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獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第二章 ラザムの弟子たち
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ソレル家の合唱魔法

 大魚を倒し、上空へ戻ろうと飛び上がった時のことだ。

 妙な気配を遥か上空に感じた。つづいて、凝視されているような感覚を覚えた。

 視線は、人のものではなく、かといって魔物や獣のものでもなかった。

 ただただ強烈で、突き刺すような視線だった。


 さらに、自分の感覚がおかしくなっていることに気がついた。

 ボクは水面から崖の方へ向かって上に飛んでいるはずだった。だが、自分の感覚は逆に落下していると伝えてきた。

 飛翔魔法をつかい、飛んでいるはずなのに、ボクの感覚は落下と訴えているのだ。


 このままではまずいと思い、飛ぶ方向を逆、つまり海面の方へと変えた。

 かなり強く魔法の力を行使して、空への落下をなんとか阻止し、ようやく空中で静止することができた。


『ゴゴゴ』


 その時、背後で空気を震わせるような重い音が聞こえた。

 後ろから何かが迫っている気配を感じ、振り向くとそこにいたのはボクが倒したはずの大魚だった。いや、倒した大魚、そのものがいた。

 それは、体が三つに分かれ、海面ではなく空へ向かって落ちていた。


 崖の上で何か起きている。

 異常の正体が気になり、ボクは鳥の使い魔チャドをリーリたちのいる崖の上へと向かわせ、同調の魔法でその使い魔の視界を借りることにした。

 鳥の目をとおしてみた崖の上には歌う竜騎士たちと、それを指揮するリーリの姿があった。


「合唱魔法か」


 ボクはこの異常事態の正体に気がついた。

 それは一軍が集団で行使する合唱魔法だ。効果は千差万別。ただ個人が使う魔法とは違い、範囲と効果は桁違いの魔法だ。


 さらには、この合唱魔法の効果も察する。

 裏付けを取るために飛翔魔法の力を切ってみる。考えていたとおり、ボクの体は加速度的に空へと進む。

 思わず笑ってしまう。予想通りだ。

 本来であれば地上、つまり海面へと向かうはずのボクの体は、空へと高く落下していた。


 つまり、上空でリーリが使っていると思われる合唱魔法は、「空へ落下させる」魔法なのだ。

 ボクが倒した大魚の残骸も、ボク自身も、同じように天空へと落下している。

 海の水が落ちないのは、この合唱魔法がターゲットを指定することができるからだろう。


「せっかくだ、呼ばれてみようじゃないか」


 独り言を呟き。流されるように大空への落下を楽しんだ。

 少しの落下の後、竜騎士の元へ合流する。中心地点にいたリーリを追い抜き、大空を落下する。

 少しだけ低空で僕を見上げるリーリと目が合った。


「これが合唱魔法?」


 ボクは風を切る音の中、声を張り上げた。


「ああ、そうだ」


 リーリが誇らしげに応えた。


「我がソレル公爵家に伝わる、竜騎士の力による合唱魔法だ」


 空へ落下する僕に向かって、リーリは飛竜を駆って追いかけながら答えてくれた。


「合唱魔法ってさ、リーリは歌わなくていいの?」

「発動するときには皆で歌う必要がある。だけど、一度発動してしまえば、皆が歌い続ける必要はない。皆が歌い止めれば魔法は終わる」


 合唱魔法のことはあまり興味がなかったが、これほどの力を持つなら少しだけ興味が湧いた。ボクがそう言うとリーリが笑った。


「どうしたんだい?」

「大賢者より二つ名を与えられた『賢者の中の賢者』と称されるジルにものを教えることができるとは……悪い気分ではないな」

「そうかい? ボクは知らないことも多いよ」

「ははっ」


 リーリはすごく楽しそうだった。

 ひとしきり笑った彼女は、さっと左手を館の方へ動かした。

 次の瞬間、大空へ落下していた僕の体は、ふわりと落下の方向を変えた。

 大魚の残骸も同じく方向を変え、さらに小刻みにリーリが腕を動かすと、落下する方向が何度か変わる。

 やがて、ボクと大魚の残骸は、リーリの館を取り巻く芋畑の場所へふわりと着地した。

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