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応酬の果てに待つモノは  作者: 斜辺私達
一章 日食より漏れる陽光
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一話 血濡れの英雄 ④

明日、更新できるか怪しいので...今日は二話更新です。

 そこに割り込んだのは崩壊と落下の音。砂埃が舞い、奴の姿が霞む。割れた壁から光が漏れ、闖入者の影を捉えた。


 ぐしゃりと、生々しく、鈍い音。『化け物』から鮮血が舞い、飛び散った血潮が影を覆う。耳をつんざくような悲鳴。影が露わになると、再び血が散り、『化け物』は表情を苦悶に歪める。続く絶叫と血のシャワーのセット。


 俺の目はその戦闘に釘付けになっていた。『化け物』が一方的にやられている。災禍以来、一度も見たことのない光景。蹂躙し、虐殺することはあってもその逆は決してなかった『化け物』がされるがままになっている。


 血がしぶき、鉄に似た匂いがまき散らされる。そのたび俺に湧き上がるのは不快感ではなく、爽快感だった。二か月間、地獄のような日々を強いてきた『化け物』が反撃すらできず、やられていく様は気味が良かったのだ。


 やがて奴が倒れ伏し、軽い地響きを起こす。影はこちらに近づき、その姿を露わにする。


 影の正体は鎧だった。病院の天井に達しそうな巨躯を覆う黒い表面に、飛び散った血糊が赤い塗装を施している。


 血に濡れた狂戦士。第一印象はそれだ。筋肉を再現したような凹凸で恰幅を大きく見せる鎧の形状、そして右手に携えている、一メートル半ほどの巨大な鉄棍、が一層イメージに拍車をかけている。


 が、見てゆくうちにそれは一転した。朱の合間から放たれる鎧のメタリックな光沢。骨格に沿って刻まれている白いライン。目元を包む白のバイザー。それらの近未来的な意匠に加え、完全性を思わせる芸術的なデザイン。つなぎ目や隙間は一切散見されず、光沢を帯びた黒が全身を覆うのみ。


 その完成された美ゆえに人が着用できるとは到底思えない。中身は空っぽなんじゃないか。そんな想像すら頭を過ぎる。


 美しさに見とれていただろう。平時に展示されたものを鑑賞したのであれば。端正な美を纏う鎧を飾るのは暴力の痕跡たる血液。朱の彩りが生む生々しさが鎧を芸術品としてみなすことを拒んでいた。


 『化け物たち』と戦う鎧の戦士。その噂が立ったのはまだネットが機能していたころだ。最初の投稿は証拠が付属していなかったことから、信憑性は薄く、誰もが一笑した。


 だが各地でも相次いで目撃情報が続くと、噂は真実味を帯びてきた。ただ最後までどの投稿にも証拠はないまま、通信手段は途絶えてしまったし、情報が流れていた時間だって一日にも満たない。噂以上の何物にもならなかった。


 まさか、本当にいたとはな。


 気づけば、鎧は俺のすぐそばまで来ていた。思い起こされるのは、一方的にこいつが『化け物』を嬲り殺したという事実。爽快感から一転して恐怖がやってくる。警戒し、ナイフを構えると、参ったと言わんばかりに鎧は両手を上げた。


 俺は目を疑った。鎧が取った行動ではなく、鎧が崩れていくことに対して。鎧という一つの調和した形から各々の部位へと分かたれる。部位は更に細かくなって、ねじ一本、欠片一つのパーツとなり、新たな形を形成していく。それは、最終的に長方形の赤黒いアタッシュケースという形にまとまった。中から降参のポーズをしたまま出てきたのは若い女性だった。


 ブラウンのボブカットを三つ編みにしていて、衣服は薄茶のニット。背には大きめのリュックを背負っている。顔に浮かべているのはいかにも人畜無害と言わんばかりの笑顔。


 漂う雰囲気が柔らかくて、ついさっきまで戦闘で血を被っていた人間とは到底思えなかった。アタッシュケースとなった鎧のハンドルを右手で掴み、柔和な笑みと開いた左手を俺に向けてくる。これは面倒なことになった。俺は頭を掻いた。


「だいじょうぶ? ケガはないかしら?」


 包みこむようなおっとりとした声音で女性は声をかけてきた。俺はそいつを一瞥すると、背を向ける。そのまま壊れた階段を飛び降り、拠点に向けて走り出した。


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