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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったので、断罪イベントより先に農業革命で国を救ってしまいました(クマとかヴィランもいるよ!)  作者: スカンジナビア半島
第三章 Super Avange

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【二十五】離れてしまったんだ

挿絵(By みてみん)


「明日の正午。王城に来い」


そう言い残して、シオンは消えていった。

残されたジェーンは空虚な空間で、

スミスの亡骸を抱きかかえて戻ることにした。

その足首に、掌に乗るくらいのぷるぷるした球体が付きまとってきた。


力なく無言で見下ろすと、

白色のぷるぷるが喋りかけてきた。

マッチョなスライムのニュルだ。

欠片だけを分離させて、全滅を避けていたようだ。


「ボクも連れてって!

 キミ達に協力したい!」


ラスターは頷き、スライムを肩に載せた。

屋敷にひとっ飛びで戻り、

庭にスミスを手早く埋葬した。


他にやりようがあるのかもしれないが、

身寄りも何も分からないままでは、どうしようもない。

彼の息子は目の前で粒子となって消えてしまった。

後で運よく奥さんと会えたなら、

棺ごと移動させてもいいだろう。


庭の、掘ったばかりの湿りを帯びた新鮮な土が裾につく。

軽く払ってから、屋敷のドアを開けた。


「あ、なあ、兄ちゃんは?

 誕生日会やるんだったら、希望を聞いとこうぜ」


屋敷に戻ると、真っ先にフレディがやって来た。

照れくさそうにそっぽを向きながらも、

兄のためだからか、駆け足で寄ってきた。


その時のジェーンの表情は、筆舌に尽くしがたい。

ヒーローをしていれば繰り返し経験するようなことだが、

絶対に慣れることではない。


異変に気づいた弟の顔色が、みるみる蒼白になった。

兄に何があったか、

彼女の顔で悟ったのだろう。


そして少しずつ、幼い少年ヴィジランテの青ざめた顔に、

赤黒い怒気が立ち上っていく。

歯軋りをし、全身で怒りと憎しみを発していた。


「シオンが兄ちゃんを殺したのか!!」


「そうね」


「今すぐぶっ殺してやる!!」


「ダメよ」


ただちに飛び出そうとするフレディの肩を掴む。

邪魔をするなら、こちらを先に殺しにかかりそうな鬼気だ。

子どもがこんな顔をするということが、あまりに痛ましい。


「手を離せ!

 じゃないと、あんたから倒す!!」


「無理よ」


フレディが隠し武器を出そうと手を背後に回すのを、瞬時に掴む。

分厚いブーツのつま先から閃光弾を発射したが、

その前に目を閉じ、

遅れて来た超音波には、最初から意識を耳から遠ざけた。


完全にフレディの手口を読み切っていた。

以前に翻弄され、

背中に骨が深々と刺さった一件だけでだ。

彼女の学習能力は、やはり群を抜いている。


どれだけ逃れようとしても、びくともしない。

いつもとは違う意味で、

反論を許さない厳然たるジェーンの威容に、

少年も少しだけ落ち着きを見せた。


「……何をする気だ」


「あなたには、あなたの家族をまとめてもらうわ。

 お兄さんは、あたしに協力してシオン討伐に向かったと言って」


「嘘をつけっていうのかよ!」


「そうよ。

 あなたの兄弟姉妹が、下手なことをしないようにね。

 お兄さんはリーダーだったんでしょ?

 それなら、あなたの言うことも信じるはずだわ。

 ベスという子のことは、話題に出さないで」


それだけで大方を察したフレディが、愕然とした。

賢い少年だ。


「ベスが兄ちゃんを……!?」


ジョナサンと、ベスという名のスピードスターは、

とても親しかったらしい。

シャイに見える少女だが、

ベスは彼に心を開いていたと聞く。


「精神的に支配されているみたいだから、

 あの子を責めるのはよくないわ」


「くそ……くそっ、くそっくそっ!!

 なんであんな奴を信じちまったんだ……」


シオンに選ばれ、

卓越した知識と技量を授けられ、

ホームタウンを確かに良くすることができた。

その結末がこれだというのは、

受け入れるにはあまりに酷だった。


間違った者を信じた自己責任、というには、

子ども達が力を得る手段は、あまりに限られていた。


フレディは感情の矛先を見失い、

ただシオンに怒りをぶつける。

ジェーンが同意するのは簡単だったが、

彼女はそれをしなかった。


「あたしと、このスライム、シスマも連れて行く。

 戻ってこなかったら、

 あなた達がこの屋敷と、あたしのお金を好きにしていいわ。

 分かるでしょう?

 あなた達が来ても、消されるだけだって」


「それは、あんたもじゃないのか」


無表情で首を振る。

これほど冷淡な聖女は、初めてだった。


「あいつは、あたしを直接打ちのめすことに拘っている。

 だから、あたしだけならどうにかなる。

 今は家族のところに行って、安心させて。

 後で、ベスの力について知っていることを全部教えて」


「……分かった」


渋々納得したフレディが、引き下がった。


広い屋敷のエントランスに、

ジェーンと僕、それにスライムだけが残った。

先程の一件以来、

血の通わない仮面のような無表情を保ち続けるジェーンが、

小さく僕に尋ねた。


「改めて聞いていい?

