意識高い系男子の憂鬱 【02 恋愛】
1.5流の都内の私立大学の経済学部を卒業した新之助は、全国に二百店舗以上のファミリーレストランを展開する東証一部上場企業、株式会社ポジティブに入社し、店長を経て、本社へ異動。
総務、経理、メニュー開発、事業統括部を経て、いまは経営企画部で課長として働いている。
トップの扱いではないが、出生コースにのっていると思う。
きついだけの店舗勤務を卒業し、本社での異動を繰り返しながら肩書きをあげていく作業はとても楽しかった。充実していた。
でも、それももう終わりかもしれない。
コロナが発生し、新之助はこの丸二か月、まともに働いていない。
会社から許されているのは週イチのリモート勤務のみだ。その勤務にしても仕事はない。
上司からは、数字をまとめる必要は当分ない、それより経費削減のために休んでいてほしいと言われている。
会社は政府からの救済制度を利用しているので、給料は出ている。
最初の一か月は有給だと思えばいいと楽しんでいた。しかし、浮かれた気分はすぐに不安に変わった。
会社は元に戻るのか、自分は元に戻れるのか、解雇はなくてもこれまでのような本社仕事はもうできないかもしれない、今更体力的にキツイ店舗勤務に戻るのは嫌だ、嫌だ、嫌だ。
1LDKのマンションに閉じ込められた新之助は鬱々としてくる。
そうだ、自分には恵梨香がいる。というか、いた。
同じ大学を卒業した恵梨香とは二十歳からの付き合いだった。
時間もできたし、この機に結婚するのもいいかもしれない。
真面目な新之助は生産性のない日々が耐えられなかった。何か結果が欲しかった。
変化は上昇に富み、進んでいるという実感に満ちていた幸せな会社生活を送ったせいで、停滞と後進を人々に強いるコロナの日々は新之助の心を強く蝕んだ。
結婚すれば自分の人生のステージはまた一段とぐっとあがる。
これはいい。
新之助の心は久々に華やいだ。