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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【五】だってぼくは

【五】


それはエルフの長老の住まいだったが、古式ゆかしい道場だった。


木目フローリング、壁にかけられた木刀、ヌンチャク、トンファー、サイ。

道場の神棚の位置にある掛け軸『不変求武』の四字。

僕の知っているエルフの長老のそれとは、まるで別だった。


松脂と、清潔な晒の乾いた匂い。

どちらかと言えば、体育館みたいだった。

だが、そこに汗臭さはなかった。


その本来あるはずの代謝の痕跡の不在が、僕の知る道場とは別の文化だと教えた。


──どうしてきりたんぽが効果的だったか、わかる?


これから何が起こるかわからない。

とりあえずは気になったことを尋ねてみた。

きりたんぽと空手の混合戦法を取られることがあれば、

戦闘の天才ジェーンでも手を焼くはずだ。


「それは……」


いつもは直球で答えるジェーンだが、

口ごもって頬を赤らめて、言いにくそうにした。

小声で早口に、短く言い放った。


「お父さんが大好きって言ってたから……

 なんかすごく気になって……」


「ジェーン……」


思わず口に出してしまった、内緒話なのに。

僕の感動は胸を満たし、堰を切って溢れんばかりだった。

彼女にここまで思われるとは、僕は実に幸福で幸運だ。


一方で、これはジェーンに現れた新たな弱点かもしれない。

彼女は両親に全く顧みられなかったせいで、人との、特に家族という繋がりに心の深くで強く飢えている。


それはつまり、彼女は家族同然に関係が深い相手が増えれば増えるほど、

その人物の好きなものが、弱点に成りかねないという危惧にも──


まあ、いいか。そんなことはどうでもいいよね。

好きな人の好きなものを好きになれるって本当に素晴らしいことだし。

危険よりも良いところをまずは喜ぶべきだ。父親として。

そう考えて、ジェーンに訪れるかもしれない危険はいったん置いておく。


ジェーン達は後ろ手を縛られ、長老の前に連座させられた。


全員、思い思いの姿勢を取っているが、

長老と、そのパートナーらしき男性はピンと背筋を伸ばし、

見事な正座の型を取っていた。


周囲の捕獲部隊がいつでも攻撃できるように、

両足を前後に開き、いつでも正拳突きを出せるようにしている。


「我が里が誇る突き衾隊です」


銃や剣ではなく、エルフ古来の魔術ではなく、空手。

しかし、その構えは堂々たるものだった。

伊達や酔狂で空手で僕達を包囲しているわけではないとわかった。


「前世がスゲーマンのようで」


「ここにいるのも聞いているんでしょう?」


「貴方達がここまでいらした理由を

 お聞かせいただけますか?」


凛とした眼差し、

細身だがたしかに自己研鑽を欠かさぬ、

自律心の塊のような人であることは見て取れた。


僕の時代、エルフは人間のことを科学などに頼る下賤なもので、

武術など野蛮で、秋田はクマに支配された田舎の中の田舎と蔑んでいたものだ。


だが、魔術から空手にシフトした今のエルフなら、

そんなことはしないかもしれない。

バスの本数、曇の日の多さでこちらを見下すことなんてないはずだ。


「実は────」


ジェーンがここに来た経緯を話す。

国の制度から治安から崩壊し、

今や誰もが犯罪者となり、裁くのもままならないこと。

学院に“入学”した扱いとして収容し、“新入生”として管理していること。

その管理しているのが未来ある子ども達ということ。


このエルフの里〈惑星・不動拳〉に、

ここにはいないクマリオンの勧めで人材勧誘に来たこともだ。


一通り話し終えると、

エルフの長老はパートナーらしい大柄な人物と小声で話し合った。

ジェーンの力なら僕の超聴力で話していることがわかるだろうが、

それを使っている様子はない。

もしかしたら使っているのかもしれないが、表には出さなかった。


話し合いが終わり、こちらに向き直ったエルフの長はきっぱりと言い放った。


「貴方たちをここに置いてはおけません」


そんな気はしていたが、残念だ。

ジェーン、正確にはその内部にいる僕が

原因なんだろうことはなんとなくわかる。


その場の空気が静まり、長は続けた。


「代々、エルフには記録として伝えられています。

 スゲーマンが空を飛び交うようになってから、

 世界も人も異常なものに変化していったと」


否定はできない。

正確には、セイメイが異界とクマ王国を表舞台に晒してからだが、

彼の凶行には僕が深く関わってしまっているから、同じだ。


「今、我が里は別の一件に対処しないといけません。

 ここで厄災を招く存在を受け入れるわけにはいきません」


「スゲーマンがそうしたって言いたいのですか?」


「我らは魔術を信じなくなりましたが、星辰の旋律は信仰しています。

 星と星の触れ合い、並び、共鳴が我らの運命の行く末をみせてくれるのです。

 それに従えば、半年前より我らに激動が訪れるとのことです。

 間違いなくスゲーマンが原因です」


「証拠がないでしょう!」


エドガーが憤慨してくれた。

横でベスがおろおろしている。

せっかくここまで来たのに、帰されてしまうのは不憫だ。

僕からなにか説得力のある反論をしてやれたらいいのだが……。


とにかく話をしよう。


「貴方の懸念はもっともです。

 しかし、これは信じてください。

 何が起こっても世界は滅ぶことなく続けられました。

 何が起きても、僕の目が黒いうちは世界は守ります」


どうすれば今の時代の若者の助けになれるかはわからない。

なので、こういう時は、ずっとやってきたことをまた繰り返す。

すなわち、真摯に相手に語りかけ、誠実さをもって信用を得るのだ。


「我らの里、〈惑星・不動拳〉。

 名前の由来はご存知ですか?

