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獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第二章 ラザムの弟子たち
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武器を作る

「投降はしない」


 ボクは端的に答えてレッザリオに殴りかかる。

 彼はやはり真面目に戦う気はないらしい。距離をとって、青く輝く円筒系の武器……ロケット砲をこちらへ向けた。


「標準をつけづらいな」

「だったら、それ、捨てれば?」

「もう少し観察してからかな」

「観察?」

「私のアンコモンは、武器として想起されるものを実体化させる。対象は範囲内のすべての人間だ」

「聞きたくはないけど」


 時間稼ぎなのか、レッザリオは笑顔でボクに語りかける。


「聞いていて欲しいんだよ。知ってもらうだけで、この魔法の精度は格段に上がる。別にジル坊に使いたいわけではないんだ。精度が確保できないと、観察して、設計図に書き起こせない」

「魔法で作り出した武器を複製?」

「次の武器生成まで手にした兵器は実体化が続き、分解もできる。それを部品ごとに複製する方式での新兵器開発だ」


 レッザリオは魔法で武器を作って、それを魔法以外の技術で複製しているらしい。

 マスケット銃もそうやって作ったのか……。


「じゃあなおさら聞きたくないよ」


 ボクの攻撃は当たらないが、向こうも手に持ったロケット砲を使い切れない。

 だけど、だからといってマスケット兵の玉込めを妨害できない。ボクから付かず離れず間合いをとっている巨大な犬が邪魔なのだ。

 一方、マスケット兵の次弾装填は着実に進んでいる。


『パァン』


 そんな時、遠くの地面が鳴って砂煙があがった。

 マスケット兵の銃撃ではない。それは上空からの攻撃。リーリが鞭でマスケット兵を攻撃したのだ。

 それによって、マスケット兵の数人が大きく飛ばされた。


「神の鞭か」


 ちらりと倒れたマスケット兵をみたレッザリオが呟いて、ロケット砲をこちらへ投げ捨てた。

 ボクはそれをしゃがんでかわしつつ男に接近する。


『ズン』


 鈍い音がして、レッザリオの顔が苦痛に歪む。

 ようやくとらえた!

 攻撃が初めてレッザリオの体をとらえた。


「兄弟子を殴るなよ……」


 レッザリオは笑顔こそ崩さないが、うめきつつ言う。


「邪魔だからね」

「ラザムに学んだ者同士だ。仲良くいこうじゃないか」


 レッザリオが指をパチンと鳴らす。

 それに呼応して、犬の1匹がリーリの鞭に対して対応を始めた。マスケット兵を守るために動いたようで、続く鞭の攻撃はすべてマスケット兵に届かず、犬の身を挺した防御に阻まれた。

 だけど、ボクに余裕ができた。犬が一匹へるだけでずいぶんと楽になる。

 相手は目の前のレッザリオと、巨大な武装犬3匹。

 ボクが接近しレッザリオを殴りつける。レッザリオは距離をとって攻撃を避ける。そのリズムが狂っていく。

 犬の妨害があってもなおボクが優勢になっていき、レッザリオの笑顔が少しだけ硬くなる。


「ジル坊、よく聞け。ソレル領は、もうないんだよ」

「さっき聞いたよ、それ。多分本当なんだろうね。でもリーリの言葉も本当だと思う」

「何を公爵に聞いたか知らんが……」

「状況はわからないよ。だからさ。自分の目で見て考えるよ」

「ダメだったらどうする?」

「その時は助けてよ。兄弟子なんでしょ?」

「投降すると言うのか?」

「いやいや、助けてってボクの言い値で」

「虫がよすぎだ」


 汗をかき疲労の色をあらわにしつつも、レッザリオは笑顔で格闘しつつの会話をこなしている。

 まだ何かある。レッザリオの態度に嫌な予感しかしない。


「ところで、お前の目的は何なんだ?」

「私の目的? あぁ、私は場所が欲しいんだ、ジル坊」

「場所?」

「兵器の実験場だ」


 兵器の実験上……と言いかけてあわてて口をつぐむ。

 危ない。向こうのノリに付き合わされて、マスケット兵をなんとかするという本来の目的を見失うことだった。

 どうにもこの人、親類みたいなノリで話しかけてきて調子が狂う。

 独特の話術が怖い。

 それにしても困った。

 リーリの鞭は犬によって阻まれている。

 ボクも動けず、打つ手がない。

 次の策を考えなくては……。

 そう考えたのはリーリも同じようで、一瞬だけ攻撃が止めた。

 それから鞭の攻撃が再開するが、狙ったのはマスケット兵ではなかった。

 リーリは何かを思いついたらしい。


「あれは?」


 レッザリオがリーリが攻撃する湖の方を少しだけにらみつけた。

 どうして……なぜ湖を攻撃するのかはわからない。


「気づいているか?」

「何を?」

「公爵様はだいぶ近づいてきている。地上に。ついにマスケット兵の射程範囲だ。確実に始末できる高度まで、公爵の駆る飛竜は降りてきている」


 確かにリーリと数体の竜騎士たちはずいぶんと地上に近づいていた。


「もう一度言うぞ、ジル坊。投降しろ。せっかくだ。弟弟子に命じて、公爵の命は取らないようにしよう。これが最後だ」


 今までとは違うレッザリオの笑顔。その目は笑っていない。

 本当に殺す気だ。

 おもわず唾を飲んだ。

 そのときだった。


『キィィィィィ……ン』


 甲高い音が鳴った。鳴っているのは湖の方角。


「なんだろ?」


 何もないところから、光線がリーリに向かって飛んでいく。

 正体不明な攻撃、リーリは無事だったが、それは数体の竜騎士の犠牲があってこそあった。

 身を挺してリーリをかばった竜騎士達が落下していく。


「船……不可視?」


 透明から半透明に、さらにジワジワと姿を現す3本マストの巨大な船。マストの先には大きなプロペラ……飛行船。不可視の魔法で湖の船を隠していたらしい。


「なぜ撃った!」


 レッザリオが大声を上げた。

 リーリが狙ったのはあの船らしい。結局のところ鞭の攻撃は当てずっぽうだったようだが、向こうが手を出したおかげで船の位置は露見した。


「あれを壊せばいいようだね」


 レッザリオがボクから目を離した隙に魔法を使う。

 犬がこちらに迫ってきたが、魔法を優先する。


「処刑魔法……円形ギロチン」


 魔法を完成させる。

 レッザリオがこちらを見た。


「よくわかんないけど、船ぶった切ってみることにしたよ」


 さらに追撃する犬の噛みつきをギリギリで受けて、ボクは目標とする船の方角を指さした。

 湖に巨大な木製の輪っかが出現し、それと同時に不可視の魔法が消えた船の姿が現れる。

 円形の木枠は船をすっぽり取り囲み、そして輪っかの内部に現れた巨大な刃は、船を真っ二つにすべくゆっくりスライドする。


「うまくスライスできればいいんだけど」


 ボクは笑顔でレッザリオに言った。

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