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獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第二章 ラザムの弟子たち
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痛み分け

 円形ギロチンの魔法によって作成された巨大な刃が、全体にガリッと音を立てて船体に刺さる。

 刃は止まらない。じわりじわりと動いて船のマストを切断する。

 大量のロープを巻き込んで、船のマストは倒れて湖へと落ちる。

 刃は未だ止まらない。

 ジワリジワリとゆっくりと刃は動き、巨大な船体へ食い込んでいく。

 このまま巨大な船を両断できるかと思ったが、そうはいかない。

 船の一カ所が小さく眩く輝いた。


『ガンガン』


 連続した巨大な金属同士がぶつかる音がリズミカルに響く。

 船から響く音とともに、円形ギロチンの刃に火花が起こった。そして円形ギロチンの刃と木枠に亀裂が走り、魔法が破壊される。


「あれって破壊ができるのか……」


 円形ギロチンが破壊されたのを初めてみた。

 だけど、手応えはあった。

 ボクは、男に向かって微笑む。


「多重詠唱だと……どうかな?」


 レッザリオは苦笑し、両手を前に突き出した。


「まいった!」


 一転してレッザリオは笑顔で叫んだ。


「まいった?」

「降参だ。降参。ジル、私の負けだ」


 彼は万歳し、わざとらしく「まいったまいった」と続けた。

 その言葉に呼応するかのように、巨大な犬たちは伏せ、マスケット兵たちは銃を地面に置いた。

 どうやら降伏という言葉は本当らしい。


「いやぁ、さすがは我が弟弟子、強い。強すぎる!」


 レッザリオは、大きな声を上げ、ボクからゆっくり離れて、水辺……姿を見せた船の方へと歩いていく。

 隙だらけだ。攻撃を誘っているとかそういうわけではない。

 こちらが攻撃しないと考えているようだ。


「さてはて皆様方」


 レッザリオは何もない浜辺のほうに向き直りおじぎをする。

 すると、その先に、ふわりと男女の集団が現れた。

 全員が豪華に着飾っていてセンスや仮面で顔を覆っていた。

 その姿はまるで仮面舞踏会にでも出るつもりにも見えた。


「この私と戦いましたる若者は、名をジル・オイラスと言います」


 レッザリオは彼らに向かって語り出す。


「かの大賢者ラザムより、2つ名を抱いた弟子の一人。そう他ならぬ、偉大なるギースボイド、百聞ジェイコブと同格の賢者にございます」

「ずいぶんと手ひどくやられましたね」

「いやはやまったく。船をまっぷたつにされるかと……このレッザリオ、ヒヤヒヤとしました」


男の言葉に仮面の集団から「ハハハ」「フフフ」と笑い声が起こった。


「あなたが焦る瞬間、とても愉快でしたわ」

「楽しんでいただけたのであれば、多少の痛みは我慢しましょう」


 まるで見世物にされたような形で不快だ。

 レッザリオは、ボクの様子をチラリと見た後、こちらへと歩いてきた。


「降参は本当だ。お前たちが動かなければこちらも動かない」


 小声で密談するようにレッザリオがささやく。


「ボクやリーリが抵抗したら?」

「船の中にはまだ人がいる。こちらはまだ手がある。戦えば、お互い無事では済まない」


 言葉に嘘はないだろう。すくなくともボクの円形ギロチンを破壊できる力を持った人間が船にはいる。

 そしてリーリを攻撃した者も。


「では、そういうことで」


 ボクが黙っていると、レッザリオは静かに微笑んで、ゆっくりと去っていく。

 それに呼応するように、船がこちらに向かってきていた。


「おい! レッザリオ!」


 ゆうゆうと船のほうに向かって歩くレッザリオに老人がかけより声をはりあげる。


「クローエン様。申し訳ない。これ以上は無理です。埋め合わせはしますので」

「裏切る気か?」

「いや、まさか、裏切るなんてとんでもありません。きちんと対応いたします」


 老人に対して男は余裕の笑みをうかべた。


「あぁそうそう。クローエン様におかれましては、お孫様と話し合うことをお勧めいたします」


 言い終わると、レッザリオはまた船にむかって歩きだす。

 仮面の集団とも合流し、浜辺へと一段がたどり着くころに、船はすぐに岸辺について渡し板を浜辺に伸ばした。

 仮面の集団が乗り、マスケット兵達、多くの人が乗り込んだ様子をレッザリオは見届け、最後にこちらに向かって深々とお辞儀をして去っていった。

 船が全員を乗せた後、ゆっくりと湖の中央部へと進んでいき、それからプロペラを回し上昇していく。

 地上の集団が去った後、降りてくるのは竜騎士達だ。


「助かったぞ、ジル」


 リーリがこちらへと歩いてくる。

 次々と降り立つ竜騎士達は警戒をゆるめていない。


「あの人達は追い払うことしかできなかったよ」

「それで十分だ」


 静かに頷いたリーリは、一人残された老人の方へと歩いて行く。


「裏切ったのか」


 リーリが老人へと声をかけた。


「裏切った? 違うな」

「違う?」

「最初から……お前の味方などではない。この街のために娘を差し出したのに、結果的に残ったのはお前のような破滅をもたらす迷惑な小娘だけだった」


 何もいわず老人を見つめるリーリに老人は怒鳴り続ける。


「せっかく、せっかく新興貴族と交渉できていたのに、なんてことをしてくれたのだ! お前は! なぜ、死んでくれなかった! クソッ、クソッ!」


 怒鳴る老人に、リーリは言い返さなかった。

 ただ無表情に見返すだけだ。

 必死になって、叫び、怒鳴りつづけて、老人は息をきらせた。

 ゼエゼエと荒い息で老人がうなだれて、ようやくリーリが老人へと語りかける。


「約束は守ってもらう……当初の約束通りだ」


 リーリはそれだけを言って、こちらへと戻ってきた。


「ジル……おかげで犠牲が少なく目的は達成できたよ」


 引きつった笑顔のリーリはポツリといった。


「大丈夫?」

「あぁ、交渉は……いちおう守ってくれるだろう」


 リーリはフゥと息を吐いた。


「今日はご馳走が振る舞えそうだ」


 かすかな笑みを浮かべたリーリは静かにさっていく。その先には横たわり動かなくなった騎士と飛竜がいた。

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