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第四話◇

第四話


 始業式が終わり、ようやく学校から開放された。

「……」

 何かお詫びの品を持っていったほうがいいのだろうか?誠心誠意謝っているという気持ちを伝えるためにはどうしたらいいのだろう?

 八咲月子は残暑の残る九月の下り坂を、一人で歩くのだった。

 以前隣に居た少年はもう、そこにはいない。



―――――――



 俺の握っている剣を相手に叩きつけても、突いても、何をしてもダメージが相手にいっているとは思えなかった。



 そのたびに相手はにやけ、悦び、俺に嗤い掛けるのだった。



 嗤っている筈なのに、声は空気を震わして俺の耳に届くことはない。



「何で、何で効かねぇんだよ?」



 理解できない。これまでこの剣は全ての相手を切り刻み、物言わぬ姿へと換えてきたものなのだ。



 息があがっている、そりゃそうだ……五分以上相手に猛攻を仕掛けているつもりなのだから。



 猛攻…か。焦りが募る一方でもはや攻撃すること自体もやめてしまいたい。



「っくそぉぉぉぉぉおおおおおっ!!!」



 思い切り、目の前の俺の頭に剣を叩きつける。しかし、というかやはりというか……剣は畳を切り裂いたが、見上げるそこには自分が嗤っている。



 嘲笑っている……絶対に越えることの出来ない存在で……攻撃の手をやめてしまった瞬間に俺は負けてしまう気がする。



 何処まで行っても終わりのない、独りよがりの戦い。



 孤独感、どうしようもない……力量。



 気がつけば、あたりは部屋なんかではなく……静かな湖面へと変わっていた。ちょうど、岸で戦っている。



 異様に大きく蒼い月が夜空から俺たち二人を照らし、湖面に映す。



 映ったそこには俺ともう一人の俺……の姿はなく、赤黒く、何かの塊のようなものがただそこに在るだけ。



 俺は一体全体、誰と戦っているのだろうか?



 相手の剣が一瞬だけ、動かされた。ただ、それだけなのに俺は……気がつけば湖面に落とされている。



 何とか岸に上がり、剣を構えた……だが、気がつけば、俺の右手にあったはずの剣は握られておらず……



「燐ッ!!」



 燐が湖面に浮いていた。急いで駆け寄り、抱き上げる。幸いなことに湖面の深さは俺の腰辺りまでの浅瀬であることがよかった。



 相手はまったく動いておらず、相変わらずのニヤケ面。止めを刺すのなら、絶好のチャンスなのにまったく動かない。



「おい、燐っ……」



 ゆすっても、何をしても燐は目を覚ましてはくれない。蔑んだような目で俺を見ることもなく、彼女の身体が一瞬だけ光ったかと思うと真っ二つに折れた剣が俺の手に残されていた。



「え?あ……あ……」



 真っ黒かった、どす黒かったその剣の断面部は真っ赤に染まり、血のような液体が湖面へと流れ込む。



 一瞬にして全ての水面が真っ赤に染まり、呆然と立ち尽くす俺の耳にやけに変な声が聞こえてきた。それが最初、何なのかさえ俺にはわからなかった。



「おいおい、こんなものなのかよ?あの時自分よりも巨大な獣を倒した剣は?しとめたときの高揚感、自信は何処に行ったんだよ?どうにかできるなんて思っていた俺は一体全体何処に行ったんだ?なぁ、十時零時?」



「てめぇ……」



 紅い血の池となってしまった湖面へとすべるようにやってきた相手の手には二振りの剣が握られていた。右手のものは深紅に輝き、左手のものはどす黒く、光っている。



「安心しろよ、お前を殺せば俺も消えるんだ……だから、半分お前の願いを叶えてやったってことにもなるんだよ」



「どういう意味だよっ?」



 聞き返すが、相手の返答は言葉ではなく……剣だった。



 避けることのできないそれは、俺の身体を貫通する。貫通したと気がついたのは深々とささった何かを振り返って見ることも出来ず、胸下あたりに突き刺さっている剣の柄を見て確認したことによって知った。



「げはぁっ……はぁ、はぁ……どうだぁ?剣の味は?」



 最後の力を振り絞って顔を上げると血をはく自分の姿が在った。



 狭まる意識の中、刺さった剣をぬき去ろうと手を伸ばすが、つかめず、バランスを崩して湖面へと倒れこんでしまった。何とか、上半身だけを起こしてもう一人の俺を見る。あれほど、剣の一撃を叩き込んでもなお、平然としていた相手の顔は醜くゆがみ、痛みを拒絶する生きたい意志の塊だった。



 もはやどうすることの出来ない絶望。それは俺と、相手を包み込んで紅い湖面に新たなる血を流し始める。



 目の前が真っ赤に染まり、何もかも、紅く染まって全てが消えた。



「やつさ……き」



 紅く染まった視界のまま、俺は岸へとはいでる。湖面は真っ赤に染まってもはや、地にしか見えなかった。空を見上げれば、大きい満月は相変わらず蒼く、輝いている。風なんてまったく吹かないこの場所……湖面にはもう一人、俺が浮かんでいる。



「ま……たく、せわの……やけ……」



 はいずるようにしてもう一度湖面へ行こうとして、力がまったく入らなくなった。目の前には真っ赤に染まる大きな湖面……そして、それを照らし出す蒼い蒼い、月。



 もう一度、チャンスを誰かがくれるというのなら……俺は八咲に謝りたかった。




~終~


バッドエンドっぽい?まぁ、確かにそうかもしれませんし、書いてみてバッドエンドだ……そう、実感しました。書いていてどんなにがんばっても零時を生存させることができない……技量がないってことなんでしょう。なんだかとってもぬるい終わり方になってしまうんです……しかも、ところどころ消化不良なままですし……どうしたものでしょう?面白かった、その後が気になる、どうにかしてほしい……といった何かが来たらもう一度チャンスを頂いたということでもう一度、復活するかもしれません。一月六日水曜、二十二時三十六分雨月。

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