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【十六】爆弾で殺す!/スゲーマンだあああああ!!

 秘密結社という概念は普遍的だ。

 僕の世界にも無数の秘密結社が結成されては解散したり滅ぼされたりしていた。

 共通しているのは、彼らは常に地下を好むということだ。

 これはどうしてかヒーローもヴィランも秘密結社を結成する時はそうだった。

 次元の切れ目とかジャングルの奥地とか、厳重なセキリュティに保護されたビルの最上階ではない。

 秘密結社はどうしてか、だいたい地下にいた。

 地下深くに潜って、人知れず暗躍をする者たち。

 この世界にも在って、関わることになるなんて。

 それも、本当にここでも地下にあるなんて。

 世の中はとことん不思議なものだ。

「それにしても粉挽き小屋の地下なんてねえ」

「この国で一番大きい粉挽き小屋なんだよー」

 小麦の需要が消えたわけではない。

 だが生産量と安定性によって稲作が産業の大半になり、割合は減った。

 今や小麦によるパン、パイは余裕のある者による嗜好品に近くなっている。

 粉挽き小屋を守るゴーレムの横を通り過ぎ、内部に入る。

 薄暗い照明だが不気味さはない。

 排他的な印象はある。

 中央にはこちらの世界では考えられない精巧な作りのゴーレムが宙に浮かんでいた。

「何あれ!?」

 クレオの協力もあり、この国のゴーレムは世界最高の量産性と性能を持っている。

 ゴーレムによるゴーレム製造施設のおかげで毎日1,000体以上が国中に行き渡り、作業に従事する。

 ハッキリ言って農家にかかる負担は、とっくの昔に僕の子供時代の農家に要求されているものを大幅に下回っている。

 また、それにより、この国はゴーレムも重要な産業になっていた。

 平民すらゴーレムを効率的に動かすプロトコルに精通している時代。

 一家に一台はゴーレムがいた。

 しかし、シヴィル・リーグの門番はそれとは違った。

 巨大な眼球のみが浮かび、胴体がどこにもない。

 一つ目の怪物は大小問わずして迷宮の財宝を守り、侵入者を退治する。

 ゴーレムは排除はしないが、代わりに来訪者の情報を求めてきた。

『IDヲ提示クダサイ』

 これは僕の世界にある技術だ。

「なにそれ」

「これだよ」

 クレオが懐からつるりとした凹凸のない極薄の板を取り出した。

 見たことのいない材質、信じられないくらいに機能的に見えるデザインだ。

 ゴーレムの一つ目が赤く光って薄い灯りを投射した。

『ヨウコソ、クレオ様。皆様ガ、オ待チデス。オ荷物ガアレバ、オモチシマショウカ』

「大丈夫。こちらは連れだから詮索無用で」

『カシコマリマシタ。オ飲ミ物ハ?』

「マティーニを。こちらには80℃に温めたミルクにマシュマロを入れて、軽くかき混ぜただけで溶けるくらいにしてから提供して」

 飲み物をゴーレムに依頼すると、問題なく通用したようだ。  

 ゴーレムが一礼するかのように頷く。

「おおっ。なにこれ」

 今、クレオとゴーレムが会話をしてみせた。

 それも複数のオーダーをゴーレムの返事もまたずに流れるように入力した。

 この世界のゴーレムではどうやっても無理だ。

 複数の条件を入力し、それに応じた作業をすることは、クレオとジェーンが可能にした。

 しかし、それは自動的なもので双方向的なものではなかった。

 シヴィル・リーグのゴーレムはとても柔軟かつ細やかなやりとりが可能になっている。

「これを農作業に活かす案が……ダメだ、浮かんでこない。なんでぇ!」

「それだけ君のこれまでの人生は前世の知識と連動したものだったということだねえ」

 知識がないと、良いものを見つけても関連付けられないようだ。

 それは可愛そうだが、僕にはどうしようもない。

 なにかしらしてあげられたらいいのだけれども、思いつかない。

 それにしてもクレオが頼んだマティーニ……名前の格好良さでは、トップクラスに入るカクテルだ。

