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獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第一章 聖女を見いだす
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使い魔の儀式

「ようやく完成だ」


 ボクは四角く赤茶色の祭壇を見下ろして呟く。

 サイズは広げた手よりも一回り大きい程度の小さいものだ。

 鳥のチャドに集めてもらった土で作った赤茶色の祭壇。


「器用なもんだ」


 用も無いのにやってきたビカロが言った。


「ジル坊は意外と器用だ」

「ミャーミャー」

「意外って何だよ……って、ルルカンは祭壇をひっかくな!」


 作りあげた祭壇をひっかき始めたルルカンを引き剥がしつつ、次の作業に入る。


「ちょっとビカロ持ってて」

「猫を投げるな。それでこれが使い魔契約の祭壇なのか?」

「そうだよ。祭壇と魔法……あとは少々の触媒。今回は幻獣の助けもあるから、準備はこの程度で十分」

「へぇ。小説で読んだことがあるが、使い魔契約を見るのは初めてだ。いや、使い魔自体を見るのも初めてになるな」

「使い魔はリスクのある存在だから……使う人が少ないんだよね」


 ボクはツボの破片を手にした。

 一番準備が嫌な触媒……自分の血を用意するためだ。

 使い魔は、術者と魂の一部を融合させた存在だ。そのため、血やそれに準じた体組織が必要になる。

 なので自分の腕を切って、血を出さないといけない。


「儀式が終わったら、この猫……ルルカンの見た目が変わったりするのか?」

「第一段階では変わらないよ」

「段階があるのか」

「いろいろとね……。弱いつながりの第一段階でも、使い魔は普通の動物より遙かに強靱になるし、ボクの魔法の発動点にもできるからね。スタンピード対策には不可欠だよ」


 ただし、使い魔が死ねば、重いペナルティがある。

 魂の一部を失う。寿命が大幅に減ったり、身体の一部が麻痺したり……シャレにならないレベルのペナルティだ。

 だから使い魔を使役する人は少ない。

 しかし、今はそう言ってはいられない。スタンピードまで時間が無い。やれることは全てやる。


『ザクリ』


 陶器で腕を刺したとき、生々しい音がした。

 うへぇと周りの面々を見たけれど、皆は平然としていた。それほど音が大きくなかったのか、薄情者の集まりなのかはよくわからない。

 ボクとしては思いっきり刺しすぎたと思った。刺し傷からジワリと血が漏れ出てきた。

 そんなに痛くないのは幸運だけれど、あまり自分の血はみたくないものだ。


「ビカロ、ルルカンを祭壇に置いて」


 ビカロが頷いて、ルルカンをそっと降ろした。

 黒猫のルルカンは、ボクの目をチラリと見た後、祭壇に置かれたソーセージの切れ端を食べ始めた。


「今のうちだ」


 ルルカンが動かないうちに契約を済ませてしまおう。

 そう思って、サッとルルカンの頭上に右腕をかざす。腕からは滴った血は、ルルカンの頭へとポタリポタリと落ちた。

 続けて魔法の詠唱。

 心に思い浮かぶ言葉を手早く唱える。

 詠唱が終わると、祭壇の四隅から青い炎が立ち上った。

 それは天井すれすれまで立ち上る。

 ゴーッという音を響かせ部屋を青白く照らした炎。ややあって、

 それはグニャリと曲がって見えた。

 同時に気分が悪くなる。

 一応予想していた状況だけれど、実際に起こると嫌な状況だ。

 グッと目をつぶり、スーハーと深呼吸する。


「大丈夫……」


 自分に言い聞かせる。目を開くと炎はまっすぐになっていた。

 炎が動いたわけではない。視界が歪んだだけ。儀式により発生した軽い酩酊状態だ。

 気持ちの悪さは、すぐに消えた。

 立ち上った炎と一緒に。


「おしまいっと」


 ボクはパンパンと手を叩いた。


「案外簡単な儀式なんだな」


 祭壇のそばにしゃがみ込んだビカロが言った。彼はルルカンを観察するように眺めている。

 当のルルカンは儀式前と変化無し。この契約では外見が変わる事は無い。


「幻獣の助けがあったからだよ。本来ならもっと時間がかかるよ」


 自分で傷跡の手当をしつつ答えた。傷薬が思ったよりしみて「いてて」と声が出た。野草の下ごしらえが足りなかったようだ。


「へぇ。面白いものがみれて良かったよ。それで、こいつが使い魔か……本当に見た目の違いはないようだな」

「でも、ルルカン自身は自分が強くなったことを実感しているはず。ボクにも感謝していると思うよ」


 ビカロと話をしながら、同調と服従の魔法を使用する。

 少しだけルルカンを操って外を散歩するのだ。つまりは試運転。


「ちょっと外に散歩」


 ボクが呟いたと同時、ピョピョンとルルカンは跳ねるように動き、瞬きするほどの間に、採光窓に立っていた。


「早いな」


 思わずといった様子でビカロが呟いた。

 ボクはそんな彼に頷く。その間に、ルルカンは外へと飛び出て監獄の壁へ直進し、駆け上がった。


『カカッ、カカカ』


 石の壁にルルカンは小さな爪をひっかけて、垂直の壁を軽々と登っていく。

 周りを注意深く観察しながら登っていく。

 それから偶然近くを飛んでいた斥候虫へと飛びかかった。

 壁を蹴って空中に飛び出したルルカンは、前足で斥候虫の羽を弾く。続けて空中でグルリと身体を捻り、斥候虫の頭と羽の付け根に齧り付いた。


『ガッ』


 鋭い音がして斥候虫の首を折った。

 息絶えた斥候虫は、小さな音をたてて地面に落ちる。

 攻撃したルルカンは、斥候虫を足蹴にして壁につかまり、虫の落下を視線で追っていた。

 兵士が苦戦する斥候虫を瞬殺。

 勝てるとは思っていたけれど、ここまで楽勝になるとは思わなかった。


「良い意味の誤算……だけど、肉の取り合いが厳しくなるなぁ」


 ボクは独房で、ルルカンのパワーアップにほくそ笑んだ。

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