小猿の目的地
肌をチリチリと焦がすほどの熱風が吹き荒れる。
飛び散る煤と灰、視界が悪く、息苦しい。
「最後の最後まで、迷惑な爆発残して……」
悪態をついていると、ようやく熱風は止んだ。
静寂がもどったその場所には何もなかった。枯れ葉も、焼けた木々も、凍った木々も。
ぽっかりと開けた場所がそこにはあった。
「ぜぇぜぇ」
周囲に脅威が無いと確信したとたん、急に息がきれた。
あえぐように息をする。
「そういえば、ソレル公爵は? 飛竜は?」
空を見上げると、星明かりにわずかばかり照らされる飛竜の群れが見えた。
数十体の飛竜が隊列を組んで去っていく。
「さぁな。それにしてもズィロめ好き放題してくれたな」
ブンブンと頭を振ってフェンリルが吐き捨てた。
「そうだね……まずはクリエ達と合流しよう。考えるのはあとまわしでいい」
ボクは、フェンリルの背に飛び乗り答えた。
そうして、あっという間に戦った場所から離れた。
ポッカリと空けた空間から森へと景色が変わった。
ゴロンとフェンリルの背に倒れこんで、さきほどの何もない場所へと思いをはせる。
「ズィロの死体は確かに無かった。あの爆発で消えたのか……」
自分の手を見た。
はっきりとした手ごたえがなかった。
「まぁ、いいか」
『ダダダッ、ダダダッ』
フェンリルが地面を蹴る音が響くなか、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
森の木々がザザッと音をたてていて、それが心地良い。
「ジル坊、皆、無事のようだぞ」
随分と時間がすぎて、フェンリルが言う。
起き上がって前を見ると、森の中に設置された巨大なテントの前で皆がボクを待っていた。
テントの側に放置された丸太がある。森を切り開いて空き地をつくったようだ。
かがり火で照らされたテントはまるで即席の縁劇場という外見だった。
きらびやかで立派で、そして綺麗だった。
ドーム型をしていて、厚手の布で覆われたその中に何があるのかはわからない。
そのサイズは、ボク達全員をかるく受け入れることができるだろう。
「ジル!」
最初に迎えてくれたのはクリエだった。
駆け寄ってくる彼女は不安げだったが、ボクが笑うと、彼女も笑って答えてくれた。
「おまたせ。ズィロは……もう追ってこない」
ボクの言葉にクリエが「うん」とうなずいた。
「どうおもう?」
続いてビカロが質問を投げてきた。
背の高い彼が頭をガシガシとかきながら、苦笑しつつテントを指さした。
対応をしあぐねている様子がありありとしている。
あたりを見回すが、ボク達だけだ。森の中に気配を感じない。
「子猿は?」
「テントに入ってすぐ出てから、クリエさんをテントへ招くような仕草を何度かした」
「とりあえずボクが入ってみる」
ピョンとフェンリルの背から飛び降りたボクは、テントへと近づくことにした。
いつでも防御魔法を張れるよう準備のうえで、ゆっくりと進み、入り口らしき場所の布をバッと開く。
中には縦に二列のテーブル。
その上には御馳走。
焼いた骨付き肉が山盛り皿に盛られ、大鍋にはスープが波打ち、ほかにもジョッキやこまごまとした料理がズラリと並べてある。
肉の焼けた香ばしい匂いがフワリと漂う。
その匂いは部屋にある料理が出来立てであることを物語る。
そして……。
「んーんー」
ロープでグルグル巻きのうえ、猿ぐつわをされた、赤いローブ姿で金髪の女性。
「セリーヌ姉さん!」
ボクは反射的に声をあげ近づく。
いったいどういうことだ?
どうして、セリーヌ姉さんがこんな目に。
「そやつは、お前やお前の仲間達をセリにかけたのだ」
彼女に近づいた直後、テントの外、クリエ達のいる場所から声がした。
それは聞き覚えのない声だった。




