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【二十四】君を愛している


「ここは来る度に構造が代わるって言うけど、

 来る度に変えるなら空間自体は接続されているでしょう。

 だったらあたしの血粉ほんのちょっとでもシスマなら気づいてくれるわ!」


「私の血水魔法はジェーン様にアンカーをつけていますからね」


さっき視界を確保するフリで払った血を、

クレオの基地、夜の要塞に可能な限り広がらせた。

そうすればシスマがそれに触れられたら場所がわかる。

血水魔法で血に干渉すれば連鎖的にこちらに伝わる。


「わからないわ。それでもここは遠くて広い。

 シスマが近くにいる証拠なんて……」


「どんな状況でもシスマはあたしの所に来ようとするわ。

 だってあたしのことが大好きなんだもん。

 もちろんあたしも大好き」


両親には愛されなかったし殺されかけもした。

だがジェーンは「絶対に信じられる人」がいると思ってくれている。

それなら彼女は大丈夫だ。

何があっても負けることはないだろう。


物言わぬ改造体の肉だけを武器に

宇宙一のパワーを圧倒していた女性。

それが今や2対1同然になっている。


「そう……わかった。

 たしかにこの状態だと私には荷が重い。

 それは認めようじゃないか」


綻びが増えていたクレオの話し方に

気取った中性的な話し方が戻ってくる。

瞬間、外骨格が解かれて膨大な数の肉触手が

血の塊な僕と、それを操作するシスマに向かう。


穏やかで快適な生活のためにデザインされた空間は、

跡形もなく汚れて、壊れている。

クリーム色を基調にしたそれは、肉片の色にかなり似ていた。


「私は貴女の業務を引き継いだ側です。

 互角ではありませんが、人類としては比較的に近いでしょう」


シスマの血水魔法が

天才の振るうシェイプシフターの変形と互角に絡み合う。

相手は超常の頭脳の持ち主だが、

彼女には勝つ必要はない。防御だけでいい。

それならばかなり拮抗できる。


「クレオ。これでわかったでしょう。

 話を聞いて、何度でも何度でも言うけれども。

 あたしは、貴女のやることを全部は否定しない。

 ただ、やり方を考えましょう?」


「うるさいな。

 私はただ、君を殺さなければいいだけなのを勘違いしているだろう」


ジェーンの繰り返しの提案に対して

やっと不愉快そうな感情を示した。


指を鳴らすと巨大なスクリーンが新しい映像に切り替わった。

そこに映し出されたのは魔法陣。

素養が薄い僕でも見覚えのあるものだ。


異なる次元にアクセスし、

熊王国を顕現せしめて以降のセイメイは、

世界各地を回って異界、彼方へ呼びかける方法を集めていた。

そして、その過程で術や儀式を秘匿する人々を殺してきた。


奴が使った陣の中でもこれは、そうだ。初めて、ヒーローチームで挑んだ戦い。

セイメイが召喚した超巨大生物との……。


「ぐいえぇぇぇぇぇぇ!!!!」


クレオに繋がっていた肉触手に無数の口が刻まれ、

それぞれが断末魔を挙げる。

空間に大きな亀裂が走って開かれる。

向こうには巨大な縦割れの眼球が覗く。


久々に見た。

見知った顔だった。

人の顔と名前は忘れないのが僕の自慢だ。


「あれは……ゾル=イソムって邪神だ。

 僕一人では勝てなかった存在。

 地球3つ分の大きさがある」


「な、何その頭の悪い大きさ表現……!」


ただならない気配を察してジェーンも声が震える。

寝床で聞けば大法螺だろうが、

実物と知って目の当たりにすればただ圧倒されてしまう。


赤黒いナマコのような、

生き物の鬱血した舌のような、

太い血管が浮き出た触手が空間の奥から

クレオの肉腫を剥ぎ取って持って行く。


存在レベルの危機を感じて激しい収縮を繰り返すシェイプシフターの塊を、

口盤の中央に開いた裂け目に、放り込んだ。

ゆっくりと咀嚼の動作をすると、

少しだけ亀裂から身を離す。


全体像がわずかにだが想像しやすくなった。

それはあまりにも巨きなイソギンチャクだった。

