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獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第二章 ラザムの弟子たち
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紅蓮の賢者

 紅蓮の賢者ズィロ。

 彼の周りではいつも何かが燃えている。

 それは彼が物質を燃やすことに一生を捧げた人間だからだ。

 賢者の塔で、彼はラザムの教えをうけた。

 そして大賢者の知識をもとにいくつもの発見をした。

 功績の一つに鉄を燃やす魔法の開発がある。

 これは鉄を溶かす魔法へとつながり、鉄製武器の量産などで世の中を変えた。

 ズィロは、その功績をもって紅蓮の賢者として有名となった。


「なんでここに?」


 ボクはズィロへ質問を投げながら、火がついて痛い自分の両腕に魔力を一気に流し込む。

 そして、まとわりつく炎を弾き飛ばした。


「王様のご命令だ。スティミス伯に手を貸して聖女を殺せってなぁ」


 ズィロが楽しげに叫んで突っ込んでくる。


「接近戦?」


 攻撃をいなしながら問いかける。

 賢者の塔で手合わせをしたことが何度かある。

 どちらかといえば、ズィロは学者肌で、遠距離攻撃が得意だ。格闘戦ではボクに分がある。


「たまにはいいだろ!」


 そうズィロが返した直後、彼の攻撃を受け止めたボクの右手が燃える。


「またっ」


 最初の攻撃と同じだ。

 そういえば魔力を燃やす魔法を編み出したと言っていた。

 接近戦を望むのは、よほどその魔法に自信があるのだろう。


「良い具合に燃えるなぁ」

「だけどコレじゃ倒せないよ。ボクは!」


 ボクは絡みつく炎を魔力操作ではじき飛ばし、反撃とばかり殴りかかる。

 そうして空中での格闘戦は始まった。


「いいんだよ。俺の目的はジル坊じゃないからな! 聖女だよ、聖女!」


 格闘戦をしつつズィロは楽しげに語る。

 同じ賢者の塔で学んだ者同士、戦闘スタイルは同じ。素手での格闘戦のさなか隙を見つけて魔法をぶつけるって戦い方だ。

 先日に受けたダメージのせいで、ボクは防戦一方だ。格闘しつつ魔法を使ってくるのはズィロだけ。それをギリギリ避けてなんとかしのぐ。


「殺すっていうのか……クリエを?」

「あぁ、そういう名前だったな。三公八伯と言われていても、ここ50年の世界は比較的安定していた」

「争いばかりじゃないか。安定なんて無いよ」


 小競り合いなんて日常茶飯事だ。賢者の塔で引きこもっていても各地の争いの話は聞こえてきた。安定なんてのとはほど遠い。


「ステージが変わるんだよ、ジル坊。あの娘を放置したら、小競り合い程度で済んでいた力関係のバランスが崩れる。戴冠し、王を名乗れば小競り合いじゃあない、本当の戦乱の時代が訪れる」

「だから殺すって?」


 ボクは思い切りズィロを蹴りつけた。格闘戦になって最初のクリーンヒットだ。


「そうだ。聖女が死ねば、元通りだ! 監獄で死ねば良かったんだよ。あの娘は!」


 吹っ飛びながらズィロが叫ぶ。

 そんなの許せるか! クリエが死ねば元通りだなんて。

 ボクは空中を蹴ってズィロへと接近する。


「安い挑発に乗ってんじゃねぇよ」


 だけど予想されていたらしい。

 ズィロは楽しげに叫ぶと、手を広げ言葉にならない何かを叫んだ。


『ゴゥッ』


 燃え盛り、巨大な炎の球がボクへと飛んでくる。

 すぐさま球状防御壁の魔法で対処する。

 考え無しに突っ込んでしまったせいで危なかったが、致命的ってほどでもない。

 魔法はギリギリで完成し、ボクの周囲に透明な魔力の壁ができあがる。

 そして、それはズィロの放った魔法を弾くはずだった。


「学習能力がねぇな! 俺の魔法は魔力を燃やすんだよ」


 彼の言う通り、魔法の壁は炎を弾かず火に包まれる。

 防御魔法すら燃やすらしい。確かにパチパチと音をたて障壁が燃えている。

 赤く燃える炎のせいで、周囲が見えづらい。


「厄介な!」


 ボクは悪態をつきつつ胸に魔力を集中させる。

 そして圧縮した魔力を一気に解放させることで、ボクを中心に魔力の衝撃波を作り出す。


『パァン』


 炸裂音をともなった衝撃波は、球状防御壁を蝕む炎をはじき飛ばした。

 単純な防御ができない炎の攻撃。対処は簡単だけれど面倒くさい。


「まったくズィロの魔法は……」


 厄介すぎると続けようとしたが、ズィロが見つからない。


「まさか!」


 すぐさまボクは最悪の予想をした。

 慌ててクリエのいる塔の部屋へと戻る。そこには予想通りズィロがいた。


「意外と早かったな。さすがはジル坊だ」


 ズィロはボクから背を向けたまま言った。


「あの炎は目くらましだったわけだ」

「まぁな。お前と戦うのが目的では無いんだよ。そこの娘だけを殺すのが目的だ」

「王に命令されたから?」

「俺のパトロンは王様だから、当然だろ。それにキースボイドは、娘に生きていて欲しいらしい。だから、殺す事にした」

「どうしてキースボイドが?」

「なんだ、気付いていなかったのか。ジル坊を監獄にぶち込んだのはキースボイドだ。王様をそそのかしてな」

「なんで?」

「知らねぇよ。なんでも聞いて済ませようとするな。調べろよ、自分で」


 ボクと会話しながらも、ズィロの視線は後ずさり距離をとろうとするクリエから離れない。

 部屋には倒れた数人の男女。

 ビカロも横たわっていた。

 位置関係は、窓の側にボク、次にビカロ、その向こうにズィロとクリエがいる。

 あと小型犬サイズのフェンリルがクリエの側にいた。


「どうした? かかってこないのか?」


 チラリとこちらを見てズィロが言った。彼はゆっくりとクリエへと向かって歩いて行く。


「クリエ、逃げろ!」


 これ以上クリエに近づけるわけにいかない。ボクは叫び、ズィロへと向かう。


「それも予想通りだ。単純だなぁ、ジル坊!」


 バッと振り返ったズィロが笑う。

 直後、彼と目の合ったボクを熱風が襲った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 猪突猛進過ぎるな、ジル坊 賢者の名が泣いてしまう 完全に手玉に取られてますね。 [気になる点] 一方ズィロさんは手加減してっるっぽい? [一言] なんにせよ緊迫の場面! ワクワクです
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