の揺らぎもなく直立していた。

なによりも、彼女の無言の登場で、周囲の空気、マナ、物体の全てが固定し、動けなくなったように感じられた。


エルフたちが崇拝する『不変』という言葉そのものが、

人の形をしてそこに立っているようにさえ見えた。


「副将は私、

 そして、大将は、このビギーでお相手をしましょう。

 強いですよ、彼女は。スゲーマンより強いです」


言い切った長の目には、はっきりとした、

隣に立つ女性への畏怖が浮かんでいた。


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