 惑星のように自立して営み、

 里の外の何かに振り回されない生き方を目指すためです。

 決して、ちょけた時の勢いで、

 その名前になったわけではないのです」


なるほど、だから里でありながら惑星を名乗るのか……。

かつては自らを魔術の最先端に居続ける高貴な一族と自称してはばからず、

おっどぉとおっがぁをクマの奴隷なじゃんごしゅ(みっともない田舎者)と……。


おっほん、ダメダメ。悪い考えに行きそうになってしまう。


大昔に両親をバカにされたとは言え、

いつまでも根に持つなんて僕らしくない。

秋田の青空を……東京と比べると曇りばっかだな、それでも思い出すんだ。


とにかく、エルフの里を惑星同然の

自立した堅牢な場所にしたいという信念があるなら、

この時代の彼らの生き方に干渉はしにくくなってしまう。


それは立派な一つの文化だからだ。


「ご理解いただけましたか」


「でもスゲーマンはとっても良い人で、

貴方たちにわざと危害を加えることは絶対にないわ。

 国の全てを賭けて保証します」


「貴女がリトルファムの代表者ですか?」


「はい」


そうとも言えるし、

そうでないとも言えることをジェーンはここぞと断言した。


僕のことにそこまで信頼してくれるのは、心から嬉しい。


「貴女の眼差しを見ればわかります。

 決して、己の意志を曲げることはないと。

 さながら、達人の突きをいなすが如く。

 しかし、達人が捌ける突きは一度に二つも、

 また古来よりの真理」


二個並べられた言葉はエルフの里に伝わる慣用句だろう。

意味を吟味する前に、包囲していた突き衾隊の姿勢が改まった。

いつでも正拳突きを放てる構えから、

今にも正拳突きを放ちそうな構えになった。


これ以上、居座るつもりなら武力で里を去ってもらうという意思表示だろう。

あと一言でもジェーン達がごねようものなら、

この邸宅の道場室を血のプールにするのも厭わないはずだ。


「もう一度言います。

 スゲーマンは誰よりも信じられる人です」


ジェーンが毅然とエルフの殺気に立ち向かった。


しかし、それが相手に伝わってくれるのかというと……。


長老が口を開こうとした瞬間、道場の外より投げナイフが投擲された。

ジェーン達の膝に刺さりかねない位置だったのを、

長が見事に空中で受け止めた。


「何奴!?」


「流石は空手の長。

 まさにマスター・カラテと言ったところか」


長老邸宅、その応接間にあたる道場室のドアに、

クマリオンが寄りかかっていた。

フィニーのお家に案内される時に、

手続きがあると言って里の役所に行っていたのだ。


このタイミングで来てくれるとは、

グレたパディントンみたいな横顔が、

この時はマタギに伝わる熊神の神々しさだった。


今の「傘の剣」の異名を名乗る子熊は、体長5mにも見えた。


「職員さんに話を聞いてもらうのには苦労したぜ。

 なにせ、カウンターに背が届かないからな」


長の手にある投げナイフはクマリオンが折った、

彼自身の爪だった。

それに括られた文を開き、

中を読むと、理性的に退去を命じていた長の眉間に皺が寄った。


「他流派試合専用ルール……

 〈稀人地獄五番合撃〉か。

 このような旧い風習をよく……」


「あんたに前から目をつけている人がいてな。

