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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【三】疫病神の名前を出さないでおくれ

【三】


挿絵(By みてみん)


【三】


「エルフって魔術を研究しているんじゃないの?」


ジェーンたちの発言や反応から考えるに、

この時代の一般の人が抱くエルフのイメージは、

僕の体験から来るイメージとそのままらしい。


そして、僕自身が持っていたエルフ像も、

おおむね物語に登場する彼ら/彼女らと変わらなかった。

エルフとは、魔術を探求する文化が強く、

肉体的な鍛錬とは無縁の存在だと。


エルフは多くがとても似た服装、似た髪型、

似た顔立ちをしていることが多かった。

それは文化の交代が非常に緩やかなせいで、

理想とする価値観が形作られやすく、

其の上であまり動かないからだ。


「魔術ぅ? ないない。

 マナなんて天気レベルに調子が変わるじゃない。

 昔、人間が使ってたっていう石油もだけど、頼るには不安定すぎるわ。

 エルフは長生きだから、鍛え上げた筋肉と技巧こそが一番落ち着くの」


なるほど……考え方としては理に適っている。

魔術とは、大気や万物に満ちるマナを使う技術だ。


だが、マナは僕たちの時代、

主にシニスター・セイメイなどの暗躍によって、

何度も激変してきた。


マナそのものが枯渇する危機を迎えたことも、

僕が上京してからは年に一度のペースで起きていたほどだ。


エルフは“不変”を尊ぶ文化に生きている。

魔術を見限り、

空手を通じて己の肉体に信を置くようになるのも、道理だった。


そのせいか、僕の時代よりも

ずっとずっとエルフの人々の見た目にバリエーションがあった。

体の鍛え方や使うスタイル、得意とする技が個人個人で違い、

それぞれが鍛錬を続けているせいなのか、

体格の良いエルフ、小柄ですばしっこいエルフ、

フットワークが軽やかなエルフと、

空手を通して多様性ができていた。


もっとも、人種そのものは過去と同じくエルフしかいないのだけど。


「私たちって、時代遅れだったんだ……」


ベスがニュルを両手で包み込み、心細そうにつぶやいた。


子供は外の世界に出て未知に触れて成長するというが、

国の外に出て、初めての変質を目の当たりにして、

これまでの常識が揺さぶられるとは思わなかっただろう。


「本当に驚きね。

 魔法を使えるのが貴族の証しだなんて言われてたのに」


「えー、そうなの?

 人間は短命だから、魔術がちょうどいいのかな。

 あたしはよくわかんない! バカだから!!」


「おおぉ……エルフって、こういう寿命差ネタを本当に言うんだ」


「あ、ごめん。里でも、そういうのやめようって流れなんだけど、

 人間と話すの初めてで……ていうか、あんまり人と話すことなくて……。

 ほら、ここが里の中心区よ!」


エルフの里。

里とは、生き方・血縁・思想・技の継承などを目的に集まるコミュニティを指す。

つまり、里とは印象から受けるイメージと違い、辺境である必要も、文明から距離を置いている必要もない。


「どう? 古臭いところでしょ!!

 何千年も、このまんまなんだって!」


腕を広げて里を示されるが、実態は真逆だった。

僕が生きていた頃よりも、ずっと立派な都市がそこにある。


……そういえば、僕の記憶にあるエルフの里は、

中世よりも遥かに古い生活様式に酷似していた。

魔術と呪術とクニの概念によって集合し、

時折離散するコミュニティだった。


僕らにとっては、非常に古く見える文化に生きる存在。

それがエルフだったのかもしれない。


それなら、エルフの里〈惑星・不動拳〉が、

超高層ビルの立ち並ぶ超先進都市であり、

すべてが自動化され、

ゴーレムが隅々まで巡回する自動警備を導入しているのも当然だ。 


僕の世界も、かつてはその方向へ発展していた。


リトルファムの外観は中世から近代へ入ったとは言い難いが、

エルフの文化サイクルとして見れば自然であり、

「里」という概念から外れてもいない。

そう考えれば、ここは確かにエルフの里なのだろう。


「すごい……こんなの、メンターの話でしか聞いたことない……」


「ボクの筋肉でも、壁ひとつ壊せなさそうだよ」


「俺の持っているエルフのイメージとは、まるで違いますね……」


僕にとっても、予想外だった。

エルフという言葉の正反対の光景が広がっている。

行き交うエルフたちは僕の時代のファッションに身を包み、

すれ違いざまにエドガーへ熱い視線を送っていた。


「お、やはりモテてるな、兄さん。

 エルフは肉体的に強いやつが大好物だからな」


クマリオンの言葉通りだった。

エルフの文明において、

エドガーの存在は非常に“ホット”らしい。

表面上は無関心を装っても、

エドガーのマッスルボディは二度見、三度見を免れない。


「なんだ、この高すぎる城は……

 王がいったい何人いるんだ」


「いないわ! 長老だけ!

