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獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第二章 ラザムの弟子たち
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前期と後期

 ジャガイモを食べた小猿の声は次第にクリアになる。

 声を聞くと、本人がすぐそばにいるような感覚がしてくる。ふと、気が楽になった。


「少し離れた場所にジル君達が休める場所を用意した。この子が皆を導くからさ、ついていって。私も用事を済ませたら合流するから、よろしくぅ」


 軽い調子で姉弟子の言葉は終わった。

 小猿は自分がしゃべっていた事を憶えていないようで、バク転したかと思うと、少し離れた場所まで進んでパチパチと手を叩きだした。


「どうする?」


 フェンリルがボクに問う。


「相手はセリーヌ姉さんだし、信用しても大丈夫じゃないかな」


 ボクはしゃがみ込みながら答えた。


「そうか。俺も同じ意見だ。では、猿を追うのだな」


 フェンリルも同意らしい。

 姉弟子はマイペースで適当だけれど悪人じゃない。


「では決まりですね。その……セリーヌ様が用意したという場所に向かうことにしましょう」

 そんなボクとフェンリルの様子を見ていたクリエ達からも反対の声はあがらず、小猿を追って姉弟子の用意した場所へと進むことになった。

 監獄から見て西の方角、深い森の中に。

 ちなみにボクはフェンリルの背で休ませてもらうことになった。

 それだけ誰から見てもボロボロだったらしい。


「ところで、そのセリーヌという賢者は前期か? 後期か?」


 フェンリルの背に寝っ転がったボクがぼんやりと森の木々を見上げていると、誰かが質問を投げかけてきた。

 ちらりと声がした方を見ると、筋骨隆々な男のうち赤い長髪の男の方が僕を見ていた。

 彼の名前はクィントス。東にあるどこかの領地で騎士をやっていた人だ。

 セリーヌ姉さんの伝言を聞いて進むことになった時に、きちんと名乗りを聞いたはずなのに、どこの領地かを思い出せない。

 どうやらボクは予想以上に疲弊しているらしい。


「あぁ、すまない。疲れているのだったな」


 ボクが無言だったからか、クィントスはゆっくりと首を振った。


「いえいえ大丈夫ですよ。前期か後期かで言うと、後期ですね。後期ラザムの弟子」

「そうか」


 クィントスは残念そうだった。

 大賢者ラザムの弟子はほとんど全員が何かしらの結果を出して、賢者と呼ばれるにふさわしい人間になった。

 だけど世間一般の認識では賢者の中でも優劣がある。

 これが前期と後期の違い。

 何時頃に師匠に弟子入りしたか、それが大事なのだ。


「なにかあったの……ですか?」


 側を歩いていたクリエがボクに聞いてくる。残念がるクィントスをみて心配になったらしい。


「大したことじゃないよ。セリーヌ姉さんが、いつ頃に大賢者の弟子になったのかって話」

「いや。重要だろう、俺達を助けると言っても、前期か後期かで……出来る事は大きく違う」


 ビカロめ、なんて事を。クリエを心配させないように言ったのに否定しやがった。


「いや、まぁ、ビカロが言う通り後ろ立ての問題はあるけど……」


 ボクの師匠であるラザムは若くして数多くの発見や発明をして、大賢者と呼ばれるに至った。

 そして彼はより良い世の中を目指すために、多くの弟子を取ることにした。

 大賢者の知恵をあまねく世界に!

 それは世界を支配する王と三公八伯の願いでもあった。

 周囲の願いもあって、権力者が推薦する天才や秀才達を弟子として迎えた。

 それが前期ラザムの弟子と呼ばれる賢者達だ。

 彼らは賢者と呼ばれるに相応しい力と結果を残した。とどのつまり、スポンサーである三公八伯の期待に応えたわけだ。

 ところがその後、師匠は弟子をとるのをしばらくやめた。

 数年後に再び弟子をとるようになったが、それは師匠自身が選んだ人だ。

 きっかけはいろいろ。

 師匠を尋ねる人たちだったり、面白い研究をしている人を師匠がスカウトしたこともあった。

 それが後期ラザムの弟子。

 そういう経緯があって前期ラザムの弟子は、後期と違い権力者が多い。もともとが、大貴族の推薦だからだ。

 逆に、後期はパッとしない。


「でも大丈夫だよ。セリーヌ姉さんだって賢者と呼ばれるに相応しい結果を残している。皆だってジャガイモとかを食べたたことあるでしょ?」


 ボクはしばらく考えた後、クリエにそしてビカロをはじめとした皆に言った。

 だが……。

 そんなボクにビカロはさらに何かを言おうとした。

 だから、かぶせるように言い返す。


「でも助けてくれる人は貴重で、他に頼る人はいないんだ。ここで取れる手段は少ない。だからとりあえずは姉弟子を頼ろうと思う。根はいい人だし」


 時間を稼げるのだからそれでいい。

 でも、それだけでは周囲は納得できないらしい。


「ところで貴方はその後を考えているのか? それともその先についても……そう、芋の賢者に任せると?」


 険しい顔をしたクィントスが低い声で問いただす。

 なんだかボクを試しているような雰囲気だ。

 その先はもちろん考えている。全てを丸投げする気はない。


「ボクは、ソレル公爵を頼るべきだと思う」


 だから真剣な彼に、ボクもまた真剣な表情で答えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 襲ってきた公爵を!? 腹にイチモツあるようだし聖女を認めてもいる模様。 しかしそれは閑話の話、さて賢者殿の判断の決め手はなんだろうか、待て次回! [気になる点] 良いですね、この『助けられ…
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