竜騎士
薄暗い空にチラリと黒い影がみえた。
生い茂る木々が邪魔で空の様子はわかりにくいが、何かが飛んでいることはわかった。
ズィロの言葉から、あれは飛竜なのだろう。
ソレル領は、飛竜に乗った騎士……竜騎士で有名だ。
『ドォン、ドォン』
空からの攻撃はズィロに当たらず破裂音だけを響かせた。
ズィロは弓の弦を引いた姿勢のまま移動する。
空からの攻撃は、精密に、連続して、繰り出された。逃げる彼は反撃できない。
「ホーキンス!」
甲高い女性の声が響いた。
それにあわせてズィロの背後から竜騎士が襲いかかる。空を飛ぶ者とは別の人だ。
地面すれすれに木の葉を舞い散らせて突撃する竜騎士は、ランスを構えていた。
「想定外だ」
身を翻してランスを避けたズィロが吐き捨てた。
魔法を消して、身軽になることでギリギリ攻撃をかわしたようだが、彼に余裕はなかった。
ズィロにまとわりつくようにつかず離れず戦う竜騎士と、上空から強力な打撃を繰り出す竜騎士、息がピッタリ合っている。
『バキィ!』
とうとうズィロは背中に空からの攻撃をうけた。
背中を殴られた彼は膝をついた。
「あと少し」
ボクがつぶやいたと同時、地表すれすれを飛び回る竜騎士がトドメとばかり大きく距離をとってからランスを構え突撃する。
「なめるぁ!」
ズィロが叫んだ。
竜騎士が距離をとったのは失敗だったようだ。
「パァンパァン」
破裂音がして、竜騎士とズィロの間に無数の爆発が起こった。
その爆発はとても小さいものだった。それは竜騎士を傷つけないが、二人の間の空気に干渉し飛竜の滑空を妨害する。
さらに上空からの攻撃をズィロは掴んで見せた。
「なっ!」
地上を飛ぶ竜騎士が悲鳴にも似た驚愕の声をあげる。
空からの攻撃の正体は金属製の鞭。
伸び縮みする魔法の鞭だったらしい。
「リーリ様!」
地表を飛ぶ竜騎士が叫んだ。バサバサと翼をはためかせ何とか墜落を免れたようだが、それで精一杯らしい。
「たったの二人で俺を殺せるとでも思ったか! 舐めすぎなんだよ!」
そう言ったかを思うと、ズィロがつぶやくように何かの魔法を詠唱する。それは彼らしく炎の魔法だ。ズィロの鞭を掴んでいた手が燃え上がり、鞭を伝うように炎が燃え広がる。
「この鞭ごとお前を燃やしてやるよ、小娘!」
ズィロの叫びに合わせて、炎は大きくなって鞭を凄いスピードでかけあがる。
だけど、彼は、ズィロは忘れている。
「2人じゃないでしょ」
ズィロが声をあげたボクを見た。
「しまった」
彼が両目をカッとひらいてボクをみた。
ボクには十分な時間があった。息をととのえ、必殺の魔法を使う時間が。
「処刑魔法、円形ギロチン」
魔法が完成し、ズィロの囲むように円形の木枠が出現した。
そして円の中に鋭い刃物をゆっくり走る。まるで葉巻の先端を切り裂くシガーカッターのように、ズィロの胴体を切断すべく刃物は動く。
「なんだ、この魔法、身体が……ジル坊っ」
「ごめんズィロ」
手加減してはいけない敵だ。ボクはようやく気がついた。
だけど、なんだか寂しく感じて、謝罪の言葉が口をついた。
「ハッ」
刃がズィロを切断する間際、ズィロは馬鹿にしたように笑った。
そして彼は、巨大な火球になって爆発した。




