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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【一】ひどくない?

挿絵(By みてみん)



【一】


学院が改めて開校されて三ヶ月後、そこは刑務所になった。

あの日には拍手喝采を浴びていたのに、

今やすっかり陰気な空気で満ちている。


魔術や前世由来の能力を使う者達

──便宜上「ヴィラン」という呼び名が定着した彼らは、

今日も元気に人の集まるところで暴れまわっている。


そして今日、ついに農場を襲撃する者が現れた。

食料革命でリトルファムは一変した。


軍事国家から農業大国になった。

そして、飢えがほぼなくなり、

文明レベルではありえない飽食の時代が来た。


だから国民なら思っていた。

“農場だけは安全だろう”と。


ここが荒らされれば、

もはや国として機能しなくなったリトルファムは終わりだと。

しかし、そんなことはおかまいなしなのがヴィランである。


「オーホッホッホ!!

 悪いものを吐き出したい人は、ご自由に邪魔してごらんなさい!」


深い夜、魔術灯が照らす下で、

奇っ怪なラバースーツの女が乗馬鞭めいたものを振るっていた。


だが乗馬に使用するものとは違い、

その大きさと太さは、ちょっとした剣同然だった。


「あなた……普通はここだけは来ないでしょ。

 みんなと一緒に死にたいの?」


“ラスター”として現場に急行したジェーン・エルロンドが困惑した。


どれだけ一匹狼を気取ろうとも、

生活・生存している土地が同じなら共同体の一員だ。


食料庫の心臓部を狙うのは自殺と同じ。

理解できなくて当たり前だ。


でも悲しいことに、

ヴィランにはそういう人達が凄く多いんだよといる。

今の内に慣れておくべきだ、ジェーン。


「よし、ジェーン。

 まずは対話を試みよう」


「ねー!

 どうしてそんなことしてんのー!?」


農地をぴしゃりと鞭で叩き、その女の人は笑った。


「私の館にはいつも、罪と重荷を背負った人々がやってきたわ。

 そこで私が話を聞いて、鞭で叩くと……

 悪いものが取れたように爽やかな顔で帰っていくの」


「ふむふむ」


「おい、いきなり勤務? 経営?

 している仕事の話をされてるぞ。

 しかも、たぶん、表にはあまり出ないようになってるタイプの」


「そういうこと言っちゃダメだよ!

 犯罪でないなら職業に貴賎はないんだからね。

 あと、話を聞くのが大事なんだ。

 もしかしたら君が想像している方ではなくて、

 鞭を使って俗世の穢れを清める教義の方かもしれない」


僕がジェーンを厳しく窘めた。

彼女の振る舞いは本当にいけないことだ。

当たり前だが、ヴィランにだって誇りはある。


いつもやっている仕事に強い思い入れがある

なら、それを馬鹿にするような態度を取れば、

向こうは敏感にそれを受け取ってしまう。


「私のハイヒールの下で蠢くマゾ豚が悦ぶのを見て思ったわ」


よし、宗教関係のラインは消えたな。

だが真摯に向き合えば、

相手はちゃんと心を開いてくれるはずだ。


「お客さんを豚呼ばわりするのひどくない?」


「大事なマゾ豚のために、私が国を良くしなければと!

 それにはこの鞭で叩いて、悪いところを吐き出させるのよ」


「ほら、彼女はお客さんを大事にしているんだよ」


「……なんで真夜中に農場に飛んできて、ドギツイ性癖話を聞かされてるんだろ」


「え、ヴィランと戦うのって全部それだよ?

 ああ、ごめん、全部は言い過ぎか。八割くらい」


まだまだヒーローとして日が浅いジェーンが、

それを聞いて絶望しきった目をした。

だが道は長く険しいんだ。

ここは彼女に頑張ってもらわないと。


「とにかく、それでどうしてここに来てんのよ!

