神様に会いました
「ん?」
ふと目が覚めて辺りを見渡す。真っ白な世界が広がっており、神秘的に見える。神秘的に見えるのは輝かしくも、暗いところはしっかり暗い、メリハリがあるかのような城の内部にいるからのようで、真っ白に輝く景観に凄惨な過去があったような雰囲気を漂わせる。
刹那、ある重大なことを思い出す。
自分が山で殺されたことだ。
物騒な話に聞こえるが、実際に起きたことなのだ。自分は自然が好きなので、一人で山の新鮮な空気を吸いに来ていた矢先、何故か居た自分のことを酷く嫌っていた男と女が、崖から突き落とした。正直勝手にあいつらが嫌ってただけなのに何故殺されなければならないのか全くもってわからない。
あいつらの言い分は、キモイだとか人任せのクズだとか、こちらの事情も知らず、喚いていることなのだ。何故殺しまでする必要がある?
うーん、理解が追いつかない。悪い所で行動力があるんだからほんと。
少し気持ちが入ってしまったが、まぁいい。
それより、この状況だ。死んだ後なはず、生きているならこんなところにいない。それを考慮して色々考えていると、先程から見えていた神々しい扉が開かれ、中から煌びやかな相貌でいる二人、優しい目をした美人な女性と、爽やか系のイケメン?みたいな人が出てきた。
「…もう起きていたのですね」
「案外起床は早かったようだな」
「…あ、…えっと…」
自分はコミュ障だ。流石にこの状況下では、いかにもこの場所に詳しそうな二人に話しかけようとはしたが、人に話しかけるのが苦手なので案の定この有様だ。
「ははは、大丈夫だ、そんな緊張するな」
男の人は笑い、余計に自分が哀れで恥ずかしくなる。
「取り敢えず、御託はここまでにしましょう、ナギ」
すると、ナギと呼ばれた男の人が、その言葉に反応を示す。
「はいはい、わかりましたよ、ナミさん」
この二人は、ナギという名の男の人と、ナミという名の女の人らしい。
「単刀直入に言います。あなたは死にました」
「…そうみたいですね」
「そう。それで、君は厭世的ではあったけど基本的には楽しく過ごしてたし、面白い発想だったから、僕とナミは君を気に入ってたんだ。なのに…ね」
「君、月明柚輝は殺されてしまった」
なんで僕の名前知ってるの?あと、厭世的だったことも知られてるし。
でもまず今僕は死んでる訳だし、この状態がおかしいのか。いや、死んだことないからわかんないけど。もしかして、神様的な存在だから知ってるとか?
そんな思考を繰り広げていると、何かを思い出したようにナギさんが言う。
「あ、そうだった、言ってなかったね。僕たちは神様だ。もっと細かく言うと、
僕は厄除の神様で、ナミは」
「私は神様だった、の方が正しいです。私は冥界の女王で、死を司り、ナギが生を司り、私たち二人で輪廻と転生の管理をしています。」
本当に神様だった、しかも神様の中でも結構上の方の立場っぽい。
「そして、イザナギとイザナミ、だから渾名がナギとナミなんだ」
正直混乱している。急に色々な話が入ってきてこれをすぐ理解する方がむずかしいだろう。
ただ、自分でも飲み込みは早いほうだとは思っている。えっと、ナギさんがイザナギで、厄除の神様で、生を司っていて、ナミさんが、冥界の女王で、死を司っていて、二人で輪廻と転生の管理をしている。お!綺麗に纏められたっぽい。と、頭の中で一人ではしゃいでいると、ナギさんが言う。イザナギ様って呼んだほうがいいかな?