 ジンとベルモットを混ぜたものというが、響きだけでトレンディ。

 誰もが憧れるだけはあるアダルトさ、まさにトレンディ。

「トレンディってなによ」

 おっと聞こえていたようだ。

 とにかく僕は酒で酔うことはない。

 体質的にいくらでも呑める。そして、場酔いはそれなりにする。

 格好良いお酒、カクテルを知っていても、それを楽しむ術がなかった。

「どうかしたのかい?」

「なんか……ずっと頭の痛くなるようなダサい独り言が聞こえてて……まるでおじさんの呟きをエンドレスで聞かされているみたい」

 言い草が…。…

 独り言だったはずだが気をつけなければ。

 何が聞こえて何が聞こえないのかどうにか区別できないものか。

「よぉし、シヴィル・リーグをどうにかして来年以降も生きていられるようにしないと!」

「さあ、ついたよ。ここからは静かにね」 

 唇に指を当ててから、クレオはドアを開けた。

 薄暗く、互いの顔が見えない。

 事前に素性を隠すために仮面をつけてはいるものの、ここまで灯りがないのなら不要だったのではないかと思うくらいに。

 親友に手を握られ、席へと先導される。

 腰掛けて、テーブルについてみると、円卓に座しているのがわかった。

 それと、気付いた。

 ここの空気は人工的に繊細なバランスで清潔を保たれている。

 気温、湿度のいずれもが不快感を与えないように調整されていた。

 魔道具を使っているとしても、非常に専門的な器機に違いない。

 ジェーンの研究用の温室も膨大な予算を使って維持している物であり、空間の3分の1を占める巨大な温度調節機器だ。

 ここで使われているものは、さぞ小型化に成功したものなのだろう。

 僕の世界と空気感が酷似している。

 それも、悪巧みの現場の空気に。

「すごいね。いるだけでとんでもない技術が使われてるってわかるよ」

「冬に来てご覧? 暖かいんだぜ……床が!」 

「ウソ!? 床が!! そんなの厚いブーツ履けばいいだけじゃない!」

「冷たくないんだぜ、裸足でも!」

「裸足で床を歩きたくなあい」

 静かにすると言ったばかりなのに、こしょこしょと小声でお喋りする。

 個人的な見解として、床暖房は最高である。

 秋田のクオリティ・オブ・ライフを劇的に底上げする設備の代表。

 あれがなくては朝、布団から這い出る時、靴下を脱いだ時、座ってゆっくりしたい時にかなりの労力が必要だ。

 後に、雪国での床暖房は膨大な電力を消費すると聞かされ、両親に感謝したものだ。

 人間というのは足元がぬくいと幸せになる。

 夏の砂浜が人気な理由かもしれない。

 周囲に誰もいないと思っていたら咳払いの音が聞こえた。

 どうやら先客がいたらしい。

「全員集まったようだな」

 違った。ジェーン達が最後に来たのだ。

「一同、始めようじゃないか。智慧の務めを」

 まとめ役らしい、明確にこの世界の衣服ならざるものをつけた人物が呟く。

 見たことのない服をつけていた。

 継ぎ目がなく、先程クレオが出したIDカードというものと酷似した印象を受けた。

 光を吸い込み、奥に星の瞬きが垣間見える不思議なスーツ。

 いや、これはもはやタイツというべきか。

 ボディラインがはっきり出ることから、完璧な栄養状態と運動習慣を持つ、とても豊かな経済力の人物が着こなせるもの。

 僕達ヒーローや、ジェーンが着けているものではない。

 21世紀にはないデザインだ。

 それより未来、または別世界の技術を使った衣装に違いない。

「今日は何のお喋りを楽しむのかな? 僕はそれが建設的なものであることを願うよ」

 クレオが頬杖をついて鼻歌交じりに茶々を入れる。

 実に堂に入った姿だ。

 こうして才媛が社会に活動している姿を見ると、僕は“誰か”を思い出す。

 生前に嫌と言うほど顔を会わせた宿敵、かつての親友をだ。

 僕の知る限りにおいて、宇宙で最も才能を無駄にした愚者でもある、あの男。