取ったシェイプシフター達ちと比べることで

僕の言ったことが本当だとわかってもらえたんだろう。


ジェーンとシスマが石像のように固まった。

未知のものというのは、

必ずしもワクワクだけをくれるものではない。

あまりにも予想外すぎると、

これまでの人生が丸っと否定された気分になる。

または、常識が否定され尽くして、

理性を保てなくなってしまう。


ドラゴンどころではない

宇宙的巨大生命体が今にもこちらに乗り込んできそうというのは、

人生の大半を非常識に生きてきたジェーン・エルロンドでも

卒倒するほどのものだった。


「これだ。シニスター・セイメイは惑星そのものを砕くものも呼び寄せ、従える。

 シェイプシフターに崇拝と詠唱をさせ、贄にもなってもらえば

 不死なのだから無限にこちらへ召喚できる。巨いなるものを」


「い、祈りは更生のためって言ってたじゃない!」


「もちろん。しかし、祈りというのは自分の領域外のことを何者かに委ね、

 意に沿わぬ結果でも粛々と受け入れる覚悟が整うのが大きな効果だ。

 つまりは祈る対象はなんでもいい。せっかくなので邪神に祈ってもらおう」


彼女の言うことは正しいかもしれない。

しかし、頭では納得できても感情面では納得できない。

いくら死刑囚といえども騙して生贄にするのは

人道を無視しすぎている。

少なくとも、僕の感覚ではそうだ。


「さあ、出てこい」


イソギンチャク型の邪神の口蓋。

その瞳が弓なりに引き絞られた。

こちらを見たのだとわかる。


あまりにも埒外の存在に睨まれたことで、

シスマは気絶し、

ジェーンも倒れかけた。

よろけてバランスを崩す。


ここで意識が途切れたら終わりだ。

何をされるかわかったものではない。

しかし、彼女には今来ようとしている生き物への対応がわからないはず。

僕が声を出してもわかってくれるかどうか……。


「コッ、クルァァァ、コッコッ。ズィー」


気絶しかけたジェーンの口から、

この星の言語ではないものが出た。

空間の切れ目の向こうにある生き物が

彼女の発言に反応して身動ぎした。


驚いた。

僕が助言するまでもなく、最適解を選んだ。


「その言葉は?」


「言葉よ。スゲーマンが言ってたわ。

 ヒーローの本質は対話だって。

 スゲーマンは倒すだけじゃなくてゾルなんとかの言語を

 しっかり勉強していたのよ!!

 やばい死ぬと思ったら頭に浮かんできたわ!」


前世の知識は命の危機に引き出されるものらしい。

それならば、この事態に

僕が持っていた知識をジェーンが引き継ぐのは自然だった。

以前に彼女に伝えた心得を覚えていてくれていたなんて。


「馬鹿な。奴の知識にはそんなものは……」


「それがスゲーマンよ!

 誰のことも信じては痛い目を見て、学習しないの! 百万年間!!

 星より大きい生き物の言葉も学ぼうとして当たり前だわ!

 コッ、コアァァァァーーーー、ケルットルゥ」


ジェーンの発言に解説を付け足すと、

生贄を捧げられたとしてもサイズ比で言えばスルメ未満だ。

それでもわざわざ次元を超えて来るということは、

ゾル=イソムという者はこの星に目当てのものがあるか、

気質的に友好的な可能性が高いと僕は考えている。


実際に、僕が生前に分析していおいた彼への言語は、

しっかりと機能していた。


「さあ、その肉の塊をこっちにぺってして。

 もうここにいても仕方ないから

 今日はお開きしましょう。お家にゴーよ」


優しく語りかけると

ゾル=イソムは噛み噛みして遊んでいた

シェイプシフターの塊を吐き出した。


クレオにとってはセイメイの知識を活用した、

コラテラルダメージも厭わない

最終手段だったのだろう。


それが、僕の知識一つで対処された。

セイメイという最悪の天才に人生を翻弄されてきた彼女にとって、

認め難い結果のはずだ。


「たしかに。セイメイは使役することしか考えていあなかった。

 だが忘れてはいないか? 私なら、それだけ喋ってしまえば、

 たちまちに学習と実用ができると!

