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獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第一章 聖女を見いだす
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意外な相談

 太陽は地平線に近づいて、夕暮れも近いという頃だ。


「よぉ」


 チャドを使っての斥候虫狩りに勤しんでいると、ビカロがスルリと入ってきた。

 執事服に身を包んだ彼は、お偉い貴族の使用人に見えた。


「早かったね」

「急いで帰ったかな。ほれ、おみやげだ」


 ビカロがボクに葉っぱで包まれた何かを投げてよこす。

 縛っていた紐を解くと、中にはソーセージが入っていた。

 すぐさま包みを元に戻しバッと頭上に掲げる。


「ニャッ」


 ボクが掲げた直後、ルルカンがボクの足元に抱きついて、さっと胸元まで駆け上がった。

 危ない所だった。


「これからウルグさんの所へ行くが、結果は成功だ。あと数日すればスティミスから彼の釈放を依頼する書類が届く」

「そっか。あとはウルグがクリエと一緒に監獄を出れば安心だね」

「まぁ……な。もっともスティミスも絶対安心とは行かないけどな」


 ビカロが仕入れた情報を語る。

 ここから馬で1日程度の場所にあるスティミス領は、以前よりお家騒動で大変らしい。

 もともとウルグが投獄に至ったのは、政争での敗北がきっかけなのだとか。

 そんなスティミス領は、今はまとまっているそうだ。

 理由は隣にあるソレル公爵が軍を動かしているから。内部で争っている場合ではないという訳だ。

 なので、スティミス領も平和とはいかないらしい。


「それでも、監獄に比べれば自由に動けるしね」


 ビカロの話を聞いても、やはり監獄から出た方がいいとボクは判断した。


「だろうな。でも、最後はクリエさんの判断次第だ。お前から聞いておいてくれ」

「了解」

「それで、ここ数日の監獄の様子は?」


 今度はボクがビカロへ教える番だ。

 彼が監獄を出て数日、事態は悪くなっている。

 斥候虫による怪我人が多数でたこと。その怪我を治療すべき神官が逃亡したこと。

 逃亡者は神官だけに留まらず、上級看守にもいること。


「そのうえ斥候虫の羽はほとんど青だよ」


 ボクは言いながら、さきほど倒して足元にころがった斥候虫を蹴飛ばした。

 蹴った先には、斥候虫の死骸が山盛りある。

 その数はすでに20匹は超えている。魔法の触媒などに使えるからと取っておいたけれど、さすがに多過ぎかもしれない。

 そして、その羽は殆ど青い。どうやら死骸の羽も色が変わっていくらしい。


「時間が無いな」

「そうだね。監獄は……落ち着いているけれど、ひどいもんだよ」


 ボクの説明を聞いてビカロがなんとも言えないといった表情をした。

 諦めきって笑うしかないといった感じだ。

 ボクも同感。


「まったくだ。外からの物資も昨日から届いて無いらしい。これでは肉が食えなくなるではないか」


 部屋の片隅で鼻を鳴らすフェンリルもご立腹だ。


「ウルグさんが出所したら、彼に援助を頼むことになりそうだな」


 ビカロはボクの報告を聞いて、そう言って出て行った。きっとウルグの所へと行ったのだろう。

 確かに、外部からの助けは欲しいよな。

 そうだな……兄弟子、姉弟子に助けを求めてみよう。

 ウルグが出所したら彼に頼んで手紙を出せば良い。

 あとはこの独房で、自分の出来る事をしようか。

 ビカロが去った後は、ルルカンとチャドを使い魔にするための準備に勤しんだ。


「ジル。忙しいから……ごめんね」


 その日は、クリエも忙しかった。パンと水を持ってきたと思うと、さっと帰っていった。

 看守達の怪我を手当するため、大変なのだ。

 使い魔にするための準備、斥候虫を狩る、ボクも外の変化に対処するために忙しい一日をすごした。

 そして夜。ボクが寝ようと思ったときのことだ。


「ジル・オイラス……」


 鉄扉の向こうで誰かがボクを呼んだ。

 知らない声だった。


「そうですが……なにか?」

「看守エフーボだ。ジ……いや……お前に相談があってきた」

「ボクに? どうして?」


 知らない人が相談を持ちかける理由がわからない。

 第一、ここに看守がやってきたのは始めてだ。


「あの下働きと、ノーベル殿の話を聞いて、この状況について相談することができるのはお前だと思った」


 下働きというのはクリエで間違いないけれど、ノーベルって……誰だっけ?

 まぁいいか。

 とりあえず怪我の治療法と、斥候虫の対処法のアドバイスが、ボクの知識だと考えて相談に来たのは間違い無い。


「それで相談っていうのは?」

「この監獄を守る方法だ。上級看守は逃げても大丈夫かもしれないが、我らが持ち場を離れれば罰せられる。囚人も出る事ができない。この状況で、スタンピードをやり過ごさなくてはいけない」

「確かにそうですね。それに、これからは外の物資が届くかどうか不確定だし」

「そっ、それは……」


 看守は狼狽えていた。外からの補給までは考えていなかったのだろう。

 だけれど、鳥のチャドを通して見たところ、街道にも魔物がいた。

 何気なく見ていて発見するくらいだ。おそらく斥候虫の瘴気に誘われて他の魔物も集結しつつあるのだろう。

 そうなれば、この監獄へ向かってくる馬車が魔物に出会う可能性が高くなる。

 監獄のために、無理をしようとする商人がいるとは思えない。

 特に監獄を運営する神殿は万年金欠。監獄のための予算はかなり低い。囚人を働かせて、利益をピンハネしなきゃいけないくらいに。


「でも、その状況で出来ることはあります」


 ボクは断言する。

 この状況は予想していなかったが、自分が所長であればどうするかと考えたことはある。

 師匠が言うところの、当事者思考というやつだ。

 今回はそれが役に立ちそうだ。いくつかアイデアがある。


「その、出来る事は……」

「2つあります」


 弱気な看守に、ボクは意図して強気な声で答えた。

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