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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったので、断罪イベントより先に農業革命で国を救ってしまいました(クマとかヴィランもいるよ!)  作者: スカンジナビア半島
第三章 Super Avange

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【十一】安全な天才になって帰って来るから

挿絵(By みてみん)

日が地平線に沈もうとし、

一日が今日も終わる。

王にクレームを言いに行ったというだけで

ひどい目に遭ったジェーン、ラスターの疲労は重い。


ウンカを回収し、そのまま家に帰ったジェーンは、

捕虜をシスマに託した。

それから、いぶりがっこでご飯をかっこみ、

一息ついてから、いそいそと

10円チョコめいたチップに手を触れる。


光の粒子が集まって、ジェーンのよく知る形が出てきた。


『やあ、白チョコちゃん。今度はシオンが敵だそうだね。

 すでに彼のお稚児さんを連れてきたとか、やるじゃない』


クレオが手を振ってくる。

最後に見た時よりも顔色がよくなり、

全身に少しだけ逞しさが加わったように見受けられる。

以前の彼女にあった不健康さが消えていた。


ジェーンが家に、仕事とは無関係の他人を連れ込むというのは初めてのことだ。

それも少年の捕虜ともなれば、なおさらに。

別れ際に持たされた通信ガジェットを使うのは今日が初めてだが、

使い勝手に問題はなさそうだ。


画質は、僕の頃の映像通信よりも良いくらいだ。


「ええ。どうしてこんなにもあたしが

 みんなに殺意を向けられるのかわからないわ」


ついこの間、それで殺し合った当人にぼやいた。


『君がモテモテだからさ』


そう言ってクレオがウィンクをし、投げキスをしてきた。

投影されたホログラムは、彼女がどこにいるのかはわからないが、

少なくとも、こちらの国にいないのはわかる。

背後からは、駱駝の鳴き声が聞こえるからだ。


「今、どこにいるの?」


『べアリタ帝国の領土だよ』


「へえ、どんなところ?」


『かなり文明が発達しているよ。

 鎖国している理由がわからないくらいにね。

 まあ、この星最大の国だから、鎖国と言えるのかは正確には微妙かな』


べアリタ帝国とは、熊が主な人種の巨大かつ強大な国だ。

この時代、この場所が、生前の僕視点では

遠い未来の地球だったと知る前はわからなかったが、

僕の時代に誕生した秋田県と熊の連合王国だけはまだ残っていたらしい。

それどころか、事実上、地球のほぼ統一政府になっている。


日本で最初に消滅した都道府県である秋田県が、

形を変えて世界一の強国として残っている。

なんだか不思議な気分だった。


もっと早く、べアリタ帝国と秋田県の関係に

気づいてよかったのでは?

と思わないでもないが、べアリタ帝国という名前も、そこからやって来たクマも、

見たところで、秋田とも地球ともリンクがない。


歩いて話すクマがいるからといって、

同じ地球とは限らないのだ。


色々な星を渡り歩いた僕は、

この宇宙には色んな人種や国があると知っている。

第三者に、この世界が地球だと断言されないと、

永遠に確信は持てなかっただろう。


「お土産、待ってるわ」


『持ち出し禁止だから、それは難しそう。

 でも、君を1億年生きさせる何かを見つけてくるよ』


あの戦いの後、クレオはその足でこの国から出て行った。

“愛する人に二度と手を挙げない強さを造ってくる”と言い残してだ。

大臣である彼女がいなくなった国を

どうするかは知らないが、彼女の賢さなら、

僕には及びもつかない解決法があるのだろう。

王が死んでいたのは、ずっと前からのようでもあるし。


『それで、シオンの部下を連れてきたんだよね』


「あの馬鹿野郎が、

 もう亡くなった王の影武者をしていたらしいんだけれど、

 どういうことかわかる?」


『私も王を見ることは、しばらくなかったからね。

 ずっと、こちらが報告をして、

 いくつかの指示をもらうだけだった。

 亡くなって成り代わられていたとするなら、

 いつからかを知る術はないよ』


驚くような事実をシームレスに告げたのに、

クレオは特に反応しない。

こうなっていることを知っていたのか。

予想していたのか。


「王様が死んだのって……」


『シオンのせいかもね。

 彼は本来、革命と支配、制度の改革を求めていたから。

 だが、彼が行動を起こすまでもなく、

 君の食料革命で世の中が一気に良くなった。

 おかげで、私も他の同志も、師匠のシスマさえ、彼の革命案を降りたよ。

 彼だけは、ずっと変わらずにいたんだろう』


ジェーンの知らないこと。

それを明かされ、複雑そうな顔をする。

自分がどれだけ何も知らず、周りに置いていかれていたのかがわかってしまう。


「あたしの知らないところで

 みんな、色んなことをしていたわね」


寂しそうに、ぼそりと呟く。

家族と思っていたシスマも、

親友のクレオも、

許嫁のシオンも、

みんながそうだ。


ずっと親しくしていた相手は、

独自の人生と価値観、人間関係を持っている。

それは当たり前のことだが、

ずっと農場と研究室を行ったり来たりだったジェーンには、

少し背伸びがすぎる概念だったかもしれない。


『そうだ。私の代わりに置いた“彼”はどうだい?