 イズィ、ジズズ、ルゥラァ!」


セイメイの知識を詰め込むに足る器。

それがクレオである以上は、

僕が学んだことを圧倒的な100倍速で追い越すのは当たり前のことか。

こちらはどうしても秋田訛りの邪神語だったのに、

クレオと来たら早速流暢なネイティブ邪神語を使っている。

人間が発音できない音を知性を使って再現してみせているのだ。


ジェーンに帰っていいと言われて離れかけていたのが

クレオに来いと言われて接近を再開する。

ゾル=イソムに裂け目を超えられる。

誰も立ち向かおうと思えない質量差だ。


事情が知らないと、

対処できないままに蹂躙されてしまうだろう。


「もうなんでもいい! すべてを平らにしてしまえ!

 私が、私が一人残ればどうとでもなる!

 前世の知性が最強を証明してみせるんだ!」


亀裂からゾル=イソムが触手をねじ込み、

通れる穴の大きさを広げた。

無理矢理に空間を歪められる余波だけでも

国に災害が通ったかのような爪痕が刻まれてしまう。


もう全てを擲つ気分のクレオが叫び、

破滅を呼び寄せる。


「両親に殺されかけた生まれ、

 愛する人をずっと殺したくなる枷!

 全部を壊せ! 壊してしまえ!」


「これが最後なんだよね!?」


地球3個ほどの大きさの生き物が

今にもこちらに上陸しようとしている。

そこに、クレオは思いっきり拳を振りかぶった。

人を殴れない彼女が最もやらない動作。

肩、肘、拳を真後ろにやり、

腰を落として後ろ足に全力を籠めて、解き放った。


「そうだジェーン! 僕の力を思いっきり振るうんだ!

 衝撃は全て向こうが引き受けてこちらは問題ないから!」


「よおし! これが終わったらあたしを信じて、話を聞いてもらうわ!」


どれだけ下手を打ったり知略で不意を討たれても、

僕は世界最強クラスのパワーがあった。

めったに放たないものだけれども、放つ時は一切の遠慮をしない。

ジェーンがスゲーマンの、僕を前世として使い、

セイメイを前世にした少女の前で本当の力を出した。


しかし、人を殴ることの不快感にも耐えられないジェーンに、

邪神を殴った不快感というのは失禁モノの嫌悪感があった。

はじめはぬめった悪臭を放つ粘着液と、

殻を剥いた海老を叩いた弾力。

それが暴力に晒されたと判断するとたちまちのうちに

無数の強固な血管が浮かび上がっては凝集し、

網目になって固まった。


「…………!!」


泣き言を言ったらその場で嘔吐すると悟ったのだろう。

ジェーンは唇を噛みちぎる勢いで噛んだ。

正しい判断だ。それに勝手に連れてこられた人に、

不愉快だから嘔吐しましたというのは失礼にあたる。

相手はあくまでお呼ばれしたから来た人だ。


「知っているかい? いっそ、私を倒せば、それで──」


「それをしても無駄だからよ!」


全力の僕でも骨が折れる。

実際にジェーンの骨が負荷に負けて折れていく、

そんな質量を押し返そうとしている。

クレオの言うように、交渉者を先に倒せばいい。


「あなたに、信じてもらいたいの!」


歯を食いしばって燃える。

空間の罅があちこちに繋がり、

宇宙一の天才が孤独に浸るための要塞が崩壊していく。

ここが崩壊しきれば安全装置が作動し、

僕達は地上に出ていく。


両手を握りしめ、天才の顔に焦りと葛藤が強く燃える。


「なにを信じるんだ。

 前世に、自分のために君も害そうとする私のどこを」


「だって、貴女にずっと憧れていたもの!

 貴女に会えたのが本当に嬉しかったもの!

 ここで頑張れば、あたしはあなたと対等だって証明できる!」


根拠はないが、ジェーンはそう信じている。

ならばそれでいい。

彼女はやりたいことを信じる時が一番強い。

この国の人ならみんなが知っていることだ。


ジェンの髪が僕がそうだったように金色に染まっていく。

双眸が黒く光り輝き、力が増していく。

僕の力を再現している。


「無理だ。スゲーマンでも一人では対処できなかった!」


「こっちは二人よ!

