対黄金の竜
あたりは暗い。明かりの無い真っ暗闇だった。
闇の中、ドォンドォンという破壊音が間近で響く。
まるで爆発音のようなそれは、背後の壁……いや天井が壊れる音だ。
下からせり上がる存在に押し上げられる。ただひたすらに。
敵は押しつぶすつもりのようだが、ボクを包む防御壁はとても硬い。
押しつけられて、ボクの背後にある天井は壊れていく。
「ギリッ」
歯を食いしばる。
ボクは気を強くもって、魔法の維持に力を込める。
そうして押しつぶされそうなプレッシャーに耐えた。
しばらくそんな状況がつづく。
だけれど、それは永遠ではない。
ややあって、パァッと一瞬で辺りに光がさした。
外へ出たのだ。
監獄の中央塔は、せり上がる存在とボクにより破壊された。
後の支えがなくなり、ボクの身体は外へと大きく放りなげられた。
大きく空に舞い上がったボクの目に、巨大な敵の姿と、破片をまき散らし4つに裂けて倒れゆく中央塔……さらにはそれに巻き込まれたストームジャイアントの死体があった。
監獄全体が視界に収まっている。
ボクは一瞬でとんでもない高さまで打ち上げられたらしい。
背後に雲があった。まるで白い壁のように、敵とボクの影を落とす。
「でかい」
ようやく敵の姿が判明する。
真っ黒い布をマントのように羽織ったゴールドドラゴン。
もっとも普通のドラゴンでは無い。
違うのはサイズ。普通のドラゴンにしてはサイズが大きすぎる。
普通のドラゴンは、大きめの一軒家くらいだ。
だけれど、眼前のそれは、あまりにも巨大だ。すでにガレキとなった中央塔と同塔……いやそれ以上大きな体躯。
手の平にあまるほど巨大なカエルと、小さなハエ。
ボクとヤツのサイズには明確な差があった。
「どうする」
考えている暇は無い。
敵は真っ赤に輝く瞳でボクを捉え、次の一撃を準備していた。
『ガバァ』
音をたててヤツは巨大な口を大きく開いた。視界がヤツの開いた口でいっぱいになる。
その口の奥にチラチラと火花が見えた。
「ブレスか!」
受けきれない。すぐに魔法を使う。
飛翔と空中歩行の魔法。
今度もギリギリだ。何も無い空間を踏み込み間一髪でブレスを避ける。
『ゴォォォ』
ボクの直ぐ側を真っ赤な炎を息が通りすぎ、雲を切り裂いて空へと抜けた。
防御壁がブレスの余波で破壊されてしまう。凄まじい熱で頬が痛い。
そのうえブレスに気をとられヤツの接近を許してしまった。
『バサリ』
大きく羽ばたきスピードをあげたヤツはボクの頭上へと陣取る。
その巨体は、ちょっとした動きでさえあたりの空気をかき乱す。風音をともっなった強風は、雲をかきけす。
風は嵐のように続く。
乱気流に耐えるべく、飛翔の魔法のコントロールに集中する。
しかも飛ぶスピードはかなり速い。油断は出来ない。
そんな状況でヤツが繰り出した攻撃は意外なものだった。
ヤツの黒いマントが波打ち、その一部が伸びてきた。
ほつれた糸のように見えたそれは、何本も飛び出し、束となってボクに向かってくる。意志のある触手のように。
細い糸は絡まり太いロープ状になった。さらに姿は変化し、ロープの先端は鳥のかぎ爪のような形となってつかみかかってくる。
「しまった」
ギリギリ避けたはずが、つかまれた。
その攻撃は背後からで、衣から伸びるかぎ爪は一本だけではなかったらしい。すぐさま身体を翻し、魔力を込めた手刀で、ボクを掴む糸を切断する。
寿命を支払って強化していなければできない芸当だ。
だけれど、その力もいつまでも持たない。
「どうする?」
再び己に問う。
粘るしかない。
すぐに結論を出す。クリエが逃げる時間をかせぐのだ。あとは適当な所できりあげて、全力で逃げる。
戦って勝てる自信は無いが、弱気ではしのげそうもない。
倒すつもりでやろう。
酷い状況にもかかわらず、ボクは「ははは」と声を上げてわらった。
笑うとなんだか腹が立ってきた。平和な日常を壊しやがって……と苛ついた。
ボクの頭上におさまり、逆光により光に縁取られた金の竜を睨んだ。




