発信
好奇心旺盛な男女4人の若者たちが車を走らせてホラースポットへ向かっていった。
廃ホテルの壁には蔦がからまり、ガラスは全て飛び散っており、見た目で怖かった。
「じゃ入ろうか」
と男二人が提案するものの、女性たちは嫌がったので、逆に良かったと思いながら男たちは女性を気遣う振りをして車にエスコートした。
各々ホッとしながら帰り道、談笑しながら帰って行ったが、女性の一人が焦ったように声をあげた。
「私のスマホがない!」
「ま、マジですかぁ~。芽依ちゃん、電話鳴らしてあげて~」
運転手がそう言うので芽依という女性はすかさず彼女の電話に信号を送る。
しかし──、音がならない。
つまり車の中にないのだ。スマホを無くした女性は泣き出してしまい、きっと廃ホテルに落としたから戻って欲しい、と言った。
確かにスマホが無ければ不便であろうと運転手はUターンして先ほどの道へと戻った。
入り口までやってきて、四人は固まって地面を探すものの、見当たらない。すぐに電話を鳴らしたほうが早いことに気付き、芽依という女性に発信してもらった。
しかし──、鳴らない。
必死に辺りを見るものの、光ったり、音がしたりしないのだ。
だが気付いた。廃ホテルの三階、一番奥の部屋の窓がうっすらと光っていることに。
「まさかあそこにあるってこと!?」
スマホを落とした女性は泣きじゃくる。芽依という女性は、きっと月明かりが反射しているのだと一度発信を止める。
しかし、それとともに窓の発光も止まってしまったのだ。
全員息を飲む。そして芽依はもう一度発信した。すると、今度は窓際にスマホの形の発光。そしてうっすらとそれをこちらに向けている人の影があった。
みんな戦慄を覚えて後ずさる。だがスマホを落とした女性は、男たちをなじった。
「あんたたちの誘いに乗って、私のスマホはあんなところに! どうしてくれるのよ!」
男たちは後ろめたい気持ちもあったので弁償すると言ったが女は許さなかった。
「きっとホームレスが持っていったのよ。男二人で取り返してきて! 私たちは車で待ってるから!」
との怒声である。男たちは仕方なく、入りたくもない廃ホテルに入ることになってしまった。
スマホのライトと、小さな懐中電灯だけが頼りだ。荒れ果てたホテル内は不気味で叫んで逃げたくなる。
しかもここはホラースポットだ。何が出るか分からない。しかし二人は、
「あれを持っていったのはホームレス。あれを持っていったのはホームレス」
と復唱しながら、真っ暗な通路と階段を進んだ。
背筋が凍りそうだ。息も荒い。人生でこんなに恐ろしいことがあるだろうか?
たかだか電気の切れた施設なだけ。もとはここを何人もの人が歩いたに違いない通路がこんなに恐ろしい場所になるなんて。
二人は改めて二度とホラースポットには近付かないことを誓いながら三階の奥の部屋にたどり着いた。
閉じられた扉を、怯えながら開けるものの、そこにはホームレスの姿はない。
しかし、窓際に彼女のスマホを見つけた。
「はは……、良かった。あった」
「は、早く帰ろうぜ」
二人は女のスマホを手を取ったが、その時気付いた。
車のヘッドライトが点いている。そして車に走り寄る、男が二人。女二人はそれを迎えて車に乗せている。
それは明らかに、自分たちだった。
そいつらは、自分たちを置き去りに車を走らせ帰ってしまう。
◇
そして残された男はようやく気付いた。おそらく何者かが気付かないうちに男たちの肉体を奪い、彼女たちのもとに行って、今頃は肉体のある生活を楽しんでいるのだろう。
男たちは、今は肉体のない魂だけの存在に成り果てていることに気付いたのだ。
だから待っている。また二人組のものたちがここに入ってくることを。
そしたら、そいつらの肉体を奪い取って外に出ることが出来るのだから──。