東京次郎 【01 ヒューマンドラマ】
東京が嫌いだった。
あそこに行けばなんとかなる。みんなをそう思わせる魔物のような町だと思っていた。恐怖しかなかった。
そして、興味がなかった。福岡が都会だった。好きな街、憧れの街だった。
自分の中で一番の都心だった。
九州の真ん中あたりの田舎で育ったから、九州の覇者である博多が王様だと思っていた。
だから大学は当然、福岡を目指した。
実家の財布の大きさの問題で私学は無理、とはいえ九大は無理なので、北九州の公立の大学に進学した。一浪してやっとだった。
海も近く、自然にも恵まれている。
食べ物は美味しく、家賃も東京のようにべらぼうに高くない。
バイトをして、学校に行って少しだけ勉強して、友達ととくに内容のないような話をして、笑って、くだらないことで不機嫌になったりして、概ね順調な大学生活を送ったと思う。
で、問題は就職だった。
希望は博多だった。大学に進学し、博多にはたびたび出かけてはいたが、まだ使いこなしてはいなかった。
博多で働き、博多で遊ぶ。博多を使いこなす。それが自分が思い描いた、大人の自分だった。
しかし、おもったようにことは進まない。
就職が決まらなかった。
しかし、なぜか東京の大手の会社に引っかかった。
「嫌なら帰ってくればいいじゃん」
「あんな大きいとこもったいないよ。うちの学校から行った人なんていないと思うよ」
友達の思いやりのある助言や面白半分の後押しに背中を押され、とりあえず東京へと出た。
恐々だった。