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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【四】スゲーマン、大失言!!

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【四】


ゴブリンでイメージするものは、

金にがめつく、残忍で卑しい、

群れで襲いかかってくる、そんな凶暴でずる賢い種族。

僕の時代では、物語においては取るに足らないモンスター……という扱いから、

人間を使って繁殖もする恐るべき存在とミーム的に変化し始めていた。


だが、ここにいるゴブリン、曰く、

フィニーのママは、そのどれとも違った。

あまり裕福には見えないが、

娘の思い出の品がそこら中に飾られ、

差し出したお茶請けのレモンケーキも娘のためを思っているのがわかる。


こういう場面を見ると、実家が恋しくなってしまうな。


今、僕の巣立った家はどうなっているのだろう。

いや、残っているわけもないけれど、

そんなノスタルジーに思いを馳せたくなる。


「お客さんにもこちらをどうぞ」


ベスとニュルの子供組だけでなく、

ゴブリンであることに驚いたジェーンとエドガーにも同じケーキが出されていた。


フィニーの母の種族に、ジェーンは農場を何度も襲われ、

エドガーは繰り返し討伐の任務をギルドに委託していた。


二人にとって、緑の肌の小さな、

男の子とも女の子ともつかない見た目のゴブリンは、

本来、倒すべき存在でしかなかった。


「ありがとうございます!」


エドガーが深々と頭を下げ、

ぱくつくのをジェーンは信じられないものを見る目でいた。


「あなた、よくゴブリンを信用できるわね……」


「スゲーマン超師匠が信じているじゃないですか。

 疑う余地あります? 姉さんだってお父さんって呼んでるのに」


畳に胡座をかき、ちゃぶ台でお茶とケーキをいただく周囲に、

ジェーンも戦々恐々とケーキをつつく。

目をきつく閉じて何度もなにやら念仏を唱えていた。


「バッタよりはマシ、バッタよりはマシ、バッタよりはマシ……」


飛蝗、ロータス、ウンカの名前を聞くだけで嘔吐した彼女だ。


今のジェーン・エルロンドはかつて、

お米の聖女として生きていた時に、

作物をゴブリンの大群に荒らされた記憶が蘇っているのだろう。


エプロンをつけたゴブリンが不安気にしているが、

口に入れるときちんと美味しいとわかり、

ジェーンはそのままケーキをパクパク食べた。


「美味しいじゃない! ごちそうさま」


「人間にゴブリンの作るものなんて、口に合ったかい?」


嫌味、皮肉の一種かと思って場の空気が凍った。

だが、彼女を見ると本心だとわかる。

目線を合わせないようにし、俯きがちで、

身を硬くしている。


突如の暴言と暴力を向けられることに

慣れてしまっている人の態度だった。

作るものが美味しくて、敵意がなく、迫害されていたのがわかる。

そうなると、ジェーンも意固地でいるような人間ではない。


彼女は公爵家令嬢だが身分差別を嫌悪しているタイプの人種だ。

何故なら、自分とクレオ以外はみな凡人と確信して、

つい最近まで生きてきたからだ。


そこで高貴か卑賤かをわけるのは、

生まれではなく、情熱と進歩のみ。

ジェーンの世界は長らくそうだった。


むしろ、努力への姿勢と熱意の有無で人を差別するのには、

身分という概念が邪魔だと思っていたタイプだった。


……セイメイと同じく。


「まあゴブリンにはさんざん、畑をめちゃくちゃにされたけれども、

 これであなたのことをわかったから、もう平気よ!」


「俺なんて落ち着いたらゴブリン討伐の責任者をやっていたのが、申し訳なくなってきましたからね。

 こちらを憎いというのならいつでもおっしゃってください。

 とりあえず俺の肋骨を一本折って差し出すくらいの交渉はできます」


「それはべつにいいさ。

 こっちもゴブリンを同族と思ったことはないからね」


そういうものなのだろうか。

僕としては、それはそれで悲しいと思うけれど。


だが、彼女が一般イメージ的なゴブリンなら、

こうして話すこともできなかったかもしれない。


「それで、貴女は僕の何を知っているんですか?

 ゴブリンに僕のことが伝わっているのでしょうか?」


「スゲーマンのファン?

 もしや俺は今まで同担を殺してしまっていたのか……?」


「でも人々を襲って奪う同担よ」


「解釈違いも説得すれば治ったかもしれないのに……!」


一人で悶々としているエドガーを、

ベスは不思議そうに見ていた。


「同担ってなんですか?」


「好きな人が同じってことよ」


「いいことなの? ですか?」


「人によるけど、人によっては殺し合いになるわ」


「とにかく、スゲーマンのことを知っていたのはね。

 ママがエルフの里で一番物知りだからなの!」


そう言ってフィニーはちゃぶ台を寄せ、地下への隠しドアを持ち上げた。

平屋の上には何も続かないが、下には深く続くタイプのご家庭らしい。

地下室って響きが格好いいよね。

僕も子供の頃は納屋の地下で寝っ転がっていたなあ。


「降りてみて!」


地下空間に半ば無理やり押し込められた物品群のことは、一目でよくわかった。

その地下倉庫は、蓋を開けるだけで溢れんばかりの、前時代の遺物に満ちていた。


それは、携帯デバイスやロボット掃除機、

AIガジェット、ノンフライヤーオーブン、

豆乳メーカー、食洗機、何故か風化していない紙媒体の情報。


この時代には役に立たないものが多いだろうが、

見る者によっては博物館に展示して保存したいものばかりだ。


僕にも自由にできるお金がたくさんあったら、

思い出としていくつか買いたかった。


個人的に欲しいのはホットプレートだ。

家でキリタンポを作る時に何度もおせわになった。

僕の学生時代を支えてくれた頼れる相棒だ。


「何万って音楽が入った板もあるわ!