 できるでしょ、あたしには! スゲーマン!!」


「できる!」


「やめろやめろ。無根拠にムチャをさせないで!」


「根拠はある! ジェーンを信じる!!」


「彼女が心配じゃないのか!? 普通はこのまま自壊して死ぬ!!」


聖女の親友が血相を変えてやめるように訴えかける。

無理に前世を再現したことでジェーンの体が崩壊しようとしている。

クレオの分析には全くの不足がない。流石だった。

星を砕けても、星の三倍の大きさを押し返すのはとても大変だ。

それも僕の力をまだ受け継ぎきっていない彼女に。


「本当!?」


「そうだ! このままだと君は全身が砕けて死ぬ!」


「死ぬと思う!?」


「死なない!!」


「なんでだ!」


「僕がついている!」


ジェーンの全身に罅が入って

体の表面が粉状になって剥がれていく。

身体の欠片が硝子のようにぱらぱらと砕けていく。

向こう側の宇宙の光を照らし、

それは、あの日の、彼が何もかもを曝け出して大泣きした時の光の欠片だった。


「そんな言葉で──」


「できるわ! だってこの人、あたしは聴こえないのに

 ずっと心のなかで挨拶してきたもの!

 あたしが道を踏み外さず──にいなかったわけじゃなくても

 処刑されかけといて何とかなったのは

 きっとこの声のおかげよ! さあ、スゲーマン。あたしにここでガッツリアガるやつを!」


凄いフリをされた。エドガーもだが、本人が有能だから

他人にも最上級のハードルを課すタイプか。

責任重大だ。こういう時に正しい声掛けをできる人間はそういない。

ある意味で選ばれし存在だ。


僕は声をかけられて燃え上がる側であり、

燃やす側ではない。


しかし時間がない。こういう時には────。


  ──どうして


さっき思い出したばかりだからか、

強く彼の細くて脆い背中が瞼に浮かんだ。

夕闇が堕ちる太陽に引きずられ、

黒く染まろうとしている。


  ──どうして僕は、こんなにひとりなんだ。


あの時、僕はどんな言葉をかければ……。

考える、人生で一番ってくらいに考える。


「君のことをずっと見てきたよ。

 だってずっと一緒だったからね」


……最悪な言葉が浮かんだ。


「よし! 言われるまでもねえこと言われた!」


ジェーンにはまだ刺さっていない。


これしか浮かばない。

凡人な思考の自分をこれほど呪ったことはない。

何も浮かばない。この言葉しか。


「だから君がなんでもできる人だって知っている。

 僕はなにも不安に思っていない」


「いいわね! どんどん来い!」


拳にかかったパワーが倍増した。

効果を発揮した。


「君を愛している。君は特別だ。

 君をいつでも誇りに思うよ」


言い終えた。


なんてことのない、

両親からの受け売りだった。

家業を継げないと言われた僕を両親が慰めた時の言葉だった。

僕に効いた言葉であり、親に言われて嬉しかった言葉でしかない。


迷った時は、都会で孤独を感じた時は、

この言葉がいつも僕に力をくれた。

ジェーンにも通じるかなんて、わからない。

どうしてこんな時に親からの言葉しか出てこないんだ。


言われた彼女の目がまん丸くなり、動きが止まった。


「…………………!!!!!」


何かを発言するより先に、

彼女の内側から無限を思わせるパワーが弾けた。


一瞬の静止、それから全身が黄金に光り、

彼女の全身からエネルギーが放出された。

口から純白の火炎が放たれ、

一つのボディに封じ込められないエネルギーが

彼女の口から焔となって溢れていく。


隕石も、彗星も、惑星も砕くことのできる、腕力が、

ゾル=イズムを押し出し、

別の次元の無限に広がる宇宙の奥へ慣性をつけた。


「殴ってごめんなさーーーーい!」


溢れ出る焔を一極に集中させ、

ジェーンは白い焔を出し切るまで吐いた

手を振って謝罪も忘れない。

完璧な決着の付け方と言えるだろう。


壊れた空間が同時に崩壊し、

紫色の澄んだ空気が気持ちの良い野外に放り出された。