 農場を鞭で打ってどうにかなるっていうわけ!?」


「女王様を舐めないでもらおうかしら」


足元の土が鞭で抉られ、爆ぜる。


それだけなら驚くことではない。

衝撃的なのは、鞭で打たれた土の状態だ。

稲を育めるように栄養たっぷり、

水気も十分な土が、からからに乾いている。

土がほぼケイ素のみになり、

含んでいたものがすべて吐き出された。


人力で物質の分離をしてのけたのだ。


時間をかければ砂から栄養素を取り出すのは可能ではある。


バケツに砂と水を入れて、棒でかき混ぜる。

すると栄養のない砂が沈み、

栄養素が浮かぶ。それを回収して、布で濾すのだ。


だが、鞭でやるというのは聞いたことがない。

見たことがない。

想像したことがない。


「すっご……!」


目の前で行われた神業に、目を丸くする。


「わかったでしょう?

 これが私の能力、前世“クエイク・クイーン”より引き継いで、

 さらに磨き上げた力!」


「どうやってそこまでの能力を!?」


知っている名前が出てきたが、

僕の知る彼女とは根底から別人だ。

かつてのクエイク・クイーンは、

ただの鞭の達人だった。


クエーカー教徒だが、

なにかをひどく勘違いしてしまったヴィランだった。


「マゾ豚が貢いでくれたお金……

 それで余裕のある生活ができるようになって、

 私の鞭捌きも見直す機会ができたわ。

 どうすればお客様へのホスピタリティを高められるか……考え抜いたら、

 私の鞭は悪いものも、

 内側にあるもの全ても、弾き出せるようになっていたの」


「…………え、これ説明?」


ジェーンがまたも困惑した。


こういう濃いめのヴィランは初めてだったかもしれない。

しかし、そんなことを言っても出てくるものは出てくるのだ。

それもこれから無限に。


「貴方も転生していると知って、

 私は興奮したわ、スゲーマン。

 今世では貴方もマゾ豚の一員にしてあげる!

 生まれ変わり先ごとね!」


「それはお断りするし、君は話す相手をまちがえているよ」


ジェーンの姿が掻き消えた。

刹那、相手の手元に足刀が叩き込まれる。


「……したくないけど、あたしが相手をするわ!」


鞭が零れ落ちる。

相手がそれに気づくより先に、

ジェーンは彼女を無力化し、

学院へと連れ帰って、地下牢に収容し──“入学”させた。


これで事件解決だ。


「そんな。もう終わり……?

 あなたを少しもぶってないわ!」


「絶対にごめんよ」


牢屋の奥で、両手両足を錠で繋がれたクイーンが不平を言った。


実際に戦えば、勝負はかなり危うかっただろう。

クエイク・クイーンの鞭は、対象の内包するものを分離させる。


ジェーンの内側にいる、僕が鞭で弾き出されるようなことがあれば──。


つくづく、世の中とは何が起こるかわからない。

前世では真っ当なヴィランだったクエイク・クイーンが、

生まれ変わったら概念系の能力に目覚めるとは。


地下から最上階へと駆け上がり、

勢いよく学院長室のドアを開けて、ジェーンは叫んだ。


「シスマ!

 また一人“入学”したから、確認しといて」


「まだ言葉遊びにこだわるんですね……」


学院長の執務机で書類整理をするメイド長。


本来、犯罪者は牢屋に入れるべきだった。

だが、司法が崩壊した今、

帰ってきたクレオに国政のすべてをやってもらわなければ、

まともに秩序を戻す流れも作れない。


「忘れちゃダメよ、ここは学院!

 誰がなんと言おうと学院!!」


そして、ヴィランを収容するには、衛兵では到底力不足だ。


「エルロンド理事長!

 また“新入生”ですか!」


「ええ、そうよ。

 仲良くしてね」


「はい!

