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獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第一章 聖女を見いだす
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料理長の家で

 籠をかかえ、深くフードを被ったクリエが微笑んだ。

 ボクは籠の中で丸まる黒猫ルルカンごしに、そんな彼女の姿をみていた。

 早朝の優しい日差しを背にして彼女はとても張り切っていた。


「なんだかジルと一緒にお出かけしているみたい」


 同調をかけているルルカンに、クリエが言った。

 彼女は街道を進んでいる。

 料理長の家が目的地だ。

 彼女と話をしながら街道を進む。

 とはいえルルカンは彼女が抱えている籠に入っているので、その視界のほとんどは彼女の上半身と、背後に広がる青空だけだ。


「にゃ」

「一回鳴いたら、問題無い。二回鳴いたら、無事解決。三回鳴いたら、一度撤退……それから」


 昨日、打ち合わせした内容をクリエが反芻する。

 猫も鳥も言葉は話せないので、鳴き声の回数で意思疎通することにしたのだ。

 そして、そんなことをしているうちに目的地へとたどりついた。


 柵に囲まれた一軒家。

 上空からチャドの目を通して見る家は、煙突のある赤い屋根の家だった。

 料理長という立場は高いのかもしれない。


「あぁ、夫から聞いているよ。でもねぇ、本当に大丈夫なのかねぇ。変な事はしないでおくれよ」


 ルルカンの耳に、料理長の妻の声が聞こえた。迷惑とも聞こえる怪訝な口調に、一気にやる気が失せてくる。


「きっと、良くなるお手伝いができます。えぇ」


 対してクリエは穏やかな声で応じていた。しかし、彼女の持つ籠が震えていた。


「にゃ」


 操ってはいるがルルカンはしゃべれない。元気づけようとしても、小さく鳴くだけでもどかしい。


「フフッ、ありがとう。ジル。がんばろうね」


 それでもクリエの助けになったらしい。ボクにだけわかるように笑って見せたあと、彼女の震えは収まった。


「ジル。着いたよ。お願い」


 少しだけ籠が揺れたあと、クリエが籠を軽く叩いて合図した。

 ボクはルルカンを籠から飛び出させる。

 そして、彼女の腕を駆け上がり肩に乗った。


 真っ青な顔で、息の荒い少年がベッドに寝ている姿が見えた。

 彼は立派なベッドのうえで、うずくまるようにしていた。

 清潔なシーツと、メイドが二人いる状況から、大事にされていると思った。


「にゃにゃ」


 ボクは少年を一瞥して、ルルカンを2度鳴かせた。


「え? もうわかった?」


 クリエが驚いたようすでルルカンを見つめた。

 彼女の顔がすぐ側にあるようで、ボクの顔が熱くなる。彼女の瞳に映るルルカンは、何処吹く風で、彼女の肩で窮屈そうに見えた。


「にゃにゃ」


 もちろん、少年の症状を把握し、対処法も思いついたので二度鳴く。


「わかりましたので帰ります。対処方法はノーベル様にお伝えします」


 クリエはそう切り出すと、簡単なやり取りをして足早に料理長の家を後にした。

 料理長の妻は、終始怪訝な様子だったがクリエは自信満々に応じていた。


「にゃー」


 ルルカンを鳴かせて終始応援していたが、家を去り際に、うるさい猫だねといわれてしまった。

 ボクが頼まれていた案件だったら、助ける気も失せて帰っていたところだ。

 クリエの優しさに感謝しろよと心の中で呟いて、溜飲を下げた。


 少年の症状は簡単なものだった。

 それは瘴気中毒。

 ある種の魔物が放つ毒ガスのようなものに、身体を蝕まれたわけだ。

 神官の治癒で治っても、根本原因が取り除かれなければ再発する。

 根本原因さえ取り除ければ、薬は簡単なもので対処できる。

 クリエが帰ってきたら、薬の作り方を教えることにしよう。


 そして……。


 ボクは瘴気の発生源を始末することにした。

 チャドを操り上空から調べていく。

 森の木すれすれを飛び、瘴気の気配を少しでも感じようと神経を集中させる。

 時間がかかるだろうと覚悟していたが、すぐに瘴気の発生源を見つけることができた。


 見つけたのはチャドだ。


 チャドの心が地上の脅威に反応した。本能というべきか、一瞬でチャドの心を恐怖が支配する。

 ボクは服従の力を強め、チャドの自我を完璧に掌握して、瘴気の発生源に近づくことにした。

 

「やはり斥候虫か」


 予想通りの魔物を、料理長の家近くで見つけた。

 外見は大きなカブトムシ。人間の膝丈程度の長さで、2本の角が特徴的な虫の魔物。

 あとは禍々しい色合い。赤い体躯に、青い斑点。

 それは「キキッ、キキッ」と、小さく鳴いていた。


「カァ」


 すぐさまチャドで威嚇する。

 自分より小さなチャドを見て、すぐさま斥候虫が襲いかかってきた。

 バサバサとこれみよがしに羽を鳴らして、接近してくる様子は、奴の余裕を示していた。

 弱いものに強い。師匠の教え通りの性格をしている斥候虫に安心する。


「さぁ、せいぜい粋がってろ。今日がお前の命日だ」


 独房のベッドに目をつぶって集中しながら、ボクは余裕をもって呟いた。

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