 王って本当に外の世界にはいるのね。

 ね、どんな感じ? やっぱり空手、強い!?」


フィニーがエドガーの両手を掴み、興味津々に見上げる。

横にも縦にも分厚い彼は、思わずたじろいだ。


押しの強い彼だが、

よく考えればパーソナルスペースはきちんと守るタイプだ。


姉と僕が宿泊したホテルで汗だまりを作ったのも、バルコニーだった。

彼なりに距離感を読んでいるのだろう。


「姉さん、助けてください……」


「何を何から助けるのよ。

 質問されたんだから、答えればいいじゃない」


高層ビル、車輪のない浮遊車、LED街灯、街頭放送、スマホらしき端末。

どれもが、僕が二十代から三十代だった頃の面影を色濃く残している。


「お、王はもう亡くなられたけれど、

 たぶん、強くはなかったんじゃないかなあ」


「なんだあ、残念。

 でも貴方は強そうね、うんうん」


エドガーの胸板を、ぺしぺしと叩く。

なんて人懐っこい子なんだ。

第一印象はジェーンと似ていたが、彼女ほどの豪快さはない。

その上で、もっと素直で、距離が近い。

幼さを帯びた若々しさだった。


「……あっちに転生したかったってこと?」


違う違う違う!!

ジェーンが信じられないほど低い声で尋ねてきたので、僕は不自然なほど動揺してしまった。


「それにしても、あれね。

 文明の進歩度合いは大したものだけれど、

 広さは、おおおおおお、お父さんの故郷のほうが、ずっと上じゃないの!」


一通り周囲を見終え、ジェーンは胸を張った。

張り合うものでもないのに。


「たぶん、フィニーさんに嫉妬してるんだと思いますよ……。

 お二人は、少し似ていますから……」


マントの裾を引っ張って、ベスが耳打ちしてくれた。

……そうだったのか。人の機微によく気が利く子だ。

子どもの瑞々しい感性がきっとジェーンの繊細な感情にも気づいたのだろう。


「誰でもわかることですから、気をつけてくださいね……」


そうなのか……。

これは深く学ばなければ。

僕とベスの有意義な語り合いを他所に、

フィニーはジェーンの言葉に興味を惹かれていた。


「え、お父さんのお父さんの、

 そのまたずーっとお父さんが、ここにいたの!?」


「違うわ! あたしの前世。

 スゲーマンっていう人なの。

 あたしの実質的な親よ」


その言葉に、無関心を装いながら聞き耳を立てていた周囲も含め、

空気が凍りついた。


時間が止まったように感じたのは、僕の名前が出たからだ。


だが、僕は生前でもエルフと深い関わりがあった覚えはない。


何故なら、エルフは伝統的に、

秋田を「じゃんごしゅ(ダサい田舎者者)」と呼んで憚らなかったからだ。


まったく、クマと交流を始めるというイレギュラーがなかったら、

きっと仙台を超える東北の中心になっていたに違いないのに、

好き勝手言ってくれたものである。


いや、けれども秋田はおそらく世界最大の実質的な統一政府、

ベアリタ帝国の礎になっている。


それなら、僕の実家のほうが都会バトルは勝ったということだな。

フフン。


そこまで思考が進んでから、慌てて自分を諌めた。

ダメだダメだ。実家の都会度合いバトルなんて不毛すぎる。


勝っても負けても後味が悪い。


「スゲーマンって言った?」


フィニーが耳を疑ったので、

僕はジェーンの背後から血のマントを再構成し、顔を出した。


出してから、そもそも僕の顔を彼女が知っているわけもないのだが、

とにかくフィニーは目が飛び出るほど驚き、飛び上がった。

そして、ジェーンの手を引っ張り、里のど真ん中を全力疾走した。


エルフはおおむね俊足の傾向があるが、フィニーの走り方はそれとは違っていた。

体を動かすのが、あまり得意ではない人の走り方だ。


引っ張られるまま、華やかで頑強な建物の数々を通り過ぎ、小さな空き地にぽつんと建つ平屋へと辿り着いた。


「ママー!

 スゲーマンの生まれ変わりを連れてきたよ!!」


見た目から想像できる通りの広さで、

玄関から家の奥まで通る声が響いた。


小さな足音が慌てたように近づいてきて、

血相を変えた人物が、

片手に持ったお盆でフィニーを叩いた。


「疫病神の名前を出さないでおくれ!!

 またマナが消えちまうよ!」


そう言った女性は、エルフではなく、ゴブリンの姿をしていた。


膝──せいぜい足の付け根ほどの大きさしかない、

世間では良くないイメージで語られがちな、あのゴブリンだ。


ゴブリンのお母さんとエルフの娘さんの家庭なんだな。

なかなか見ない家族形態だけどそういうのも──


「「ゴブリンだぁーーーーーーー!!!!!!」」


人の親御さんを指さして、ジェーンとエドガーが絶叫した。

あまりに失礼なので、流石に僕が手をつくって二人の口を無理やり塞いだ。


「すいません、この二人が失礼な振る舞いをして」


「スゲーマンだあぁーーーーーー!!!!!!!」


今度はゴブリンママが僕を指差して絶叫し、泡を吹いて失神した。

…………どうしろと。


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