レーラの街までの道のり
おんぶされながら森の中を進んでいく。シアナさんのおんぶは凄く安定していて、安心できる。魔力は、魔族の命とも言えるほど魔族にとって大事なものらしいのだが、その魔力が枯渇しているので僕は今病人と同じような扱いなのだ。だから優しくおんぶされている。揺れが全くないし、とっても快適。
「魔力の枯渇状態はほんとに危ないんだよ、場合によっては身体が消滅するから」
「…こわ」
「でもあんだけの量の魔力放っておいて、その程度で済んでるなんて…ムイラちゃん、あんた相当魔力持ってるのね」
「まぁ、吸血鬼は全体的に相当強い気出魔族だからなんだろうけど、弱点が多いのが玉に瑕よね」
確かに、吸血鬼は日光がダメで、あと、流水がダメとか銀がダメとか聞いたことがあるな。だけど、僕も実際に吸血鬼になってわかったけど相当スペックは高いみたいだよね。力も強いし足も速いし、魔力量も多いらしい。
「シアナさん…ちょっと、血が吸いたいかも」
「まじ?ちょっと待ってて」
そう言ってシアナさんは僕を木陰に置くと、一直線に森の奥へ行く。
3分ほどで、シアナさんが魔獣を持って凱旋した。
殺してある魔獣の首からは、鮮やかな血液が滴り落ちている。首を一太刀で切られていて、首の骨も折られているようで、首がおかしい方向に曲がっている。
僕はその結構悲惨な光景よりも、その滴る血に目を取られていた。
「元人間としては複雑な心境だけど、物凄く美味しそうだし、垂れているのを見ると勿体無く思ってしまう…」
「なら早く飲みなさい、さっき魔力だいぶ使ったでしょ?そりゃ疲れて空腹になるわよ」
それを聞いてすぐに魔獣の血が溢れる場所に齧り付く。
口の中に広がっていく血液が、吃驚するほど美味で、血を吸いすぎて、魔獣から血が抜けて干からびていく速度が高濃度の塩酸をかけたかのようだった。
「ん…ぷはぁ!ねぇ、これすっごくおいしいよ!」
「…そう、よかったね…」
それを間近で見ていたシアナからすると、完全に恐怖映像だった。
ムイラが美味しそうに血を飲んでいくと、魔獣はどんどん窶れていく。そしてムイラは口周りを血で濡らしながら、目を輝かせているのだ。
「血ってこんなに美味しかったんだぁ」
「…」
血液を摂取して気分が高揚している。
逆にシアナさんは少し呆れたような表情をしている。確かに今自分は雪が降った時の子供のようなのかもしれない。
「えっと、レーラって街はこのまま真っ直ぐなの?」
「まぁ、そうね、途中から大通りを通ることになるからちょっと不安だけど」
なるほど、大通りがあるのか、街から街に行く大通りなのかな。僕たちは外道を通ってきているから普通は大通りを辿って行くのかもしれない。
「大通りに入って、そこを長く歩いて行って途中で大通りから抜けたら、そこ真っ直ぐ行くとレーラが見えるはずだよ」
結局外道を通ることになるみたい。
「あ、痛!」
「大丈夫?もう、血を吸って頭浮かれてんじゃないの?」
「おい!それはなんか酷くない?」
そんな会話をしながら足場の悪くて視界も悪い場所を歩いて行く。
木が複雑に絡まっていて、頭をぶつけそうになる。さっきぶつけたけど。でも木が沢山あるおかげで木漏れ日すら無くて安心して進んでいける。
万が一のことに備えて索敵はしているが、今のところは僕の血の匂いを探る能力みたいなので頑張っているけど、全く見つからない。見つかるのはシアナさんの血の匂いだけ。
「ここからあとどれくらいかかるの?」
シアナさんは何度かレーラに行ったことがあるみたいな言動を見せるし、この道も通ったことがありそうだから聞いてみた。
「うーん、大通りまであと、1時間は歩くね」
「まじ?」
「うん、まじ」
「でも大通り過ぎたら結構すぐだよ」
結構森の奥にあるんだな。
そう思いながら先を進む。すると、木が絡まっていた地帯を抜けて、すこしひらけた場所に来た。
「走ってもいい?」
「私も走るよ?」
するとシアナさんが地面を強く蹴って相当早いスピードで走っていく。
僕も久しぶりに走るかー
そして自分も地面を蹴る。まぁまぁな速度で走っていくが、懸念事項が少しある。
「うわー木が邪魔で当たりそうで怖いなぁ」
そう、木があるから正面衝突しそうで怖いのだ。ただでさえスピードが出ているからそのままぶつかったらめっちゃ痛そうなのだ。
「シアナさん、すっごく滑らかに避けるなぁ」
自分の右斜め前くらいをシアナさんが走っている。その走りは綺麗なフォームで、上手に木を避けて走れている。相当慣れているのだろう。
「ムイラちゃん、さっき一時間って言ったけどあれは、歩いたらって意味だからこのスピードで行けばすぐ着くよ」
それならすぐ着いてしまうのでは?
お、ここは一直線空いている。ここで本気で地面蹴って進もう。ちょっと怖いけど、やるか!
「ほっ!」
「ちょっ、ムイラちゃん!?速すぎだって!そのスピードじゃ…」
うおー!風がとっても気持ちいい!
空を飛んでるような気分で、地面を蹴り続ける。風が涼しくて、ほぼ同じ光景だけど、視界が目まぐるしく変わっていってとても面白い。
お!この先が大通りなのかな?
「あ、やばい、すぐ止まれないっ!」
ドォォォォォン!!!
「いてて」
「何かが飛んできたと思ったから盾を突き出したが、その盾が使えなくなるほどの威力とスピードで飛んできたのが、子供だとはな…」
ん?この声、聞き覚えが?
「ん?お前、まさかあの時の…!」
嘘、なんで門番の奴がこんなところにいるの?
「ムイラちゃん!あれ?」
「冒険者たち…なんでよりにもよってこんなときに」
ムイラの全速力の突進はスナイパーライフルくらいの威力があります。