意識高い系男子の憂鬱 【03 恋愛】
二十代の恵梨香は自分との結婚しか考えていなかったと思う。
一人暮らしの自分の部屋に通ってきては、掃除、洗濯、料理をしてくれ、立ち仕事は辛いだろうとふくらはぎを細い指で揉んでくれた。
恵梨香は実にかいがいしかったが、自分は仕事が楽しく、彼女の結婚願望を気づかないふりをした。無視したのだ。
そんな自分の態度にうんざりしたのか、恵梨香は三十でネットでの集客を分析するマーケティングツールを扱う会社に転職した。
中規模の専門商社の一般職でお茶くみをしていた女に何ができる。
すぐに根をあげるだろうという新之助の予想に反し、恵梨香は仕事ができた。
いまはコンサルタントとしてマネージャーのポジションに就いている。
「でも、いまは仕事が忙しいし」
どうでもいいしというふうに、長い沈黙の後に恵梨香が言う。
だんまり合戦に負け、仕方なく口を開いた感じだった。
自分が邪険に扱っても、浮気をしても、雨に濡れた子犬のように恵梨香はついてきた。
自分は余裕たっぷりにゆっくりと、ときどき思い出したように後ろを振り返れば、それでよかった。
上目遣いで、ちらの機嫌を窺いながら、こちらを見ながら、そこに恵梨香は当然のようにいたのだ。
そんな恵梨香はいまはもうどこにもいない。
冷静に考えれば、まだ二人が付き合っていることのほうが不思議なのだ。
最近は一か月会わないこともめずらしくない。
最後のセックスをしてからもう半年は経っている。
それで結婚?
我ながらどうかしている。
でも、終わりそうだから、いっそ結婚をする。長い付き合いを経たカップルが結婚する流れとしてはそれほど不自然ではない。
東京は人にあふれているのに、意外に出会いは貧弱なのだからそーゆー決定をくだす人もそこここにあふれている。
う~ん。
つまらそうな恵梨香を前に、どうやったらこの女にもう一回火をつけることができるのかと、ハードルを与えられれば真面目にそれを越えることばかり考えてしまう意識高い系男子の新之助は考えこんだ。