 ……そいつはもういないが、俺が外交役として調べるように言われていた」


その言葉に思い当たる名前、人物に、

ジェーンは形容し難い複雑な表情を浮かべた。


シオン。彼女、ラスターのアークヴィラン。

もう二度と会うことはないだろう存在に、

間接的に助けられるというのは、

彼女にとっては屈辱だけではない、

多くの色が混ぜこぜになった思いだろう。


「ですが、私が応じるとお思いですか?」


「スゲーマン達と手合わせするチャンスだ。

 あんたがそれを逃すとは思えないな。

 マスター・空手の尊称を捨てない限り」


クマリオンの交渉が、空手家のプライドを擽った。

エルフの文化の変化は非常に緩やかとは聞いている。

悠久の月日が経過しようとも、

僕がエルフを怒らせてしまった時と、

今のエルフがムキになる時、

どちらもポイントが同じだった。


それは、彼らが追っている分野で釣るという極めてシンプルなものだ。


彼らは、社会・寿命の長さが故に、

一つの物事に何百年と打ち込むことができ、そして、そのことに命同然の強い誇りを持つ。

魔術が空手になっても、その激しやすさは変わっていなかった。


「一つだけ。

 貴方達の実力の一端を見せてください。

 エルフには旧くから

 “空手無きは丸耳に劣る”という言葉があります。

 そこに空手はあるのか? 在るなら認めましょう」


「任せて! 

 細くてなよっちいのに武術やってるエルフにイライラしてたんだぁ!!

 だってぼくはマッチョなスライムだから!」


「ニュル!」


ベス達に付き合って連れてこられたニュルが

たちまちマッチョな形態になって、

振り下ろしパンチを長に放った。


……今の言葉は、エルフのそれとは違う意味でよくないな。

後で話をしてみよう。


初対面での戦いよりも、

ベスのスーパーパワーでより良質のプロテインを

規則正しく摂取できるようになったニュルのボディは、

拳だけで長を叩き潰せる大きさだ。


「マッチ棒みたいな体をペキペキだー!」


マスターといえども空手で覆せるサイズ差ではない。

そんな思いを嘲笑うように、

スライムの腹部が背中側まで大きな穴を作って破裂させた。

内部を振動させ、衝撃を突き抜けさせたのか。


いや、違う。半身になり、

上体を丸ごとバリスタのように、

両拳を縦に並べて敵に打ち込む打撃技、山突きだ。

空手の中でもとりわけ攻撃に特化させた一撃。


なるほど、シンプルな攻撃力でニュルに穴を穿ったのか。


「ぷるぷる~~」


「大丈夫?」


目を回して普通のプロテインスライムに戻った友達を

ベスが高速で助けに行き、

飛び散った欠片もきちんと戻した。


ジェーンがあれほどに手こずったニュルを

一撃で退けるとは。

マスターの名に相応しい達人だ。


「いいでしょう。我が里、最強の五人との交流戦をしてもらいます。

 見事に勝利できれば、貴方の望みを受け入れます」


「スゲーマン様の前で試合だなんて……

 燃えてきたぜ~~~~!」


大柄な肉体を見る見るバンプアップさせ、

エドガーが豪快に武者震いした。

その筋肉に、感情を見せなかったエルフ達が思わず目を奪われ、惚けた。


「そして、負ければ貴方達と空手の絆を断ち切らせてもらいます」




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