 あたしが本当にシオンを殺したら、あなたはどう思う?」


答え方はいくつもあった。

人は死ねば戻らない。

君が手を汚せば、ジョナサンもアレンも悲しむ。

スミスは、君に謝罪したかったはずだ。


けれど僕は、

とにかく“正直な気持ち”を伝えることにした。


「残念に思うよ」


「それだけ?」


「君の人生だからね。僕はもう死んでいる。

 最後の決断は君に委ねるしかない。

 でも、これだけは覚えておいてほしい。

 一度殺せば、次のハードルはずっと低くなる」


「それでも、あたしは──」


「流野りさ、ストリーマーもそうだった」




了解です。

直前の文体・温度・校正方針を維持したまま、続きをそのまま書き下ろします。

(改変・要約なし/物語として自然につながる形です)



---


「流野りさ、ストリーマーもそうだった」


そう切り出した僕の声は、思ったより静かだった。

ジェーンは顔を上げない。

聞く準備だけは、している。


「彼女は、龍神を封印する一族の生まれだった。

 けれど、人気取りのために龍神を解放した

 自称ヒーローが現れてね。

 一晩で、家族も村も滅んだ」


ジェーンの肩が、わずかに揺れた。


「りさは二十歳になるまで世界中を渡り歩いた。

 ヒーローも、ヴィランも、超常も。

 全部を滅ぼすための術を、全部集めた」


言葉を選んでいるようで、

実際は、削っているだけだった。


「最初にやったのは、

 一人だけ逃げ出したヒーローを

 配信で糾弾することだった」


その男は、決闘に応じた。

敗れ、心も体も折られ、

二度と社会に戻れなかった。


誰もが言った。

当然の報いだ、と。


「彼女に、間違いはなかった。

 少なくとも、その一点においては」


ジェーンは、まだ何も言わない。


「でも、そこで止まれなかった。

 彼女は次々にヒーローを挑発し、

 後ろめたいことを暴き、

 全世界の前で倒した」


それが正義かどうかは、

もはや問題ではなかった。


「いつしか彼女は、

 ヒーローに“邪悪であってほしい”と

 願うようになった」


沈黙が、屋敷に落ちる。

スライムのニュルが、身じろぎ一つしない。


「……あたしも、そうなるって言いたいの?」


「分からない」


正直に答えた。


「でも、君たちは似ている気がする」


ジェーン、りさ、セイメイ、シオン、クレオ。

才能に恵まれ、

世界を壊すことができる側の人間。


「“できる”と知ってしまうと、

 次に踏み越えるのは、簡単になる」


ジェーンが、ようやく顔を上げた。

目は細まり、

そこにあったのは怒りではなく、痛みだった。


「シオンの言うことは、正しいわ」


結論を出さず、

彼女は話題を変えた。


「あたし、ずっと家族に褒められたかったんだと思う。

 だから、あなたを頭の中に呼び出したの」


僕の胸が、きしむ。


「ヒーローをやるのも、

 たぶん、同じ理由だった」


確かに。

彼女は最初、

“僕と同じヒーロー活動をして

 記憶と力を引き出す”と言っていた。


だが、途中から、

それを一切気にしなくなった。


僕は、今の人生に満たされているからだと思っていた。

それは、間違いではない。


けれど彼女は、

その満足こそが、今回の悲劇を招いたと

誤解しているのかもしれない。


つまり彼女は、これから決別しようとしている。

家族と過ごした時間、分かち合った感情と。


それは、絶対に良い結果にならない。


ジェーンは俯き、長い髪を顔に垂らし、

首元の僕にだけ、今にも泣きそうな顔を見せた。


どうして、そこまで自分を追い詰めるのか。

どうしてそんな風に悲しくするのか、

少しでも元気づけたかった。


言葉を選ぶ前に、

彼女は首を振り、髪を揺らした。


「でも、もういい。

 あたし、あいつを絶対に許さない」


視線が固まる。

か細い声で、彼女は謝ってきた。


「がっかりさせて、ごめんね」


その言葉を聞きたいわけではないし、

言わせたいわけでもない。

そのことを伝えないと。


「ジェーン、待ってくれ」


声が、少しだけ大きくなった。


「君は勘違いしている。

 君がやろうとしていることで、

 強くなった人間はいない」


だが、彼女は顔を上げない。

何も答えない。


どれだけ声を重ねても、

反応は返ってこなかった。


あれだけ一緒に話し合って、

笑うようになった彼女は、僕の言葉に耳も心も閉ざした。


マント越しに伝わっていた彼女の体温、エネルギー。

それが今は氷のように冷たく感じられた。


いつも騒がしいほどに脈打って、

高く飛び上がり暴れたがっている彼女の心音。

今は鉄の機械のように冷たい音を刻み、僕の声を弾き返している。


僕と彼女の心は、完全に離れてしまったんだ。



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