 こき使ってあげているかな』


「ああ、いえ、そんなには……。

 一応は護衛としてシスマと一緒にいさせているけど」


『彼は凄いよ。

 私と違って、前世の知識を持っても、

 その辺によく転がってる程度の野心家にしかならなかったんだ。

 スゲーマンを前世とする君なら、その凡人たる耐久性がどういうことかわかるだろう』


よくいる野心家という、その言葉。

本来は、彼に断頭台の露と消されるはずだった聖女には、納得しがたい。


それに、あの男はシヴィル・リーグの代表的存在でもあった。

どこにでもいるようなヴィランかというと、

僕としても疑わしい。


それはそれとして、彼が前世に呑まれた頃の振る舞いは、

僕の宿敵と比べると、よくいる独裁者然ともしていた。


「あの人がスゲーマンに

 ボコボコにされてるの見たからなあ……」


『納得できない?

 前世に頭をめちゃくちゃにされた

 私の有り様を見ておいて?』


「うーーーーん……

 クレオのことは大好きだから、

 贔屓目で見ちゃうのかしら」


『えーー。

 そんなこと言われると、くすぐったいよ』


ジェーンとクレオが、はにかんで

笑顔を見せ合う。


『まあ、取り敢えず、彼のことはよろしく頼むよ。

 面倒を見たら、絶対に応えてくれるからね。

 絶対に、私より見どころあるよ』


「ハードル上げるなあ……」


『超常的な力や才気を持つ者にとって、

 凡庸でいるというのは、

 最大の強みになることがあるんだよ』


クレオの言うことは、僕には理解できる。

人並み外れた能力、才能を持つ人間は、

えてして、“何もしない”、“力を使いすぎない”ことが、

最大の試練になるものだ。


『それじゃあ、またね。

 安全な天才になって帰って来るから』


「はーい」


手を振り合って通信を切ると、待っていたかのようにドアがノックされた。

入ってくるように促すと、ドアの幅より横に大きい巨体が、身を折りたたんで入ってきた。


クレオとの会話で話題に挙がっていた当人。


首から下を金属ゴーレムにした、今や人体よりも機械体の方が圧倒的に割合が高い青年。

人体を持っていた時代は、シヴィル・リーグを率いていた者。

名をアレンという。


「ウンカが目を覚ましたよ。

 君のメイドのシスマが相手をしている」


「ちょっと、二人きりにするのは

 シスマの安全を考えてなさすぎでしょ」


「全身拘束されているなら、多少はよくないか?」


「あなたねえ」


指を振って、訳知り顔でジェーンは胸を張る。

物事を一から説明する先生の仕草で、アレンに教授する。


「ヴィジランテっていうのはもうね、すっごく危険なのよ。

 一度戦ってみるとわかるけど、理解できない動きと仕掛けで、ひたすら精神を削ってくるわ。

 あらゆる可能性と危険を考慮しないと、足元を掬われる感じよ」


「にわかには信じられないな。

 だって、ただの人だろ」


「結局はみんな、ただの人なんだわ」


良いことを言ったぞ、と、

人生の先輩然とした彼女は、満足気に頷いた。


前世の記憶、人格は血を媒介にして引き継ぐ。

血を全て抜かれたという彼は、前世の記憶と人格から解放され、大半の知識を失っていた。

今はほとんどゼロからの人生のやり直しだ。

悲劇のように見えるが本人はむしろ楽しんでいる。


地下室に降りて、

物置にしか活用していなかった空間を訪れる。

意図的に灯りが制限されて湿度が高く、

吸い込む空気に息苦しさもある。


ぼうっと揺れる火が揺れると、

真紅の腕が振り上げられて、

捕虜の頭を叩く。


繰り返し、何度も。


「さあ、今すぐに

 こちらの質問に答えなさい」


左肩の腕で子供の全関節を締め、

逆の手では、何度も少年をぶっていた。

誰の目から見ても、尋問と拷問の境目にあるような、非人道的な扱いだった。


「ジェーン様、ちょうどよかった。

 私が悪い兵士役をやりますから、

 あなたは良い兵士役をお願いします」


淡々と、事務的に告げる。

血の鞭が皮膚を打つ音がして、

その度に幼い子供が怯え、身を捩った。


一瞬、度肝を抜かれて固まり、

それからキッと身内のシスマを睨みつけ、

彼女から捕虜をひったくった。


「ちょっと駄目よ!

 相手は子供よ!?

 あたしが悪いやつと良いやつ、

 両方やるわ!」


聖女は捕虜の少年を抱きかかえ、

シスマに血相を変えて怒鳴った。

主に叱られたことで、メイド長は素直に下がり、

抱きしめられた子供は、聖女の横顔をじっと見つめて、

急速に瞳孔が開いた。


「なんで……?」


「痛い思いをするのなんて、

 みんな嫌に決まってるでしょ!」


どうして庇ったのかを聞きたい少年に、

ジェーンは、微妙にズレた答えを出した。


今、フレディのジェーンへの好感度が

大きく上がった。

これもシスマの作戦の一つなら、

本当に強かな人だと、

僕は内心で震え上がった。


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