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獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第二章 ラザムの弟子たち
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二択にならず

 ボク達がいた建物……監獄にいくつかあった管理塔の一つは燃えていく。

 紅蓮の賢者と呼ばれるだけあってズィロの炎は確実に建物を燃やし尽くすだろう。


「ワァァァァ」


 外では歓声。ボクの魔法で混乱していたスティミス軍は、援軍の到着により勢いを取り戻した。

 さらに、外にはズィロが待っている。建物から出る人間を狙い撃つつもりだ。

 ボクであっても、クリエであっても、おかまいなく。


「ジル・オイラス!」


 炎が広がる部屋で、ビカロがボクの名を叫ぶ。

 それは悲鳴のようだ。


「ビカロ達は皆をつれて森へ」


 ボクは反射的に答える。窓を見つめたまま。


「スティミス軍は? あの野郎はどうする?」

「大丈夫。ボクが対応する」


 ボクはフェンリルに顔を向ける。

 子犬サイズのフェンリルは怪訝な表情でボクを見返した。


「俺は手を貸せぬぞ。これは人の戦いだ」

「焼け死ぬつもりはないでしょ。森へ移動するついでに、でかい図体に怪我人やクリエを載せるくらいはいいんじゃない?」

「振りほどきはしないが、気を付けもしないぞ」


 ハァと息を吐いたフェンリルはブワリと巨大化する。そしてゆっくりとしゃがみ込み「少し休憩したら出発する。焼け死ぬのは嫌なのでな」と言った。


「というわけだからさ、クリエ達は怪我人を乗せられるだけフェンリルに乗せてあげて」

「ジルは?」

「これから外に飛び出すよ。この建物から最初にボクが飛び出す必要がある。だってズィロが狙っているからね」

「ジル・オイラス。スティミス軍はどうする?」

「それは無視していい。ビカロ達は、クリエや怪我人を守りながら森へ」

「森?」

「燃え盛る建物の影に隠れて、森の奥へ。ルルカンを同行させる」


 使い魔である黒猫ルルカンは、ボクの魂の一部を抱えている。だからボクはルルカンの居場所がわかる。先行する彼女達の後をボクは簡単に追える。


「スティミス軍は追ってくるだろう? 誰かがしんがりを務める必要があるはずだ」

「そんなことにはならない。時間がない。あとはまかせて」


 そこまで言ってボクは窓から外へと飛び出すことにした。

 すでに部屋は火傷しそうなほど熱かった。説明する時間は無かった。

 一刻の猶予も無い状況で、ボクは窓枠を強く踏み込み空中で待ち構えるズィロへと特攻する。


「ハッ、俺を先に潰すつもりか!」


 余裕のズィロが連続して火球をぶん投げてきた。

 予想通りの対応に、ボクは覚悟を決めて二ヤリとわらう。ズィロはきっと考えているはずだ。ボクが防御壁を使うだろうと。


「だけど、違うんだ」


 ボクはつぶやいて火球へと突っ込む。魔法による防御をしてしまうと、火球と防御壁の衝突による反発作用で距離をとられてしまう。

 守らないとボクは焼かれてしまうが、反発作用は発生しない。


「まさか!」

「そのまさかだよ、ズィロ!」


 炎を突き抜けてズィロの眼前に姿を現したボクを見て、彼は驚愕した。

 驚愕による判断の遅れ。それがボクを助ける。


 ボクは右手を伸ばして彼の顔面をつかみ、ズィロはそれを阻止できなかった。


「ジル坊、てめぇ!」


 騒ぐズィロを無理矢理に力で押さえつけて、ボクは彼を引きずり地上へと向かって飛ぶ。

 もちろんズィロはなんとか逃れようと抵抗するが、それは許さない。


『ガガガッ』


 きりもみ状態になって、ボクとズィロはスティミス軍のど真ん中に落ちた。

 正直に言えば、もっと苦労すると思っていた。

 だが、予想以上にあっさりと地上へと戦いのフィールドを移せたことにボクはニンマリと笑う。


「なっ、なんだ?」


 落下してきたボク達に、周囲のスティミス兵達は驚いていた。


「わざわざ、敵地に身をさらしてどういうつもりだ? ジル坊!」

「何が選ばせてやるだ。二択じゃないんだ、選択肢は3つ」

「まさか?」

「そうだよ! まとめて相手してやるんだよ!」


 ボクは叫ぶと同時に、魔法を使う。

 それは処刑釘の魔法。

 頭上に放った処刑釘の魔法による鉄球は、上空でパァンと破裂音を響かせる。


「ヒィィィ!」


 周囲で悲鳴が上がる。

 空から降り注ぐ処刑釘はボクにも刺さるがしょうが無い。

 この魔法はそれほど細かい制御はできない。


「それはやめろ!」


 ズィロが殴りかかってくる。


「やだね!」


 そして舞台を地上、スティミス軍のど真ん中に移して、ボクとズィロは再び格闘戦を始める。

 ボクはズィロの攻撃を受けつつ、処刑釘を連続して使う。やたらめったらデタラメに広範囲に、ボクは自分もろともスティミス軍全体をターゲットに釘を振りまく。

 それは無差別の釘の雨だ。


「その魔法は卑怯だろう」

「ブッ……」

「死ぬつもりか!」


 ズィロはなんとかボクの行動を止めようとしているが、止めるつもりはない。

 もちろんズィロと格闘しながら魔法を使うのは楽じゃ無い。

 なんども攻撃を受けて、満足に会話できない状況だが、ボクの笑みは変わらない。

 死なば諸共の計画は、予定通りだったし、それは十分に想定通り進んでいる。


「ズィロは火炎を使えないだろう?」


 へへっと笑いながら、ズィロを挑発する。

 彼の炎は、混乱する兵士の中では使えない。スティミス兵達を巻き込むことになるからだ。


「チッ」


 図星だったようで、ズィロは舌打ちした。

 ボクはクリエ達を逃がすために、スティミス軍とズィロを足止めすることにした。

 それは短時間だけで良ければ成立する計画だ。

 処刑釘をばらまきつつ、ズィロと殴り合う。周囲の兵士達もまとめて相手する。

 兵士達は空からの攻撃に予想を超えて怯えてくれた。

 おかげで、混乱するスティミス軍の中を移動しながら、ズィロと格闘戦をすることができた。

 時間がたてばスティミス軍はある程度の秩序を取り戻すだろうが、今しばらくは無理だ。断続的に鉄釘が降り注ぐ状況は、混乱をもたらすには十分だった。


「ビカロにやられた傷……酷いんだろう?」


 さらにズィロが思っていた以上にダメージを受けていたことが幸いしていた。

 首の傷は、焼いて塞いだとはいえ、それは応急処置だった。

 ボクとの格闘戦で、彼はなんども首を庇っていた。


「で、どうすんだ? ジル坊も、ギリギリじゃねーのか?」

「いいんだよ。皆を逃がせばさ! もちろん死ぬ気もないけどね!」


 ボクの答えに、ズィロが「ハン」と笑って言葉を続ける。


「悪いなジル坊。もうお前に手加減は出来そうない」


 ズィロも覚悟を決めたらしい。彼の目標が変わった事に気がつく。

 ボクを逃がさないようにすることにしたらしい。彼は無理矢理にボクの襟首を掴んだ。


「スティミス伯! 合唱魔法だ! 俺と一緒にいるジル・オイラスを押さえつけろ!」


 そしてズィロは馬鹿でかい声で叫んだ。

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