 絶対に生意気な真似はさせません!」


そう言って敬礼したのは、以前は一番生意気だったフレディという子供。

まだ十歳にもなっていないのに、その実力はヴィジランテとしては一流だ。


学院の生徒である彼は、

今や“新入生”を監視して、

脱走を防ぐ“上級生”の役割を立派に果たしていた。


「ほら、そこのお前!!

 今、なにか拾っただろう、見せてみろ!!」


「ひ、ひいっ!

 ただの綿ゴミですよぉ。

 拾ってゴミ箱に捨てようと」


「なら事前に“願います”と言わんか!!

 トイレが終わったなら今すぐ自室に戻れ!」


武器で攻撃する振りをして威嚇する。

実際にはやらないから大丈夫のはずだ。

そんな様子をぼんやり見やってから、自室に戻り、

帰った時に食べようと握ってもらったおにぎりを食べた。


「落ち着くわぁ~~」


お茶を飲んで、安楽椅子に腰掛けて、一息つく。


「ふーーーー……

 これただの刑務所じゃねえか!!」


そう言って大理石の机を持ち上げ、

ひっくり返そうとしたのを堪えて、もとに戻した。

口の悪さがまた激しくなったなあ。


「そうだね。

 子供に看守させているのもかなりよくないよ」


「いい部分がないわ! 学院の普通の用語が隠語そのものだし!

 『夜の砦』の子達がいないと、

 ヴィランを抑えられないけど、あの子達は、みんな子供!

 看守させていいわけないじゃない!

 もっと大人でしっかりしてて、なおかつ強い人たちに来てもらわないと!」


『夜の砦』とは、

貧民窟の治安改善と風紀・衛生の向上を目指して結成され、

さらには国家転覆に悪用されかけた、少年少女のヴィジランテチームだ。


先程のフレディは、最年少ながらも、すでにトップクラスの技量を育んでいた。


才能と実力に優れた子供らを導こうと開校しなおしたのが、

ここ、エレメンタリー学院の目的だった。

断じて、子ども達に囚人の看守をさせるためではなかった。


「あの子達より強い人らを探すわよ!」


言うは易しだ。


僕の時代でさえ、

ヴィランを収容する施設は、いつも脱獄されていたものだ。


子ども達に看守をさせるのは論外だが、

あの練度のチームが看守をしてくれれば、

僕の時代でもヴィランの脱獄は激減していただろう。


そんな彼らの代わりをするとなると……。


「あてはあるぜ、姐さん」


「あら」


三度笠を被り、旅装束を纏って、

葉っぱを咥えた子熊が、ドアの影からぬぅっと姿を見せた。


「クマリオンじゃない。

 またブラッシングしてもらいに来たの?」


夜の砦一の剣豪、十一刃流使いで、

「傘の剣」を名乗る子熊、クマリオン。

べアリタ帝国より独立しているノーザベアよりやって来た留学生だ。


食料革命をして以来、高い文明力を誇る国家からの、

クマの留学生は徐々に増えてきている。

彼は夜の砦の思想に感銘を受けてジョナサン達に協力していたようだが、

チームがジェーンの庇護下に入っても、義理堅く残ってくれている。


「故郷からここに来るまでに、クマはどでかい森林を通るんだがな。

 そこにあるエルフの里なら、あんたのお眼鏡に適うだろうぜ」


「まず、理事長を“あんた”と呼ぶの、

 本当によくないからやめなさい」


大岩を砕く怪力を持つ手で、

子熊の剛毛をブラッシングしながら、ジェーンは言った。

子熊はされるがままにノドをゴロゴロと鳴らして快感に目を閉じた。


ひとまずはここで自己紹介しよう。


窓ガラスに映るジェーンの姿、その奥にいる魂。

僕の名前は米倉毅、前世はスゲーマンというヒーローをやっていた。

転生先のジェーンの中にいて、

彼女に“お父さん”と呼ばれる存在、それが僕だ。


…………自分で“お父さん”って呼ばれてるなんて言うの、なんだか照れるね。

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