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獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第二章 ラザムの弟子たち
51/101

合唱魔法

 個の時代と集団の時代。この二つの時代は交互にやってくる。

 それは戦闘における話だ。

 一人の人間が、魔法や武術で集団を圧倒する個の時代。

 集団による戦法が、突出した個人を押さえつける集団の時代。

 個、集団、個、集団と、長い戦争の歴史のなかで振り子のように繰り返された。

 そして、今は集団の時代だ。

 集団による戦法が、突出した個人の活躍を許さない。


「ジル坊! スティミス軍のど真ん中に落ちたのは失敗だったな」


 ボクの襟を両手で掴んだズィロが唸るように言った。

 ズィロは合唱魔法で、ボクの力を封じるつもりだ。


「オォォォ!」


 兵士達が雄叫びを上げる。

 合唱魔法を使うのだろう。合唱魔法は、その名のとおり集団で歌うように詠唱して使う魔法だ。

 シンプルな旋律で、詠唱の簡単な言葉。それで発動する。

 その効果は、千差万別。詠唱の内容ではなくて、軍を率いる将によって魔法効果は変わる。

 だけど一つだけ全ての合唱魔法で同一の効果がある。

 それは2つある合唱魔法がもたらす効果の一つで、敵の力を押さえつけるというもの。


「いま1000人以上いるんだっけ?」

「あぁ、そうだ。1200のスティミス兵がお前の力を封じる!」

「まいったね」

「余裕は無いだろう? ジル坊、お前は力の配分を誤った! 自らの魔法で自傷してまでスティミス軍と俺を足止めしたが、お前はボロボロで魔力も限界だ。お前はここで終わる」


 ズィロは自信を持っている。

 彼の言う通りだ。ボクの魔力はもう空っぽだ。飛んで逃げるにしても、ゆっくり飛ぶくらいしかできない。


「今のボクには逃げるだけの力が残っていない……。そのうえ合唱魔法の封印効果で、もうダメだってことか」

「そういうことだ。だが、お前は良くやった」

「たしかにそうだね。ボクは良くやった……捨て石としての役目を果たした」


 ボクの言葉を聞いて、ズィロは「あぁ」と答える。


「なんて思っていたのか?」


 思わずニンマリしたボクを見て、ズィロが眉間に皺を寄せた。


「何を?」

「合唱魔法は予測済みだ!」

「は?」


 ボクは精一杯の声で「チャド!」と叫んだ。

 確かにボクはすでにギリギリだ。逃げるための力は無い。

 でも、使い魔は違う。

 ギュオという風を切り裂く音とともに、チャドが飛んでくる。イヌワシよりも一回り大きなチャドは結構な迫力をもって空を進む。

 そして、少しの間休んでいただけあって、チャドは十分すぎるほど元気だ。


「使い魔か! スティ……」


 背後をみたズィロが絶句する。

 頼みのスティミス軍はチャドに怯えきっていた。

 何だろうと思ったが「ソレル軍だ」という兵士達のざわめきで理由がわかった。

 突如出現したチャドをソレル公爵の軍と勘違いしたようだ。

 いや、違う。

 遠い空の向こうに、小さく数匹の飛竜が飛んでいた。それも武装した飛竜が。

 ソレル軍だ。チャドではない、スティミス軍はソレル軍の接近に気がついて、恐れおののいている。

 そのおかげでチャドは妨害をうけない。バサリと羽で大きく空を叩いてスピードをあげて向かってくる。

 呼応するようにボクが飛翔の魔法でフワリと浮くと、それをみたチャドはボクの肩を両足で掴んだ。


「ジル坊!」

「じゃぁな、ズィロ! ここから先は手分けしよう!」


 空を飛ぶ事にかけて鳥はスペシャリストだ。使い魔として強化したチャドならなおさら。

 凄まじいスピードでボクはスティミス軍から離れていく。肩を思い切り掴んだチャドの足が食い込んで痛いが仕方ない。

 なぜなら……。


『シャァァァッ』


 蛇が威嚇する声と共に、スティミス軍から幻の蛇が向かってきていたのだ。どうやら蛇の形をした何かがスティミス軍の合唱魔法による能力らしい。

 ボクはギリギリで自分の身体ほどある蛇の攻撃をかわし、叫ぶ。


「ズィロはソレル軍と戦うといい! ボクはクリエと逃げるから!」


 実質的な勝利の言葉。

 ボクはとりあえずこの場からクリエ達を逃がせたのだ。これくらい言ってもいいだろう。


「ざけんな! 降りてこい、ジル!」


 随分遠くからズィロが叫んだ。悔しそうな声に「アッハハハ」と心からの笑い声がでた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 三十六計逃げるに如かず、ですね。 今度こそ一息つけるのだろうか
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