「僕たちは昔日本を作った神様だから、日本の人たちの、いや、あの世界の管理がメインなんだ」
「す、凄いです。規模が凄く大きいです。えっと、あの、それでは僕から質問をしてもいいですか?」
「もちろんいいですよ」
「えっと、イザナギ様とイザナミ様がここにいるということは、ここは輪廻する者と転生する者の待機場所のような場所なのですか?」
思い切って発言してみた。やはりこういうのは僕には向いていない。異常に精神力のようなものを使った気がする。
「少し違います。本来はここに来る前に輪廻と転生は済ませてしまいます」
「それではなぜ僕は…?」
「それは私たちがあなたのことをそう簡単に終わらせたくなかったからです」
「あなたは今まで数々の人生を歩んで、つまり輪廻を繰り返してきて、しかもあなたの本領を発揮できずに終わっている。それに輪廻の繰り返しすぎでメンタルが擦り減っています。なのでこれ以上輪廻をすると精神が完全に破壊されます。よって輪廻はこれ以上できません」
「でも同じ種族に転生することはできない。だが僕たちは君の素晴らしい思考能力が華を開くことを望んでいる」
じゃあ人以外の知的生命体として生まれないといけないのか。地球以外のところで生まれることになりそうだ。いや、地球外生命体がいるかもわからないから何とも言えないが。
「でもここで問題が起きちゃった」
「え?」
「君をどうにかして僕たちの管轄の世界に転生させると、そこの世界のバランスが崩壊しちゃうんだよね」
え?
「君は気づいてないかもしれないけど中々高スペックな力を持ってるんだよ。だから君を人間以外にすると、全てを滅ぼしかねない」
「なので僕たちも、間接的だけどよく関わっている世界の凄くいい後輩の神様に君の魂を譲ることにしたんだ。君の生き様を見せつけてくれ」
な、なるほど…。
「あ、やばい!もう時間じゃん!神様も忙しいからね、じゃ、あとは頑張って~」
「え!?ちょっとまだ心の準備g」
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えっと、いろいろ教えてくれたけど酷いよ。神様。急すぎるって。
あのあと謎の力で吹っ飛ばされて気を失い、目が覚めると、さっきの場所に似ているが、雰囲気が少し違う場所に来ていた。
「はぁ、先輩。手荒に魂は扱っちゃダメだって言ったのに」
「えっと、あの、あなたは?」
「ああ、お前が先輩方が気にかけていた柚輝くんか。初めまして、オイラはルイス。罪と罰を司る神様さ」
「まぁ、お前には先輩のお墨付きがあるからというか、そうお願いされたし、ちょっぴり特別な手続きをさせてもらったよ」
「あの、その特別な手続きとは…?」
「それも言いたいところなんだが、オイラはそこまで強い神様じゃないから、お前を長い時間ここに留めさせることはできないんだ。ごめんな。じゃ、オイラの世界で楽しく過ごしてよ。たまに干渉させてもらうかもだけど、そのときはよろしくな」
…え?
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…。
散々振り回された。精神力が持ってかれた気分だ。一気に色んなことが起こりすぎて、頭がぶっ壊れそう。
そこで疲労を表す溜息を吐いて、前世を回想する。
ただの陰キャではあった。それ以外にも変な奴だとは思われていたようだったが、忌み嫌うほどのものではなかったはず。その中で自分ができないことができる者、自分の持ってないものを持っている者に嫉妬心を抱いていたのかもしれない。同時に劣等感も抱いていた。頑張ってもうまくいかなくて、陰キャ故、周りを気にしすぎて迷惑をかけたりもした。それでも毎日が楽しいと思い込むことで今まで生きてきた。それを無駄に感化されて僕を異常に嫌う人間に人生を終わらされた。少なからず、将来に期待もしていたので、最悪な気分になった。
そこで分かったのは、自分は人間を避けてきたこと。人間が怖かったこと。
色んな修羅場のようなものを駆け巡ってきた。結果、人間を恐怖の対象として捉えた。だが、復讐したいという気持ちもある。そんな複雑な心。
人間は嫌いだ。良い人も少なからずいるのはわかっている。でももうたくさんだ。
触ったものを避けられる。靴を隠される。ありもしない噂を流される。しかもその噂は消えることなく、真なものと認識された。
しっかりいじめられるということこそ無かったが、辛かった。そんな前世。
今世は本当の意味で楽しいと良いな。そう思いながらたどり着いた世界で目を開ける。
なんか、暗くない?
転生と吸血鬼が好きです。ありがとうございます