 まだ聴き終わってないの」


なるほど、初めて会った時に、

太古の歌を口ずさみながら踊っていたのは、

彼女が過去の遺物、今ではもはや財宝だろう物を聴いていたのか。


「ほら、これ」


フィニーが地下倉庫から一まとまりの紙束を持ってきて、

ひとつひとつ、見せてくれた。

内容は言われなくても、一面に僕の写真があるだけで検討はついた。


『スゲーマン達ヒーロー、マナの実在を発表!』


『エルフとの国交の仲介に立候補!』


『スゲーマン、大失言!!

 エルフの外交官に“うちは三時間に一本バスが来ますけど、そちらは?”と人間社会マウント!』


『スゲーマンが大敗北!

 マナは10年以内に枯渇!』


『我らがスゲーマン、マナの存続を証明!』


『スゲーマン、神との戦いに惨敗!

 “次は守ってみせますが、それまでは魔法とかの使用を控えましょう”。

 魔術協会とエルフ、スゲーマンの軽率な決断に遺憾の意!』


『きりたんぽ鍋にエルフの里、激怒!!

 炭水化物を摂らせすぎか!?』


それらはどれも、僕の醜聞を伝えていた。


拡大解釈や一部の切り取りが大半だったが、

だからといって、たしかに、“言ってない”、

“やってない”とは否定できないものばかりだった。


「ママによると、スゲーマンのせいでマナが何度も滅んでいるし、

 エルフの里とバチバチしているしで、

 もしもここに来たなら、絶対に罠にかけて──」


え、罠?


「しまった!」


全員が地下にいて、フィニーのママだけが降りてきていない。

そのことにエルロンド姉弟が気づいた。


ジェーンが超高速で梯子を駆け上がろうとする。

地上に頭を出すと、モグラたたきの要領で、

脳天に直径1mはあるだろう、冷凍キリタンポが叩きつけられた。


「ぐっはぁ!!」


きりたんぽがジェーンにダメージを与えた。

たしかに、きりたんぽは僕の弱点だ。

僕は“愛を向けるもの”に攻撃をされると覿面に大ダメージを受ける。

スゲーマンの名を聞いて即座に準備したとは

フィニーのママの迅速な判断と行動が光る。


だが……ジェーンも? 彼女はきりたんぽを食べたことがない。


地下に落ちたジェーンを弟がキャッチした。

意識が朦朧としていて、超回復が機能していない。

そこまでの能力減衰を受けるほどにきりたんぽを……?


僕が不思議に思っていると、

ゴブリンママが、こっそり呼んでいた捕獲部隊を家に招いた。


「ほら、こっちだよ! わたしの娘に怪我一つ負わせるんじゃないよ!

 ハイエルフが傷物になって一番困るのはあんたらだろう!?」


フィニーのママがジェーンを無力化し、

それから武装したエルフの里治安維持部隊が周囲を囲んで、

エドガー達の出方を伺った。


「今すぐに投降しなさい!

 長老が話を聞きたがっています」


「ここは私が……」


「駄目だ。君もスライムくんも。まだ子供だ。

 この状況で危険に晒すことはできない」


本人は何を言ってしまったわかっていないのか、

突如として起きた捕物劇に、

フィニーは口をあんぐり開けてしまっていた。


「全員の身柄と命の保証はしていただけるんでしょうね?

 ハイエルフ……彼女がそうなら、

 俺は貴方達の反応次第で命がけで彼女を害しますよ」


手を上げてエドガーは降伏の意志を示すが、フィニーを横目に見て、圧もかける。

遅れて、ベスも手を小さく上げ、怯えて縮こまってしまった。


「あたしが? なんで?」


フィニーは事態についていけず、首を傾げ傍観している。


あんぐりと開けた口には、

人を騙して罠にかけようなんて意図は、

たこ焼きの青じそほども見えない。


エドガーもその様に闘志を削がれたのか、

全身に膨らませた筋肉を弛緩させる。


捕獲部隊から、とりわけ線の細いエルフが出てきて、

エドガーに頷きかけた。


「長老の名にかけて、君たちの命は保証する。

 ただ、話をしたいだけだ」


エドガーは、相手の目を見て、大人しく連行されることを選んだ。

次々に鍛え上げられた肉体のエルフに連行される客人。


地下に招いた人々がいなくなり、

えっちらおっちら地下から抜け出し、

駆けつけたママに抱きしめられて初めて、

ようやくに、フィニーはどうしてこうなったかを理解した。


「あ、ママが通報したのかぁ!!」


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