表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第一章 聖女を見いだす
1/98

プロローグ(少女の視点)

「カハ、カハッ」


 乾いた咳が止まらない。

 暗い牢獄に、私の咳と、台車の車輪が床を叩く音がひびく。

 幼き頃、がんばっていれば報われると聞いた。あれはどのくらい昔だろうか。

 何かを信じるとすれば、その言葉。


「いつかはきっと救われる」


 自分に言い聞かせるようにつぶやく。

 良い未来を信じていたが無理なのかもしれない。

 それどころか悪化している。私の体調だけではない、この監獄の全てが悪い方へと向かっている。

 もしかしたら世の中全部が悪くなっているのかもしれない。

 ずいぶんと昔、囚人の言った「希望は毒」という言葉が頭に浮かぶ。


「おい、牢を掃除しておけ」


 台車を引く私に、兵士の一人が鍵を投げた。

 鍵のマークは最奥の部屋を示していた。一番質素で、たまに悲鳴が聞こえる部屋だ。

 きっと新しい人が入るのだろう。

 大きな鍵を使い、分厚い鉄の扉を開ける。

 部屋は静かだった。天井近くの採光窓から差し込む光が、苔で滑る床を照らす。

 そこには干からびた死体もあった。

 それはまるで未来の私に見えて、涙が出た。

 頬につたう涙を無視して、乾いた死体を、いつもは囚人の食べ物を運ぶ台車に乗せる。

 それは酷く軽くて、酷くもろい死体だった。

 今度ここに入る人はどのような人なのだろう。

 その人は、今の私のように涙を流すのだろうか。


「カハッ。カハカハ」


 再び咳が出て、私は現実に戻された。

 物思いに耽る暇さえないようだ。

 すっかり片付いてがらんとした部屋を後に、私は台車を押して帰ることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うお! テクニシャン!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