「もちろんだ。時間は我らの宿敵。全てにおける障害と言っていい。まずは、クィバー伯爵の暴虐についてだ。あの家がどれだけこの国を汚してきたか」

 ついさっき揉めた相手だ。

 世間とは狭い。

「あの暴虐の領主め。奴もまた発展を阻害する者だ」

「やつの気まぐれでどれだけの罪なき農民が亡くなったことか」

「知っているか? あの家は未だに初夜権を行使しているらしいぜ」

「許せんな……時代錯誤も甚だしい! そんな家が伯爵であることそのものが罪だ」

「奴の折檻で消えない傷を抱えた民は100を超える」

「心配召されるな。すでに計画は立ててある」

 想像以上に悪どい男のようだ。

 驚きはしないが評判は最悪。していることも最低だ。

 僕が義憤に燃えそうになるところを、ジェーンは周囲の把握のために首を回していた。

「キョロキョロ」

 僕の超視力は残念だがジェーンにはこの時には、発現していない。

 それがあれば、ここに誰がいるか、少しはわかりそうなものだが。

 わかるのは、ここにいる者達はさまざまな身分の寄り集まりだというこだ。

 貴族、商人、学生らしい者達。宿無しもいる。年齢も子どもから老人まで幅広い。

 前世の知識を持つ者が集まり、知識の保全と伝承を担う組織。

 ともなれば参加資格は転生者かどうかであり、年齢も身分も関係ないということか。

「あの家は明日、領地の視察に赴く。そこを狙う」

 クイバー家とは何なのか。

 伯爵なのだから、きちんとた家柄なのだろうが、ジェーンの人生に名前が出た覚えはない。

 商業活動に熱心ではないということは、それで想像がつく。

 手前味噌かもしれないが、ジェーンによる農業革命の恩恵にあやかろうとしないのは、己の利権に執着する者が多い。

 シスマに訊けばよりその家のことがわかるのだろうか。

「ねえ、クレオ。クイバー家に何をするって話なの?」

「爆殺?」

 クレオが適当に返した言葉。

「爆弾で殺す!」

 ジェーンが目を見開いて、爆殺の定義を言った。

「そうだ! 爆弾こそが変革の象徴!」

「我らの計画が400年ズレたが、ならば今やるのが好機!」

「無辜の市民を虐げる特権階級には血の跡も残させん!」

 驚いてそのままを返しただけなのに周囲も賛同するかのように立ち上がる。

 ジェーンとしては爆殺を支持するつもりはない。

 殺しを支持するつもりもないはずだ。

「彼女は良いことを言った! 爆弾こそ、我らの意志を示すにふさわしい」

 なんでか流れを作ってしまった側になってしまった。

 ジェーンも驚いている。

 彼女は自身を人道的だのお人好しだのそういう人種と思ってはいないだろう。

 猪突猛進、求める一つのこと以外はまったくもってどうでもいいという気質と周囲も考えている。

 だが、それだけではないことは僕が知っている。

 昼間に戦った魔道士達、死んでないのが不思議な者はいても、本当に落命した者はいなかった。

 それがジェーンの、生命への姿勢を伝えていた。

 彼女は人を殺せる人間ではない。

 見殺しをどう取り扱うかは……これからわかることだ。

「あ、あのー……領地の視察でしょ? それって伯爵のご家族も行くかもなんじゃ?」

「そうだ。息子と妻を連れて行く」

「家そのものを一網打尽にするチャンスだ!」

「いや家族まで巻き添えはどうかと。なんというか、もうちょっとさ……その……優しさ? 的なね」

 ジェーンの口から、彼女の辞書には今までなかった言葉が飛び出した。

「僕のツレはこの計画が気に入らないんだよ。無駄な人死にを招いて、それが幼い子どもとなればなおさらね。つまりわかるね? ファックユーだ、野蛮人ども」

「え、ええええ!?」

 モヤモヤした気分をなんとか穏便に伝えようとしていたのを、クレオがそのままに言語化した上で、何故か喧嘩もついでに売った。

 遠回しに伝えようと慣れないことを頑張っていたのに、親友に台無しにされて仰天してしまう。

 どのような蛮行か。

「僕はまあどちらでもいい。ハッキリ言うと伯爵は存在が不愉快だ。殺してくれて問題ない。でも、それは彼女が同意するならだ」

