タツオ 【02 ヒューマンドラマ】
日中をだらだらと過ごし、夜は熟睡できず、出かけるのはコンビニだけだった。
ある小雨の降る真夜中、コンビニからの帰り道で小さなビルの陰で立ち尽くしていた猫と出会った。
奴はやぶにらみで空を見上げていた。
「一人か?」
何も言わない。ちょっとは鳴け。
「俺もだ」
「ふにゃん」
でかい図体でふてぶてしいのに、声はかわいらしい。
「雨、もっとひどくなるぞ」
「・・・」
まただんまりか。
「行くとこないのか?」
「にゃん」
おっ、いい返事。
「うち、来るか?」
「にゃあ~ん」
初めて太い声ではっきりと鳴いた。
猫に近づくと、奴はこっちをはっきりと見返してきた。手を伸ばしても逃げない。雨粒は大きくなりどんどん増えている。
僕は小さな雨粒を長めの体毛にびっしりとまとった茶トラの猫を抱えて、古いマンションまで駆けた。
鼻先だけでなく、のの字に丸まったタツオの作った空間にさらに顔をうずめていくと、奴は「にゃあ~」と不機嫌な声を出して、伸びをすると同時に僕の顔を押しのけた。
自分が甘えたいときは、こっちが寝てても何をしててもお構いなしのくせに。
「わがままな奴」
そうつぶやくと、タツオはのっそりと立ち上がり五、六歩あるき、またゴロンと横になった。
わがままでかわいい奴だ。
タツオは弱ったいまの僕の命綱。