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獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第二章 ラザムの弟子たち
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揚げ物の賢者

「ごきげんよう。公爵様をはじめ皆様方」


 竜騎士に促されて、小太りで小柄な男がフワフワと飛んできて、巨大なリュックを地面に下ろして、フゥと一息つくと、微笑んでボク達を見回した。


「あっ」


 ボクは、ようやく彼のことを思い出した。

 丸く赤い帽子を灰色の髪にのせ、白いシャツに短めの黒いローブを羽織った彼は、兄弟子にあたる。

 ワックスで固めた鼻ヒゲを軽くつまんだあと、帽子を手に取った彼は深々とお辞儀した。


「かの大賢者の弟子にして、揚げ物の賢者、ロアドと申します。皆々様、以後お見知りおきを」


 名乗りをあげて、帽子をかぶりなおしたロアドは、フゥと息をはいた。

 飛翔の魔法で息切れしている。太りすぎじゃないかと思った。

 ビカロがボクの方をチラリと見て「揚げ物?」とつぶやく。

 二つ名は自称の人も多いから、ボクにはなんとも言えない。とりあえず、頷いておくだけにとどめた。

 一方のロアドはローブのポケットからハンカチを取り出し額を拭い、周囲を見回し、ウンと大きく頷いた。


「いやはや。飛翔魔法の連続使用はジョギング程度の疲労をもたらしますので、汗が噴き出ますな。で、見た様子ですと……食糧問題から手をつけると」

「衣食足りて礼節をなんとやらだよ。ロアドの推察どおりさ。ひさしぶりだね」


 寝っ転がった状態のままセリーヌ姉さんが、腕を持ち上げて手をヒラヒラと振った。


「セリーヌさんこそ、ごきげんよう」

「ところで、ロアドはどうしてあんなところにいたの?」


 味方が増えるのは嬉しいが、なんであんなところを飛んで、こちらを伺っていたのかはわからない。

 ボクが頭によぎった疑問を口にすると、ロアドは「んん?」と唸る。


「ジル。貴方が助けを求めたのでしょう?」

「助け?」

「ほらここに」


 ロアドがローブのポケットを探って手紙を取り出した。

 それはボクが書いたものだ。

 ウエルバ監獄で、魔物の襲撃がほぼ確実となった時に、手当たり次第、知っている人に助けを求めた手紙だ。

 セリーヌ姉さんと同じく、ロアドも助けに来てくれたというわけだ。


「ひどいよねぇ、ジル君。呼びつけた上に忘れているなんてさ」


 ケラケラと寝転がったままのセリーヌ姉さんが笑う。


「誠に。まぁ、良いでしょう。喉元過ぎれば熱さを忘れる……そういうラザムの格言もあります。安息の地にたどり着き、気の緩み故の忘却と受け取りましょう」

「そうそう。それだよ、ボクが言いたかったのは」


 また、にらまれた。

 同意したのに、ロアドは気難しいな。


「他の人に、無事を連絡したほうがいいかも」


 クリエがひそひそと語りかけてきたので、わずかに肩をすくめて笑って返す。

 確かにクリエが言うように、安全が保証されていると、追伸を送ったほうがいいだろう。

 ピンチだと誤解されたままだと申し訳ない。

 だけど、やはり手助けが欲しいと追伸には盛り込むつもりだ。

 周囲の状況を見ると、人手が必要であることは明らかだ。

 ボクはこの状況を復興させたいと考えていた。

 セリーヌ姉さんではないが、飢えた人がいるのは見過ごせないし、こんな焼け野原で人が暮らすのは気持ちが良いものではない。

 それが助けてくれたリーリ達の恩返しにもつながる。


「心から歓迎しよう。賢者ロアド。こういう状況ゆえ、満足いくもてなしはできないが、誠意を尽くそう」

「ソレル公爵リーリ様にそう言っていただけて嬉しく思います。実はいいますと、すでに2日程前に、ここにはたどり着いておりまして、下見もすませております。大丈夫、現状を改善するプランは全て、このロアドの頭脳にあります」


 リーリからの言葉に、ロアドは答えながらこめかみをトントンと指で叩いた。


 それから「頭脳派ですので」と付け加える。


「私と同じだね」


 寝転がったままのセリーヌ姉さんがロアドの真似をして額をトントンと指でつつく。

 それから立ち上がろうとしたが「まだ無理か」といい、周囲に広がる芋の葉っぱへと体をうつした。わずかばかり、青々とした葉っぱの匂いがただよう。


「どうやら寿命を、魂を削ったようですね。ふむ。ですが、同じではありません。セリーヌ、貴方はノリだけでしょう」


 ロアドはセリーヌ姉さんを見下ろし「んん」と唸った。

 そういえば、この人ってプライド高いんだっけ。もっとも、ボクもロアドの意見に賛成だ。


「それは言えてる。姉さんは確かにノリだけだよね。ボク達と違って」

「ジル、貴方は行き当たりばったりでしょう」


 ロアドにとってボクも頭脳派のうちに入らないらしい。

 意外と考えているのだけれどな。


「最近はね。色々と予測不能の事態が起こったからだよ」


 言いながら額をトントンと指で叩いてみせると、ロアドは、口をへの字にまげる。

 リーリ達は頷き、クリエは笑ってみていた。


「それで、そのプランというのを聞かせていただけるのか? ロアド」

「もちろん。プランを共有しなくては進みません。ですが、まずは少しばかり、わたくしの成果を見ていただきたいと考えております」

「成果?」

「揚げ物の賢者としてのわたくしの実力、そして、ジルとセリーヌ、適当な二人との違いをはっきりと知っていただきたく存じます」


 ロアドはボクと同レベルだと思われるのが納得いかないらしい。

 ニコニコ笑顔のまま続ける。


「その上で、皆様が納得の上で、公爵領が栄えるプランをお伝えし行動しましょう。皆様は、帰郷し間が無い状況です。そこのセリーヌの体力と魔力の回復も必要ですし……まずは落ち着くことが大事です」


 確かにそうだ。いったんはセリーヌ姉さんが動けるまで回復することを優先させたい。いずれにせよソレル領の現状は今日明日でなんとかなるものではない。

 自信に溢れたロアドの言葉を聞いて「二つ名と、台詞が噛み合わないな」とビカロがつぶやいていた。

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