 円卓の上に長い両脚を組んで載せた。

 無礼な振る舞いだが、誰も咎めない。

 ジェーンの親友が、どれだけ社交場にて一目置かれるのが上手いかがよくわかる。

「この計画は中止。これでいいね。そもそもなんだ、近ごろの君たちは、すぐに殺しだのなんだの。素晴らしい知識と技術の保全はどうする。虐げられる無辜の民を守るにもやり方を考えなよ。君等の前世から歴史を学べ」

「そ、そうよそうよ! 人殺し! みんな仲良く!!」

「何を言う。我らが標的にするのは、あくまで権利を濫用する貴族、王族とその関係者だけだ」

「いやでも……ジョナサンとフレディは……あなた達に……」

 シヴィルリーグ由来の武器を使って襲われた少年達。

 それも、悪いことをしていたわけではない。

 むしろジェーンや、ここの人間よりもずっと辛抱強く穏健なやり方でコミュニティを良くしようとしていた。 

 あんな風によってたかって嬲りものにしようとしていいはずがない。

 僕もジェーンも気持ちが同じだった。

 ただ、そういうことを口にするには、ジェーンはこれまで独断専行に生き過ぎた。

 他者に優しくすべきという呼びかけや、他者を虐げたことへの糾弾をストレートに口にすることに慣れていない。

 言語化して説明するのに、手間取っている。

「どうやら君たちは僕のツレに反論したいようだね。だが、君たちは何と相対しているのか知っているのかな!?」

 キザな仕草で指を鳴らし、クレオが助け舟をだす。

 彼女の周囲が光で瞬いた。

 どれだけ照らそうとも、不自然に部屋が明るくならない。

 光を吸い込む特殊な材質で作られた空間のようだ。

 それでもクレオとジェーンの顔を伝えるのは十分だった。

「こちらはジェーン・エルロンド。君たちがこうして本格的に行動を移せるのも彼女が空気も読まずに国を変えてくれたおかげさ」

 ピアニストのように細長く繊細な指がジェーンの仮面を取った。

 抗議の声をあげる暇もない。

 暗闇に晒された彼女の素顔。

 一年後に自分を処刑すると知っている面々に姿を現すのは非常にリスキーだった。

 周囲はお米の聖女にどう反応するか、

 ここで一斉に殺しに来られれば手も足も出ない。

「なんだと……!?」

「こんなところに救世主が……!!」

「ハ、ハァイ、こ、こんにちはー」

 苦し紛れに手を振って愛想をよくしてみた。

 会合に出席してわかったこととして、ここの者達には民衆に危害を加えない人間には、危害を加えることがまずないということだ。

 ジョナサンとフレディのことがある以上、あくまでおおよその方針としては、である。

 ならば聖女の呼び名通りに、ジェーンは本質的にシヴィル・リーグの敵にはならないはずだ。

 だが結果は予測とはまるで違う。

 瞬間的に頬を何か冷たいものが横切った。

「ひぇっ……」

 ナイフが投擲されたのだ。

 ひんやりしたものがほっぺを撫でたくらいに思った。

 それで済んだのは体が固くなっていたからだ。

 ただの素肌なら歯まで裂けていた。

「この金食い虫め!!」

「あの、お米のことばっかりやってきたのは認めるけど、それも反省して他のことをしようと今考えてて」

「何もしてない内から信じられるか!!」

「ほぎゃっ」

 痛いところを突かれてユニークな悲鳴が出た。

 が、ジェーンはとっくにそのことを理解している。

 すぐに持ち返す。

 その切り替わり、立ち直り、居直りの速さ、尊敬に値する。

「その通り! 周りに何を言われようとも金があったら全部お米に使ってたわ! だってお米大好きだもん!! それが今は違うと言われても信じられなくて当然ね!」

 火に油を注ぐ結果になるだろうが、ここでは馬鹿正直に認めた。

 どういうわけか、彼らはジェーンの気質を見事に理解しているようだ。

 レスポンスがすぐに来た。

「自覚したら許されると思っているのか! お前のせいで多くの産業の進化が停滞しているのだぞ! 餓えなくなったことで都市は教養も技術もない地方上がりでパンク寸前だ!」

