意識高い系男子の憂鬱 【04 恋愛】
飼い犬に手を嚙まれるどころではなかった。
恵梨香はマウントをとってきたのだ。
結婚のことを再度ほのめかすと、いくら暇だからって、結婚って言われてもね、と恵梨香はつまらなそうに言った。
新之助はいきり立つ。
なんだよ、その言い方。ちょっと仕事がうまくいってるからって調子のりやがって。ふざけんな。
電話を切って十日間、二人はそれから何のやりとりもしていない。
会ってなくても電話やちょっとしたラインのやりとりをしていたので、恵梨香の不在を大きく感じる。
コロナで会社がなくなれば、新之助の人間関係は恵梨香のみだった。
まさかこんなに時間に苦しめられるとは・・・
何もすることのない日々が新之助を消耗させた。
寂しいとは思いたくなかった。認めると一気に波にのまれて恵梨香の前に跪きたくなってしまう。
でも、それを認めなかったとしても、不安は無視できなかった。
自分はどうなるんだろう。これまで順調だっただけに不安はひとしおだ。
そんな気持ちを吐き出す相手もいない。自分の生活はこんなに儚く不安定なものだったのか。もっと慎重に頑強に積み上げてきたと思っていたのに。
やはり恵梨香の心を取り戻すしかないのか。自分のプライドを削って。
今度は自分が捨て犬のように恵梨香にすがってみせればいいものを、どうしても新之助はそれができない。
恵梨香がそれを求めているのも薄っすらと感じていた。
結婚の条件は明確なのに、どうしてもそれをしたくない自分はやっぱり暇な時間を埋めたいだけで、恵梨香への愛情に欠けているのかもしれないのだった。