表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第二章 ラザムの弟子たち
47/101

対スティミス軍

「さてと」


 上空から敵であるスティミス軍を見下ろす。

 数はおよそ400人。装備の整った歩兵を主とした軍だ。

 ボクは彼らに向けて魔法を使う。


「処刑魔法、処刑釘」


 集団に対して効果がありそうな魔法だ。

 金竜との戦いで、広範囲に錆びた釘をばらまいたと憶えている。

 早口で詠唱すると簡単に魔法は完成できた。


『ズズズ』


 重い石を引きずったような音を伴い、ボール状の鉄の塊が生成される。

 ボクの手に収まった球体、その正体は錆びた釘が集まってボール状になったものだ。

 それはボクの手の平からフワッと上空に打ち上がる。


『パン』


 破裂音と共にバラバラに弾け、敵の上空から釘の雨を降らす。

 味方を巻き込まないために攻撃範囲は敵の後方に指定した。


「わぁぁぁぁ」


 歓声のような悲鳴が上がる。安全なはずの後方で攻撃を受けた集団は大混乱だ。

 隊の乱れは連鎖し、前線まで広がった。

 予想をはるかにこえて効果があった。


「とりあえず、壊滅させるか」


 ボクはさらに上空へと飛び上がり、繰り返し処刑釘の魔法を使う。

 通り雨のような音を響く。そして断続して降り注ぐ釘の雨。


「上だ!」

「弓兵はどうした?」


 地上のスティミス軍は攻撃への対処がままならない。

 5回目の処刑釘を受けて、軍隊としての手段は崩壊する。

「森へ逃げろ!」


 武器を捨てて逃げ出す者も現れた。

 そのおかげで、侵入を許していた塔の方でも良い流れが来る。


「押し戻せ!」


 ビカロの声が聞こえた。

 彼と数人の人間が、塔から兵士を追い出したのだ。

 事態は好転している。

 塔の入り口付近から慌てふためく十数人の兵士と、それを追う看守がいた。


「あっちは問題無いとして」


 ボクは再び地上全体の様子を見る。

 処刑釘の魔法によって引き起こされた混乱は止まらない。上空から降り注ぐ釘の雨は効果てきめんだ。

 なんとか秩序を持っている部隊は三つ。合計で、およそ100人。どれも、こちらに接近しすぎているがゆえに、処刑釘の攻撃を受けなかった集団だ。

 3つの部隊のうち、一つは筋骨隆々な男で長髪の方が相手している。

 残りは髪が薄い方だ。

 両者とも何とか戦況を維持しているという状況。

 まずは部隊を2つ相手している髪の薄い方に向かって近づく。


「背後から殴りかかるか」


 めぼしい魔法を装備していないため接近する。

 その時だ。

 三騎の騎馬兵が髪の薄い方に向かって突撃している様子が見えた。


「右だ」


 すぐさま大声で警告する。

 ところが髪の薄い男は、騎兵に気付かず近くの兵士と戦っていた。

 距離があるから視界に入っていないようだ。

 放置はできない。

 上空から見ると三騎とも手練れだ。

 瓦礫まじりの地面をうまいこと速度を落とさずに突き進んでいる。

 間に合いそうにない。


「右だ!」


 もう一度言うが、反応が無い。自分の事だと気がついていない。


「おいハゲ! 右から伏兵だ!」


 彼の名前がわからないので、内心で彼を識別していた言葉を発する。

 その声で、自分の事だと気づいたようで、彼はすぐさま右に向き直り騎兵に対して手に持っていた剣をぶん投げた。

 剣はうまく騎兵の体にぶち当たる。馬の走っていた地面が不安定だったこともあり、奇襲攻撃を阻止することができた。

 髪の薄い男は、俺を見てパッと軽く手をあげた。

 頷いたボクは追撃のため、空中を蹴っていっきに近づく。


「ジル、後ろ!」

「カァカァ!」


 クリエの声と、チャドの鳴き声がかぶさった。


「後ろ?」


 何のことかと、バッと後ろを振り返る。

 空中を男が走って接近していた。

 両手が燃えている赤い短髪の男だ。薄手の上着に、分厚い布で作ったズボン。武装というより石工のような出で立ち。ただし、金属製の足甲を身についていて、そこだけが石工とはまったく違う様そうをしていた。

 彼も空中歩行の魔法使って空中を蹴って進んでいる。

 ボクと同じ方法で高速移動しているわけだ。


『バァン、バァン!』


 けたたましい破裂音が連続する。

 彼は速度をさらに上げた。

 急加速にボクの反応が遅れる。

 相手はその隙を見逃さなかった。

 勢いを殺すことなくボクに接近して、ブンと風音をたてた蹴りで襲ってきた。

 なんとか両手で蹴りを防いだが、次の瞬間、両手が燃え上がる。


「なんの魔法?」


 知らないタイプの魔法。燃えているのはボクの体でも服でもない。

 体を覆い、ボク自身を守る魔力そのものだ。


「何だって……そりゃ俺のオリジナル魔法で、研究結果。驚いたろ? にしても、随分でかくなったじゃないか。ジル坊」


 男は顔をボクの顔にグッと近づけ、目を合わせてニタリと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