戦いが終わり、

意識を残して立っているのはジェーンとクレオの二人だけ。


すべてを出し切って敗北したクレオは、

目を閉じて相手の措置を待つ。

その表情は死を望んでいると思えた。


「終わったわ! 見たでしょう、クレオ。

 あたしって、貴女と同じくらいに強くてとっても凄いのよ!」


力こぶを見せて自分のパワーをアピールした。

砕け始めていた身体は治っていない。

しかし、彼女には親友に胸を張る方が重要だった。


「そうだね。ここまでやれると思わなかった私の……

 いえ、スゲーマンを見くびりすぎた私とシニスター・セイメイの負け。またしてもね」


「じゃあ、もうわかったよね?」


クレオの両手に手を載せ、

そのまま強く引き寄せて抱きしめた。

呆然とし彼女の耳元に、力強く言い切る。


「あたしもあなたの研究に混ぜてね」


「…………どういうこと?」


まったく理解できず、

天才が首を傾げた。


「だからね? 不老不死の実験をあたしの体でやるの。

 この戦いでもわかったように、このあたしより頑丈な人なんていないもの。

 あたしの体に効くものはあたしに実験しないと作れないだろうし」


「それを証明するためにあんなに拘ったの?」


信じられないというようにクレオが呟いた。

僕には理解できている。

ずっとジェーン・エルロンドはこれを胸にクレオと戦ったのだ。

ずっと背中を見て、尊敬してきたクレオという天才と並ぶために。


「……永遠を生きてもいいの?」


「それはちょっとイメージできないけれども。

 刻むことだってできるんじゃない?

 不老不死になってから、寿命を千京年、百兆年、十億年って感じに縮めるとか。

 スゲーマンが百万年生きたんだから、あたしは百倍の一億年を目処にしましょう。できるできる」


それ目処にする単位かな?

まあ僕も百万年生きても狂ってなかったみたいだし、

百倍もいけるのかもしれないなあ。

しかし百万年だの一億年だの、

生命の寿命にはなんて非現実的な単位だ。

ジェーンでないと気軽にトライしようだなんて絶対に言えない。


「あたし達が初めて会った時のことを覚えてる?

 ゴーレムに入力するプロトコルの話し合いをしていたやつ

 量産化のために何度もムチャをしていたわ」


「そうだね。覚えている。

 当時は、僕はまだ君に死んでもらっても良いと思っていた」


「あなたが止めるのを聞かずに、

 とにかく一番頑丈にしようって言ってゴーレムを起動して、

 案の定、暴走して襲いかかってきた時、身を挺して助けてくれたじゃない。

 その時のデータで、あたし達はゴーレムの量産化ができたし、食料革命も完全に成功したわ」


「よく覚えている。

 あの時、死にかけても私を信じる貴女を見て、

 私は──なんだか希望を持てた。前世から離れられるって」


弱々しく眉を落として、

罪悪感に打ちひしがれるクレオの手を取った。


「今度はあたしが助ける番だわ。

 貴女のやりたいことは絶対に叶えてあげたい。

 だから、一緒にやろう? あたし達って、特別なふたりだもん!」


「そうだね」


クレオの両目に涙が浮かび、

静かに流れ、手の甲で拭う。


「ずっと一緒にいてくれる?」


「もちろん! だって子供の頃から一緒じゃないの!!」


そう言って二人は笑い合う。

僕はただ黙って見守る。

今のこの気持ちを表すには、僕はあまりに単純な性格だった。

ただ、夜明けを一足飛びした朝焼けだけが、

僕の喜びを物語っていた。


取りあえずは、浮浪者の彼との食事には間に合いそうだ。

よかった。約束の待ち合わせに遅れたりするのってよくないしね。


「一件落着だ」


僕は目を閉じて、この空間と時間を二人だけのものにした。

関係ないけどジェーンって口から火を吐く適性があったんだなあ。

僕は吐けないから凄いや。これも個人差だな。

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