「それもわかりました! なので、これからはそっちで頑張ります! 世の中をよりよくする方向で!! さあ、みんなあたしを信じてついてきなさい! 農業革命の向こう側へ!!」

 人差し指をピンと立て、希望の未来が待つ方角へ指さした。

 ジェーンとしてはさぞかし大きな感動を提供したと思ったが、反応は芳しくない。

 冷めきった空気があった。

「何故、国庫というものに対して、玩具を買うお金以上の扱いをしなかったのに、心変わりをした?」

 会合を仕切っていた男が、淡々と尋ねた。

 今気づいたが、声には若さがあった。

 素顔は青年なのかもしれない。

「それは──」

「前世を思い出したからだよ」

 クレオが変わりに話を引き継いだ。

 その場の全員の注目が、彼女に集中した。

「君達にも起きたことだろう? この場の全員が、自分に湧き上がる出どころ不明の知識、記憶がすべて過去、遠き前世にあると理解した経験があるのだ。それと同じことが、彼女にも起きたのさ」

「それは……ならばずっと前世という自覚もなしにそんなことをしていたと?」

「あまりに都合が良すぎ──」

「彼女の前世はスゲーマンだ」

 こともなさげにクレオは断言した。

 たったの一言。

 殺意が今にも爆発し、空間を蹂躙しようとしていたのが、一瞬で零度の静寂になった。

 不審に思ったジェーンが周囲の反応を窺った。

 水を打った静けさ。

 鼻息荒くしていた秘密結社の者達が、息を呑んでいる。

 こちらに注がれる視線は「まさか」という驚愕、そして「嘘だ」という疑い。

 親友の目配せで、ジェーンは何をすべきか理解した。

 首から提ていた水玉の術式を発動させる。

 ジェーンの血液が波打ち、膨らんで、小さなスゲーマンの姿になった。

「はじめまして、みなさん」

「「「スーパーヒーローだああああああああああ!!!!!」」」

 シヴィル・リーグに嵐が起こった。

「超かっこいいいい!!!」

「ピッチピチじゃあああああああん……タイツ超ピッチピチじゃあああああああん!!!」

「パンツ着用バージョン最高だよぉぉぉぉ!!!!」

「パンツなしもいいんだけど、やっぱり腰元にアクセントがあるとコスチュームが全体的にぐっと締まるううう!」

「たまんねえっ、全身タイツなのに両手は素手な意味を深読みすると尊い……」

 ジェーンの理解が及ばない美的センスに基づき、シヴィル・リーグの面々が総崩れした。

 人々は次から次に無垢な子どものように尊敬と信頼を浮かべてスゲーマンの血像へと走った。

 彼らにとっては絶対のシンボルの登場なのだろう。

 つまりは僕のことなんだけれど……この反応は照れるね。

 その場の全員が無垢な子どものようにはしゃいで跳び回る。

「すっげ! すっげ!! スゲーマンと同じ部屋にいる!!」

「そのコスチュームは……待ってください、当てます!! 全載せ(オールイン)時代ですね!? あの時は奥さんと一緒にヒーローしてましたねえ!!!」

「握手していいっすか? ……しちゃった…………あたし、来世も頑張るよ」

 シヴィル・リーグのジェーン・エルロンドに向ける敵意が完全に霧散したのだ。

 正確には、反転したのかもしれない。

 一年後、王国のあらゆる貴族を処刑し、ジェーンも断頭台に送るとされていた秘密結社の野望が、一晩で解決した。

 それも、すごくあっさり。

「スゲーマンって……スゲー」

 ジェーンは呟いた。

 ずっと僕ばかりジェーンを称賛していたから、逆になるのはけっこうむず痒かった。

 拍子抜けしたが、とにかく平和に場を収められたのなら良いことだ。

 ようやく今世で“僕”という存在が役に立てた。

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